本借りるだけでデートするとかマジですか?

《これで世界の平和は保たれた......俺、やったよ。父さん》

 完。
 本を閉じて、軽く息を吐く。読み終わってしまった。再び表紙を眺め、親指で優しくこだわられた紙質を噛み締める。

(ロニファかっこよかったな)

 無事に世界を守りきった英雄へ、想いを馳せる。こいつがいなきゃ、地球は滅びたからなぁ。

「こっちじゃん!私服モノトーンなのにね!?」
「やっぱり好きな子には柔らかい系着て欲しいでしょ......!!」

 図書室の受付で何やら騒がしくしている女子二人のせいで、現実へと引き戻された。女子二人とは、俺にデートコーデを組んでくれるらしい早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんだ。視線を送ると、また受付に隠れていく。
 もぉ、さっきからなんなんだ。HRが終わり次第図書室集合と伝えられていたのに、来るなり待っていろと言われ、読みかけだった小説で暇を潰していたんだけど。
 隣の席から勢いよくバッグを持ち上げ、遠心力でそのまま肩にかける。受付までの動線上にある返却ボックスに本を入れ、受付に手をつく。

「あの〜まだですかね??俺、本読み終わっちったよ」
「もうちょっと!!」
「買い物行く時間無くなるって〜〜」
「文句言うな!!的外れな服買ったって意味ないだろ!!」
「早柚ちゃんこわぁぁい......」

 早柚ちゃんに怒声を浴びせられた俺は、受付を背もたれにしズルズルその場に座り込む。的外れって、最近の流行りの服装じゃないとみたいなことか。
 手持ち無沙汰でスマホを開く。
 賢吾とのメッセージ履歴の最新は、先程の【通話 05:56】。最後感じ悪かったよな。
 俺は、画面の上で親指を迷いなく滑らせた。

【さっきは言い方きつくてごめん】

 送ってはみたけれど、既読は......付かん。ん"ー!送ってすぐ付く方が怖いか......
 スマホを尻ポケットに入れて、図書室を徘徊する。
 次借りる本を散策していると、受付で女子二人がキャッキャしながら、バッグを肩にかけたり背負ったりしているのが目に入った。

「おまたせー!さく行こー」
「早柚ちゃん待ってよぉ〜!さく行くよ〜!」
「おぉ〜」

 はしゃぐ女子の後ろを、ポケットに手を入れながらついて行く。
 いい服があればいいな。


※


「ここ良くない!?」
「超可愛い!ここにしよ!」

 女子二人に連れられた場所は、黒基調のストリート系......ではなく、淡い色中心で全体的にほわほわしている服屋だった。楽しそうに入っていく二人に圧倒されて、勢いで入ったけれど、これは賢吾の好みじゃない。もっと黒のかっこいいやつだ。回れ右をして店から出ようとすると、怖い顔をした早柚ちゃんに肩を掴まれた。

「おいおい。待てよぉ」
「俺、黒い感じの服がいい」
「私とひなちゃんを信じられないのか......???絶対損はさせんっ!」
「そうだそうだ!!さく一人で選ぶより絶対比嘉くんが喜ぶの選べるし!!」
「どっからくんだよ。その自信......」

 陽菜乃ちゃんに背中を押され、試着室前で逃げ出さないように見張られてしまった。早柚ちゃんは鋭い目つきで服を厳選しては、遠くから陽菜乃ちゃんに見せて、ジェスチャーでアリかナシかを選別している。これだけで会話できてんの?女子って恐ろしい......
 ポケットの中から振動を感じ、スマホを取り出す。
 送り主は、賢吾だった。

【大丈夫だよ。僕こそ、早く答えられなくてごめんね、言ったら次の約束無くなっちゃう気がしたから】

 スマホを持ったままその場にしゃがみこんでしまった。思わず、身体中の熱くなった空気を吐き出す。
 賢吾の、一人称が"僕"固定になった。俺の方がかっこいいんじゃなかったのかよ。これだけの事で、ここまで胸が高鳴るんだ。早く返信したくて、早く打とうとするけど、結局誤字して打ち直してたらクッソ遅くなった。

【なくなんない。俺、ちゃんと行きたいから】

 既読が付いてから、思考がクリアになり、かつ冷静になった。冷静になってしまった。俺、何送ってんの!?!?!?送信取り消ししたいけど、もう読んじゃってる。
 落ち着かなくて試着室前でうろちょろしてると、陽菜乃ちゃんに鼻で笑われた。
 再びスマホが振動する。

【マジか。それ結構嬉しい。早く風邪治す】

 なんだよこの余裕のある返信。あれだ。実際はベッドで悶えたんだろ。そうであれ。じゃないと俺だけダサいじゃん。

「さくさく!!選べたから着てみて!!」
「はぁーい」

 早柚ちゃんから服の束を受け取り、試着室へ入る。
 これ何日分だよ。
 今、俺の腕の中にあるのは、ベージュとか深い赤とか、くすんだ水色とか。どれもシックじゃない。
 とりあえず着てみるか!


「着れたよー」
「「出てきて!」」
「ほーい。......どう?」

 試着室のカーテンを開け放つと、早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんが目をぱちくりさせ固まってしまった。
 なんか急に不安だ。似合ってないとか? 自分の着こなしを鏡で見直すけれど、変では無い。むしろオシャレだ。
 ベージュのチェック柄ワイドパンツ、差し色にくすみグリーンが入っててこなれ感が出てる。気がする。そこに同じくらいのベージュ単色のスエット。最後に、赤みの強いベージュのボアパーカー。冬に着るには、完璧なコーディネートだ。

「変?」

 何も言われないから不安になって、返事を促す。
 先に早柚ちゃんが、意識を取り戻し、口角をあげた。

「流石、付き合いたい男No.1!カッコよすぎ」
「うぇあ、まじ?」
「まじまじ、ね?ひなちゃん」
「うん!見惚れちゃうレベルよっ!」

 二人はお互いに顔を見合せて、ガッツポーズをしている。
 後ろを向いて全身鏡で上から下まで見回した。オシャレだけど、これは賢吾の好みなのかな。

「なぁ、これ賢吾どう思うと思う?」

 遠慮がちに尋ねると、早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんがせーのっと目線で合図を送りあっている。

「「絶対気にいる!」」

 だから、さっきからその自信どっから湧いてんだ。
 パーカーのボア部分を手のひらで撫でる。うぉ、手触りいいな。