「碧――っ、ビリビリ治ったんだってぇ⁉」
朝のホームルーム後の十分休み。ギャル達が風見の机を取り囲んだ。
「触っていい? 触っていい?」
「あ、ホントだ治ってるー! ビリッとしない!」
「やったじゃぁん!」
彼女らは賑やかな歓声を上げる。
この教室の当たり前の光景が戻ってきた。
少し前まで風見の周りは、いつもギャル達が集まっていたのである。
が、一つ大きな変化があった。一人のギャルがテンションに任せ、風見に抱き付こうとしたのだが、
「あ、ごめん。もうそういうのなし」
風見が待ったを掛けたのである。
「あのさ、みんなと前みたいにつるめるのは嬉しいんだけど、俺、もう誰彼構わずスキンシップとかしない事にしたの」
「えぇ、ガチ?」
ギャル達はド派手なアイメイクに縁取られた目を大きく見開く。
「あんたがそんな事言うなんて、どういう心境の変化なわけ?」
「そうだよ、むしろあんたが一番ベタベタしたがってた癖に」
皆の訳がわからないという視線を受け、風見は堂々宣言する。
「実は俺、好きな奴ができたんだわ。そいつの事絶対絶対落としたいから、もう友達ともハグはしない。そいつに誤解されるような事したくねぇの」
「え……えぇぇ、ガチぃぃ⁉」
風見の純愛宣言にギャル達は大いに色めき立ったが、大地はこれ以上聞いていられなかった。談笑していた友人達に「俺、ちょっと一限さぼるわ!」と言い置くと大股で教室を出る。鏡を見なくても、己の顔が真っ赤に染まっているとわかる。
やはり昨夜、風見からの告白やキス、その他諸々に冷静に対処できたのは、電流により頭が麻痺していた為らしい。今になってみるとじわじわと恥ずかしさが襲ってくる。
その上であんな風に「好きな奴ができた」なんて吹聴されたら。
その情熱的なセリフが自分に向けられたものだとわかっている以上、動揺せずにはいられない。
とにかく一度、どこかで気持ちを鎮めなければ……大地はきょろきょろと辺りを見回し、屋上へと向かった。そしてその扉を開けたところで。
「サボりとは悪い奴だな」
「っ!」
背後から声をかけられ、びくりと身体を跳ねさせた。
「か、風見! なんで……」
「んー? そりゃ三好と一緒にいたいから以外にないんじゃね? お前がサボんなら俺もサボる」
風見はそう言って、青空の下でんーっと伸びをしてみせるのだが、大地からしてみれば冗談じゃない。風見から逃げる為にサボりを決意したというのに、その相手がついてきてしまうなんて。
「わ、わかった。風見はサボれ。んで、俺は戻る」
大地はそう告げると、今通ってきたばかりの扉を再び潜ろうとしたのだが、その前にぱしっと手首を掴まれる。
「ンな冷たい事言うなよ。昨夜はお前からハグさせてくれたのに、今日は避けんの? 温度差で風邪引くんだけど」
「あれはっ、帯電を治す為だから! つか避けられるような事したのはそっちだろ⁉ 俺はハグを許しただけなのに、あんな……っ」
昨夜のあれこれを思い返すと更に真っ赤になってしまう。まさかあんな事をされるとは夢にも思わなかったのだ。
と、そんな大地の抗議をどう受け取ったのか、風見は手を離さないままじっと此方を見つめてきた。そして。
「え、待って三好……その慌て様……もしかして今、俺の事意識してる?」
「っ、はぁ⁉」
この言葉に、大地は大声を出してしまった。
「意識って、別に俺はそんなっ」
そう早口に否定しようとしたが、これがきっと良くなかった。こういう時は慌てれば慌てるだけ、肯定しているように見えるのだ。風見はニヤァと口角を引き上げて。
「あぁーそう。そうなんだぁ。三好、ほんとに脈なしってわけじゃねぇんだなぁ。そんなら……」
「っ!」
ぐっと強く引き寄せられ、次の瞬間、大地は風見の胸の中に収まっていた。すると忽ち甘い香りに包まれて、その強烈さにくらりとする。今にも意識が飛びそうな程――が、何故? 前はここまでの効果はなかったはずだが……もしや電流というノイズが消えた分、風見の色香がダイレクトに伝わってきているとか?
なんにせよ、このままは危険な気がした。
大地は必死に風見の腕から抜け出そうとする。
「ちょっ、離せって……! 帯電治ったんだからもうハグもナシなんだって!」
「知りませーん。つか三好って押しに弱いし、脈アリだってわかった以上は押すしかないじゃん。とりあえず一限の間は離す気ねぇし、このままたっぷり口説かせてもらうから」
「……っ!」
そうしてぎゅっと抱き締められると、もう風見の帯電はすっかり治ったはずなのに、全身をぴりぴりとした感覚が走り抜けるようだった。
これはもしや、快感とか、快楽とか呼ばれる類のものだろうか?
そんな感覚を知ってしまうとは、もしやここからが本当の受難の始まりだったりするのだろうか……?
