「さく!おっはよー!あれ??今日カーディガン着てないの?」
「はよ〜、うん。洗濯〜」
休日を挟んだ、月曜日。
カーディガンは、賢吾に貸したっきり返ってきていない。
溌剌とした笑顔で早柚ちゃんが俺の腕に巻き付き、全体重をかけてくる。
右手をポケットに入れていて、左手がフリーな時、早柚ちゃんは毎度ポケットに入れてる側の腕に巻きついてくる。今だってそうだ。これはなんでなんだろうか。
そんなことに意識を持っていかれていると、早柚ちゃんが動きを止め、今度は体まで持っていかれた。重心がぐらついたが何とか耐え、早柚ちゃんが注目している方向に目をやる。気になって眺めていると、死角から陽菜乃ちゃんがひょっこり姿を表した。
え、女子のテレパシー怖っ。
下駄箱から小走りで駆け寄ってくる陽菜乃ちゃんの前髪は、珍しく横へと流れていた。
「早柚ちゃんおはよぉー!あ、さくだ!おはよぉー」
「おぉ、おはよー」
「あれ?カーディガン着てないじゃん」
「何そんなに俺カーディガンキャラだったの?シンプルに洗濯してるだけ」
「いや〜ココ最近着てない日なかったからさ〜」
陽菜乃ちゃんはケタケタ笑い、綺麗な丸みを帯びた後頭部を、毛並みに沿って撫でている。
確かに賢吾に貰ってから、学校に着てこなかった日はなかったか。たったの一ヶ月で俺は、カーディガンキャラになったみたいだ。
早柚ちゃんの髪が靡いたのを合図に、俺たちの体は教室へ続く廊下に傾いた。未だ腕に巻きついてきている早柚ちゃんの隣に、陽菜乃ちゃんが並ぶ。
早柚ちゃんの体の向きは、陽菜乃ちゃんに向いていて、楽しそうな笑い声が響いている。俺にまとわりつく意味あるか??
怒られたくないし、大人しく窓の外を眺め歩いていると、不意に陽菜乃ちゃんが俺の名前を呼んだ。
「ね!さく〜、芙美ちゃんがさくにあの券譲ったって言ってたんだけど、貰った?」
「あのお下げの子芙美ちゃんって言うんだ。貰った〜」
「あれさ、比嘉くん指名券だけどいいの?」
「え、てかさ。そもそも券譲れないって賢吾に言われてたんだけど、そうなん?」
「あ〜、別に譲れない訳じゃないよ。ただ、チェキ十枚集めた人指名券ってだけ」
「それは、毎度違う奴と撮ってたらその券貰えないの?」
「そ〜!一応チェキ担にも一ヶ月単位でランキングあるからね〜」
「あ、そなんだ」
とことんホストみたいだな。
てことは、チェキ担一人につき、十枚チェキ撮らないとデート券とやらは手に入らないと。
あと、デート券チェキ担なら誰とでも使えるわけじゃないんかい。
二人でキャッキャ楽しそうな早柚ちゃん陽菜乃ちゃんを眺めていたら、ふと見たくない過去を考えてしまった。
それって、当たり前に賢吾と券使った奴いるってことじゃね?
「な、なぁ。賢吾って俺以外とその券使ったことあんの?」
「「あるよ〜」」
ハモった事にテンションがぶち上がった早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんが、両手で手を繋ぎ飛び回っている。
その光景に吹き出しそうになったけれど、待て。
は?
使ったことあんの????
教室にたどり着いた俺達は、各々席に座り、一限目の提出物を机に広げる。
その少し後にゆったり姿を現した仁科が、早柚ちゃん達に捕まって鼻の下が伸びているを見てから、俺はこっそり教室を後にした。
――プルルルルプルルルル
第二校舎に続く渡り廊下に肘を置いて、着信音を響かせる。
吹き抜ける風の冷たさに身震いすると、機械を介した低い声が、俺の体温をあげた。
「あ、もしもし。体調どう?」
『もしもし、朔也くん。だいぶ良くなってきた。ありがとう』
「そりゃよかった。うぅ〜さびぃ」
『あ、カーディガン!洗濯終わったけど、渡せなくてごめんね』
「いやいや、大丈夫。次来れる時返して」
『明日には行けそう。......げほ』
「あはは、それホントかよ」
一時的に俺の家で看病していた賢吾だが、仕事終わりに俺の母さんが車で送って無事に家まで帰せた。それで、心配だった俺は許可を取ったあと、車の中で賢吾の連絡先を入手したのだった。
この連絡先は結構早くして役に立ち、賢吾を送り届けたその日の夜にスマホを鳴らした。寝すぎた賢吾が、暇だのなんだの言ってきたから、金曜だったし、飽きるまでメッセージのやり取りに付き合ってやった。
休日の間で動けるようになったのか、耳元でカーテンを開けている音が聞こえる。
「なぁ、賢吾」
『ん〜?あ、にゃん太入ってこないで。ほらほら......もしもし?ごめん、飼ってる猫が入ってきて――』
「俺以外と、その、で、デート券使ったの何回?」
『へ?』
「陽菜乃ちゃん達に聞いた」
『あぁ......』
言い淀む賢吾に、自分の中だけでは処理し切れない苛立ちが込み上げてきた。なに。言えないくらいの人数なの?てか、なんで言えないの?
