本借りるだけでデートするとかマジですか?

「あ、十冊目ですね」
「あ、はい......」

 俺・安達朔也(あだちさくや)、高校二年生。
 この高校に入学して間もない頃、"本を読む俺"に憧れて好きでもないのに本を握りしめていたら、いつしか女子にモテていた。
 そして、本が大好きになった。
 今でもほぼ毎日、一階の図書室に本を借りに来ているのだが――。

「スタンプ溜まったんで、誰とチェキ撮りますか?」
「あー......」

 これ!これが気に食わねぇええ!!
 ここの高校の偏差値は中の中くらいなんだが、まぁ、授業を真面目に聞こうとする姿勢が薄い。
 そのため、本を読む習慣をつけましょうと学校から推奨されている。本を読むことは、SNSから離れ、集中するという時間を自然と取ることが出来るからだ。

 脱・スマホ。
 だが、今までの習慣がそう簡単に崩れるはずもなく。

『えー、だるいっす』
『そんなことしたら、メイク研究の時間無くなっちゃう〜!』
『やだやだやだやだ』

 こんな調子で、図書室利用率は上がらなかった。
 そこで、図書委員は、【スタンプ十個でイケメンor美女とツーショチェキ】と謳ってみたのだった。本を一冊借りるに付き、一つスタンプが貰えるという仕組みだ。

 結果は――大成功。

 図書室利用率は、格段に良くなり、常に右肩上がりを貫いている。
 それはいい。それはな。
 だが......

「それ、毎回思うんですけど絶対なんすか?」
「まぁ......」

 強要するのは違くないか!?!?俺みたいに純粋に本を借りに来てるやつへの配慮が無さすぎる。別に誰のチェキもいらねぇよ。
 本を片手にうだうだ悩んでると、同学年で一番の美女とされる、長浜早柚(ながはまさゆ)が俺の右腕にまとわりついてくる。早柚ちゃんのデカくて柔らかい二つの桃が、容赦なく俺の二の腕を襲う。
 正直これは悪くない。

「さく〜、撮っていきなよ〜。今日なら私空いてるよ??」
「いつも長蛇の列だもんな」
「そうなの〜。私、委員会とかやりたくなかったのに、チェキ担当で入れられたんだよぉ」
「そりゃご苦労さん」
「で?今日は誰にするの?」

 早柚ちゃんの猫撫で声は、高いのに柔らかく、これが魔性の女なんだろうと毎度思う。
 そして、毎度俺と撮ることを向こう側から望むみたいに擦り寄られている。
 自分で言うのもなんだが、俺は顔がいい。【付き合うならこの男】なんて女子が勝手にランキングをつけているらしい表には、常に一位に君臨している。マドンナにもモテて、女子全体(ランキングを付けている女子限定)でもモテている俺は、自他ともに認めるイケメンということだ。
 鼻高々な気持ちを抑えながら、目の前に差し出された指名表を眺める。今日出勤しているチェキ担当の予定表のようなものだ。
 本当になんだここ。ホストか。

「んじゃ、今日もあんたで」
「ぁ、はい」

 図書委員で、いつも受付をしている・比嘉賢吾(ひがけんご)を指差す。
 二年で初めて同じクラスになった常に無表情の男だ。

「え〜!また比嘉くんなの〜??早柚とは撮らないのぉぉ?」
「また今度。どーせすぐだから」
「いつもそれ言うじゃん」

 チークとやらで程よく血色感に包まれた頬が、限界まで膨れ上がる。大袈裟に肩を落とす姿が可愛くて、それの為にわざと避けている節は若干ある。いや、大いにある。
 早柚ちゃんの頬を突っつきながらケタケタ笑っていると、受付側からノベッと比嘉が出てきた。毎度の事ながら脚の長さに驚きを隠せない。俺も百七十八cmと高い部類に分類されるが、比嘉は百八十六cmもあるらしい。
 いつもの白い壁の前に立たされ、男二人でピースを決める。
 なんの写真なんだよ。

「いーじゃん!賢朔って学校内で人気高いんだよね〜」
「は?賢朔?なにそれ」
「比嘉くんと、さくのカップリング名〜」

 カップリ......

「は!?!?何それ!!!」

 思わず一歩踏み出して身を乗り出す。
 カメラのシャッターを下ろした、睦海陽菜乃(むつみひなの)が飴玉を転がすみたいに控えめに笑った。

「知らなかったの?」
「知らねぇよ!!!!」
「チェキとか売り出したらお金取れるレベルだよぉ〜。ファンサに一枚どうですか!?」
「追加で取らなくても家に九枚あるわ......」
「あれ?もう今回で十枚目!?読むの早いね〜......ってあ!」
「え、なに」

 頭の風船が弾けたみたいに大きな声をあげた陽菜乃ちゃんが、早柚ちゃんの方へ駆け寄り、耳打ちをしている。
 なに、何言われんの。
 この流れでいい話だとは思えず、意味もなく借りた本のページを弾いてみる。
 床が軋む音と共に、早柚ちゃんの笑顔が目の前でクローズアップされた。

「比嘉くんとデート券獲得だ!おめでとう!!」
「へ......?」

 いや、いらねぇぇえええええ!!!