大地はそう思ったが、風見の強い腕から抜け出す手段は見つかりそうになかった。
「三好、好き……」
吐息混じりに囁かれると、ぶわっと体温が上昇する。
嗚呼、もう、駄目かもしれない。
この男に篭絡されるのは、きっと時間の問題なのだ。
朝のホームルーム後の十分休み。ギャル達が風見の机を取り囲んだ。
「触っていい? 触っていい?」
「あ、ホントだ治ってるー! ビリッとしない!」
「やったじゃぁん!」
彼女らは賑やかな歓声を上げる。
この教室の当たり前の光景が戻ってきた。
少し前まで風見の周りは、いつもギャル達が集まっていたのである。
が、一つ大きな変化があった。一人のギャルがテンションに任せ、風見に抱き付こうとしたのだが、
「あ、ごめん。もうそういうのなし」
風見が待ったを掛けたのである。
「あのさ、みんなと前みたいにつるめるのは嬉しいんだけど、俺、もう誰彼構わずスキンシップとかしない事にしたの」
「えぇ、ガチ?」
ギャル達はド派手なアイメイクに縁取られた目を大きく見開く。
「あんたがそんな事言うなんて、どういう心境の変化なわけ?」
「そうだよ、むしろあんたが一番ベタベタしたがってた癖に」
皆の訳がわからないという視線を受け、風見は堂々宣言する。
「実は俺、好きな奴ができたんだわ。そいつの事絶対絶対落としたいから、もう友達ともハグはしない。そいつに誤解されるような事したくねぇの」
「え……えぇぇ、ガチぃぃ⁉」
風見の純愛宣言にギャル達は大いに色めき立ったが、大地はこれ以上聞いていられなかった。談笑していた友人達に「俺、ちょっと一限さぼるわ!」と言い置くと大股で教室を出る。鏡を見なくても、己の顔が真っ赤に染まっているとわかる。
やはり昨夜、風見からの告白やキス、その他諸々に冷静に対処できたのは、電流により頭が麻痺していた為らしい。今になってみるとじわじわと恥ずかしさが襲ってくる。
その上であんな風に「好きな奴ができた」なんて吹聴されたら。
その情熱的なセリフが自分に向けられたものだとわかっている以上、動揺せずにはいられない。
とにかく一度、どこかで気持ちを鎮めなければ……大地はきょろきょろと辺りを見回し、屋上へと向かった。そしてその扉を開けたところで。
「サボりとは悪い奴だな」
「っ!」
背後から声をかけられ、びくりと身体を跳ねさせた。
「か、風見! なんで……」
「んー? そりゃ三好と一緒にいたいから以外にないんじゃね? お前がサボんなら俺もサボる」
風見はそう言って、青空の下でんーっと伸びをしてみせるのだが、大地からしてみれば冗談じゃない。風見から逃げる為にサボりを決意したというのに、その相手がついてきてしまうなんて。
「わ、わかった。風見はサボれ。んで、俺は戻る」
大地はそう告げると、今通ってきたばかりの扉を再び潜ろうとしたのだが、その前にぱしっと手首を掴まれる。
「ンな冷たい事言うなよ。昨夜はお前からハグさせてくれたのに、今日は避けんの? 温度差で風邪引くんだけど」
「あれはっ、帯電を治す為だから! つか避けられるような事したのはそっちだろ⁉ 俺はハグを許しただけなのに、あんな……っ」
昨夜のあれこれを思い返すと更に真っ赤になってしまう。まさかあんな事をされるとは夢にも思わなかったのだ。
と、そんな大地の抗議をどう受け取ったのか、風見は手を離さないままじっと此方を見つめてきた。そして。
「え、待って三好……その慌て様……もしかして今、俺の事意識してる?」
「っ、はぁ⁉」
この言葉に、大地は大声を出してしまった。
「意識って、別に俺はそんなっ」
そう早口に否定しようとしたが、これがきっと良くなかった。こういう時は慌てれば慌てるだけ、肯定しているように見えるのだ。風見はニヤァと口角を引き上げて。
「あぁーそう。そうなんだぁ。三好、ほんとに脈なしってわけじゃねぇんだなぁ。そんなら……」
「っ!」
ぐっと強く引き寄せられ、次の瞬間、大地は風見の胸の中に収まっていた。すると忽ち甘い香りに包まれて、その強烈さにくらりとする。今にも意識が飛びそうな程――が、何故? 前はここまでの効果はなかったはずだが……もしや電流というノイズが消えた分、風見の色香がダイレクトに伝わってきているとか?
なんにせよ、このままは危険な気がした。
大地は必死に風見の腕から抜け出そうとする。
「ちょっ、離せって……! 帯電治ったんだからもうハグもナシなんだって!」
「知りませーん。つか三好って押しに弱いし、脈アリだってわかった以上は押すしかないじゃん。とりあえず一限の間は離す気ねぇし、このままたっぷり口説かせてもらうから」
「……っ!」
そうしてぎゅっと抱き締められると、もう風見の帯電はすっかり治ったはずなのに、全身をぴりぴりとした感覚が走り抜けるようだった。
これはもしや、快感とか、快楽とか呼ばれる類のものだろうか?
そんな感覚を知ってしまうとは、もしやここからが本当の受難の始まりだったりするのだろうか……?
大地はそう思ったが、風見の強い腕から抜け出す手段は見つかりそうになかった。
「三好、好き……」
吐息混じりに囁かれると、ぶわっと体温が上昇する。
嗚呼、もう、駄目かもしれない。
この男に篭絡されるのは、きっと時間の問題なのだ。