無言の時間が流れ、自分の顔にどんどん愛嬌が無くなっていくのがわかる。
このまま待ってても埒が明かない。
「そろそろ一限始まるから行くわ」
『あぁ、ごめん。わかった。頑張って』
「ん」
電話を切って、映し出されたトーク画面を見つめる。こんな事やってんのも俺だけじゃないんだろぉな。
さすが、結婚したい男No.1。
※
「え〜?比嘉くんの月間ランキング教えてってぇ?」
お昼休憩に付属する自由時間。
図書室でお弁当を広げる生徒もちらほら見える中、俺は受付の陽菜乃ちゃんに交渉をしていた。
驚いてる半分、面倒事だな半分の表情を浮かべる陽菜乃ちゃんは、受付台の中に潜り込んで分厚いファイルを取り出した。感覚で真ん中辺りを開くとそこからは確認しながらめくっている。
「教えたら何してくれんのぉ?」
「......早柚ちゃんとコスメでも買ってきてください」
「え!?なんでも!?何個でも!?」
「俺のバイト代を考慮した上でなら何個でもどーぞ」
「やった〜!!ありがとう〜」
突如ウキウキになったわかりやすい陽菜乃ちゃん。こういうのが愛嬌と言うのだろう。受付前でしゃがみ肘を付いて、陽菜乃ちゃんを眺める。
「あの......本借りたいんですけど」
「あ、はーい!少々お待ちください......!」
「......引き受けまーす」
「は!?さく出来んの!?」
「賢吾の見てたし分かる。図書カードとスタンプカード持ってますか?」
「ほぇ〜〜比嘉くん見てたしねぇ〜〜????」
「ぇ、あ、いや。俺が本借りる時だいたい賢吾だからってだけ。......三冊ですね。はーい」
図書カードをスキャンしてる俺を、ファイルをめくる振りをして、ジト目で見続けてくる陽菜乃ちゃん。それに気付かないふりをして、スタンプカードを三つ押す。三冊重ねた上に、図書カードとスタンプカードを乗せて、借りに来た生徒に手渡した。軽く会釈すると、その生徒はそそくさ図書室から姿を消した。
それを見送りきった陽菜乃ちゃんが、乗り出すようにして微笑みかけてくる。嫌な予感。
「比嘉くんのこと見てたから出来んだねー。どうして比嘉くんのランキング知りたいのぉ??」
「普通に気になるから」
「あ〜そう。くふふ。はい、この制度が導入された翌月からのランキング〜」
もう少し問い詰められると思ったが、陽菜乃ちゃんはファイルを手渡した後、返却ボックスから本を整理し始めた。
受付に座り、ファイルに目を向け賢吾の名前を探す。
五月、女子一位【早柚ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
六月、女子一位【早柚ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
七月、女子一位【陽菜乃ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
・
・
・
賢吾、こいつ......ずっと一位じゃねぇか!!!! あんなぬぼっとしてて、無口で、笑いもしないのに、一位なの???みんな俺だけが知ってると思ってた笑顔も気遣いも全部知ってるわけ???
ファイルを勢いよく閉じ、受付に突っ伏す。この感じ、何十人と疑似デートしてるわ。だよなぁ。あいつ裏でモテてる感じだしな。私服かっこよかったし。俺、マシな私服持ってたかな。
「あ〜死んでる〜」
「茶化すな」
「比嘉くん凄いでしょ〜ほぼ一位」
「ん、」
「......ホントのデートしちゃえば?」
「え?」
「え?」
何事も無かったようにスマホを弄っている陽菜乃ちゃん。ホントのデート????
「ん!早柚ちゃん今日バイト休みだって!!すぐ連絡返ってきた!!」
「んぁ......そう......」
「芙美ちゃんに貰ったデート券使うんでしょ??私服買いに行こうよ!コーディネートしてあげるっ♡」
ウィンクをして、俺の肩を叩いた陽菜乃ちゃんは、委員会の責務を果たしに行ってしまった。受付に取り残された俺は、目の前に来た図書室利用生徒の相手を自然と引き受ける。
いや、色々と何???
「はよ〜、うん。洗濯〜」
休日を挟んだ、月曜日。
カーディガンは、賢吾に貸したっきり返ってきていない。
溌剌とした笑顔で早柚ちゃんが俺の腕に巻き付き、全体重をかけてくる。
右手をポケットに入れていて、左手がフリーな時、早柚ちゃんは毎度ポケットに入れてる側の腕に巻きついてくる。今だってそうだ。これはなんでなんだろうか。
そんなことに意識を持っていかれていると、早柚ちゃんが動きを止め、今度は体まで持っていかれた。重心がぐらついたが何とか耐え、早柚ちゃんが注目している方向に目をやる。気になって眺めていると、死角から陽菜乃ちゃんがひょっこり姿を表した。
え、女子のテレパシー怖っ。
下駄箱から小走りで駆け寄ってくる陽菜乃ちゃんの前髪は、珍しく横へと流れていた。
「早柚ちゃんおはよぉー!あ、さくだ!おはよぉー」
「おぉ、おはよー」
「あれ?カーディガン着てないじゃん」
「何そんなに俺カーディガンキャラだったの?シンプルに洗濯してるだけ」
「いや〜ココ最近着てない日なかったからさ〜」
陽菜乃ちゃんはケタケタ笑い、綺麗な丸みを帯びた後頭部を、毛並みに沿って撫でている。
確かに賢吾に貰ってから、学校に着てこなかった日はなかったか。たったの一ヶ月で俺は、カーディガンキャラになったみたいだ。
早柚ちゃんの髪が靡いたのを合図に、俺たちの体は教室へ続く廊下に傾いた。未だ腕に巻きついてきている早柚ちゃんの隣に、陽菜乃ちゃんが並ぶ。
早柚ちゃんの体の向きは、陽菜乃ちゃんに向いていて、楽しそうな笑い声が響いている。俺にまとわりつく意味あるか??
怒られたくないし、大人しく窓の外を眺め歩いていると、不意に陽菜乃ちゃんが俺の名前を呼んだ。
「ね!さく〜、芙美ちゃんがさくにあの券譲ったって言ってたんだけど、貰った?」
「あのお下げの子芙美ちゃんって言うんだ。貰った〜」
「あれさ、比嘉くん指名券だけどいいの?」
「え、てかさ。そもそも券譲れないって賢吾に言われてたんだけど、そうなん?」
「あ〜、別に譲れない訳じゃないよ。ただ、チェキ十枚集めた人指名券ってだけ」
「それは、毎度違う奴と撮ってたらその券貰えないの?」
「そ〜!一応チェキ担にも一ヶ月単位でランキングあるからね〜」
「あ、そなんだ」
とことんホストみたいだな。
てことは、チェキ担一人につき、十枚チェキ撮らないとデート券とやらは手に入らないと。
あと、デート券チェキ担なら誰とでも使えるわけじゃないんかい。
二人でキャッキャ楽しそうな早柚ちゃん陽菜乃ちゃんを眺めていたら、ふと見たくない過去を考えてしまった。
それって、当たり前に賢吾と券使った奴いるってことじゃね?
「な、なぁ。賢吾って俺以外とその券使ったことあんの?」
「「あるよ〜」」
ハモった事にテンションがぶち上がった早柚ちゃんと陽菜乃ちゃんが、両手で手を繋ぎ飛び回っている。
その光景に吹き出しそうになったけれど、待て。
は?
使ったことあんの????
教室にたどり着いた俺達は、各々席に座り、一限目の提出物を机に広げる。
その少し後にゆったり姿を現した仁科が、早柚ちゃん達に捕まって鼻の下が伸びているを見てから、俺はこっそり教室を後にした。
――プルルルルプルルルル
第二校舎に続く渡り廊下に肘を置いて、着信音を響かせる。
吹き抜ける風の冷たさに身震いすると、機械を介した低い声が、俺の体温をあげた。
「あ、もしもし。体調どう?」
『もしもし、朔也くん。だいぶ良くなってきた。ありがとう』
「そりゃよかった。うぅ〜さびぃ」
『あ、カーディガン!洗濯終わったけど、渡せなくてごめんね』
「いやいや、大丈夫。次来れる時返して」
『明日には行けそう。......げほ』
「あはは、それホントかよ」
一時的に俺の家で看病していた賢吾だが、仕事終わりに俺の母さんが車で送って無事に家まで帰せた。それで、心配だった俺は許可を取ったあと、車の中で賢吾の連絡先を入手したのだった。
この連絡先は結構早くして役に立ち、賢吾を送り届けたその日の夜にスマホを鳴らした。寝すぎた賢吾が、暇だのなんだの言ってきたから、金曜だったし、飽きるまでメッセージのやり取りに付き合ってやった。
休日の間で動けるようになったのか、耳元でカーテンを開けている音が聞こえる。
「なぁ、賢吾」
『ん〜?あ、にゃん太入ってこないで。ほらほら......もしもし?ごめん、飼ってる猫が入ってきて――』
「俺以外と、その、で、デート券使ったの何回?」
『へ?』
「陽菜乃ちゃん達に聞いた」
『あぁ......』
言い淀む賢吾に、自分の中だけでは処理し切れない苛立ちが込み上げてきた。なに。言えないくらいの人数なの?てか、なんで言えないの?
無言の時間が流れ、自分の顔にどんどん愛嬌が無くなっていくのがわかる。
このまま待ってても埒が明かない。
「そろそろ一限始まるから行くわ」
『あぁ、ごめん。わかった。頑張って』
「ん」
電話を切って、映し出されたトーク画面を見つめる。こんな事やってんのも俺だけじゃないんだろぉな。
さすが、結婚したい男No.1。
※
「え〜?比嘉くんの月間ランキング教えてってぇ?」
お昼休憩に付属する自由時間。
図書室でお弁当を広げる生徒もちらほら見える中、俺は受付の陽菜乃ちゃんに交渉をしていた。
驚いてる半分、面倒事だな半分の表情を浮かべる陽菜乃ちゃんは、受付台の中に潜り込んで分厚いファイルを取り出した。感覚で真ん中辺りを開くとそこからは確認しながらめくっている。
「教えたら何してくれんのぉ?」
「......早柚ちゃんとコスメでも買ってきてください」
「え!?なんでも!?何個でも!?」
「俺のバイト代を考慮した上でなら何個でもどーぞ」
「やった〜!!ありがとう〜」
突如ウキウキになったわかりやすい陽菜乃ちゃん。こういうのが愛嬌と言うのだろう。受付前でしゃがみ肘を付いて、陽菜乃ちゃんを眺める。
「あの......本借りたいんですけど」
「あ、はーい!少々お待ちください......!」
「......引き受けまーす」
「は!?さく出来んの!?」
「賢吾の見てたし分かる。図書カードとスタンプカード持ってますか?」
「ほぇ〜〜比嘉くん見てたしねぇ〜〜????」
「ぇ、あ、いや。俺が本借りる時だいたい賢吾だからってだけ。......三冊ですね。はーい」
図書カードをスキャンしてる俺を、ファイルをめくる振りをして、ジト目で見続けてくる陽菜乃ちゃん。それに気付かないふりをして、スタンプカードを三つ押す。三冊重ねた上に、図書カードとスタンプカードを乗せて、借りに来た生徒に手渡した。軽く会釈すると、その生徒はそそくさ図書室から姿を消した。
それを見送りきった陽菜乃ちゃんが、乗り出すようにして微笑みかけてくる。嫌な予感。
「比嘉くんのこと見てたから出来んだねー。どうして比嘉くんのランキング知りたいのぉ??」
「普通に気になるから」
「あ〜そう。くふふ。はい、この制度が導入された翌月からのランキング〜」
もう少し問い詰められると思ったが、陽菜乃ちゃんはファイルを手渡した後、返却ボックスから本を整理し始めた。
受付に座り、ファイルに目を向け賢吾の名前を探す。
五月、女子一位【早柚ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
六月、女子一位【早柚ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
七月、女子一位【陽菜乃ちゃん】
男子一位【比嘉くん】
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賢吾、こいつ......ずっと一位じゃねぇか!!!! あんなぬぼっとしてて、無口で、笑いもしないのに、一位なの???みんな俺だけが知ってると思ってた笑顔も気遣いも全部知ってるわけ???
ファイルを勢いよく閉じ、受付に突っ伏す。この感じ、何十人と疑似デートしてるわ。だよなぁ。あいつ裏でモテてる感じだしな。私服かっこよかったし。俺、マシな私服持ってたかな。
「あ〜死んでる〜」
「茶化すな」
「比嘉くん凄いでしょ〜ほぼ一位」
「ん、」
「......ホントのデートしちゃえば?」
「え?」
「え?」
何事も無かったようにスマホを弄っている陽菜乃ちゃん。ホントのデート????
「ん!早柚ちゃん今日バイト休みだって!!すぐ連絡返ってきた!!」
「んぁ......そう......」
「芙美ちゃんに貰ったデート券使うんでしょ??私服買いに行こうよ!コーディネートしてあげるっ♡」
ウィンクをして、俺の肩を叩いた陽菜乃ちゃんは、委員会の責務を果たしに行ってしまった。受付に取り残された俺は、目の前に来た図書室利用生徒の相手を自然と引き受ける。
いや、色々と何???
