「中原、やっぱうちら別れよ」
突然呼びだされたと思えば、恒例の別れ話。
「いいよ。今までどーも」
こういう別れ話も、何回も経験してるせいで、悲しいとか、虚しいとか、そういう感情は、不思議と湧かないもんだ。
「え。意外とあっさり」
美咲は、驚いたように、目を丸くする。
「だって、俺が引き止めたところでって話だろ」
「⋯⋯まぁ、そうだけどさ」
何を期待してたんだろう。引き止めて欲しかったのか、別れたくないと、縋って欲しかったのか。
今この瞬間から『元カノ』になった、目の前にいる女子、美咲とは、三ヶ月続いた。今まで付き合ったことのある彼女とも、長くて一、二ヶ月くらいだったから、それだけで最高記録かもしれない。
なんて、記録更新したからなんだ、って話ではある。
今回、振られた理由は聞かなかった。聞いても無意味だと思ったからだ。
毎回、振られる理由は同じ。
『私ばっかり好きだから、中原と付き合うの辛い』
『全然私のこと好きじゃない』
『もっと好きになって欲しかった』
そういうのを求められても、俺は応えられなかった。
でも、仕方ないと思った。初めはなんとも思ってなくても、付き合っていくうちに、好きになるかもしれない。そんな、少女漫画みたいな感情で、何度も付き合っては別れてを繰り返す。
けど、意外とならないものなのだ、これが。
俺なりに、愛情表現はしてるつもりではある。相手を不満にさせたいわけではなくて。デートもするし、記念日にはプレゼントを渡す。ハグやキス、それ以上のことも。それなのに、それ以上のことを求められる。『気持ち』の部分を求められる。
だから、美咲と三ヶ月続いたのは、今までの彼女よりも、温度差がなかったからかもしれない。『一緒にいると楽だから』とか、『今互いにフリーだから』『男避けにちょうどいい』とか、その程度。
依存しすぎず、でも恋人らしいこともする。
「はー……、結構アリだったんだけど」
まあ、今さらこんなこと言ったところで、どうしようもない。
「よっ、昨日振られた男(笑)」
教室に入った瞬間に、藤田と雨宮に詰められる。多分こいつらには、からかわれるとは思ってたけど、教室の扉開けた瞬間にこれとは思わなかった。
「情報源どこだよ……」
昨日振られたばっかなんですけど。
「美咲ちゃんの友達が教えてくれた」
藤田は、イェーイ、と指をピースにする。
「振られた相手に対するテンションじゃねえ……」
「モテ男が振られるのなんか嬉しい(笑)」
「最低発言きた」
俺がつっこむと、雨宮が隣から笑ってくる。
「まぁでも、今回は結構続いたじゃん」
「そう。俺の最高記録」
「世界一ダサい記録じゃん」
まぁ、こいつらはいつもこんな感じだ。普通に笑える。でも……笑えるけど、少しだけ違う。でも、それを顔に出そうとも思わない。むしろ、同情されるのも面倒だ。
「なに、中原また振られたって?」
一ノ瀬まで、さっきまでやっていた委員会の仕事を置き去りにして、ニヤニヤしながらこっちに来る。
「お前は委員会の仕事をしろ」
俺は、一ノ瀬の頭を軽く叩いた。
「えー、せっかく慰めに来てあげたのに」
「これから慰める顔じゃねえんだよ」
「ほら、お菓子やる」
一ノ瀬は自分のポケットから、チョコレートを取り出して、俺の机の上に置いた。
「え、これ俺が好きなやつじゃん。一ノ瀬まじ神」
しかも結構高いやつ。さすがお金持ち。
「開き直り早くてダル(笑)」
後ろで藤田と雨宮の笑い声が聞こえるが、俺の好きな高級お菓子を前に、俺の耳には入らない。
袋をあけて食べようとすると、なかなか取り出せない。中でくっついてる感じがする。
「……ん?」
俺は、嫌な予感がして、袋を覗いた。
「これ、溶けてんじゃん」
めっちゃドロドロだし。
「あ、マジか。まぁ、俺のポケットに入ってたやつだしな(笑)」
他人事みたいに言う。
「夏でポケットにチョコレートはなくね?」
どう考えても溶けるだろ。
「まぁ、いけるかなって」
「いけねーよ」
こいつ、確信犯じゃね?と思いながらも、せっかくの高級お菓子だ。俺は原型の保たれてないそのチョコレートを、手につかないように気をつけながら、口に入れる。
「うま」
やっぱ美味しいやつは溶けても美味しい。
「てか、美咲ちゃんになんて言われて振られたわけ?」
雨宮に聞かれる。
「え、理由聞いてない」
つーか、大体同じだし。
「お前なぁ……」
そんな呆れた顔されても困る。
「あ、中原くんじゃん、おはよー」
クラスの女子三人くらいが、俺らのところに寄ってきて、人数が増えれば、それにつられて他のクラスメイトもこっちに来る。
「ねー、美咲と別れたんでしょ?」
「そ。慰めてくれる?」
「おい、別れた翌日に次行こうとすんな(笑)」
一人、また一人と、机の周りに集まってくる。
正直、別れ話ごときで集まられても困る、というのが本音だ。人が増えれば増えるほど、『そういうノリ』を期待される。俺にとっては、笑い話じゃなくても、笑い話のように話さないといけない感じ。
別にいいけどさ、本当のこと言えば、放っておいて欲しい。
「でも中原って、そういうの気にするタイプじゃないっしょ?」
「てか、どうせすぐ新しい人できてそう」
俺は、適当に相槌を打つ。
「てかさ、お前と美咲ちゃんってどこまでいってたん?」
クラスメイトに聞かれて、俺は、笑ったままそいつを見る。
「んー、秘密」
俺がそう言うと、クラスメイトは面白がるように笑う。
「うわ、これ絶対最後までヤってるやつ(笑)」
「中原って手早そうだしな」
「美咲ちゃんってスタイル良いし、顔良いし、もったいねー(笑)」
これ、いつまで続くんだろ。
大して親密な間柄でもないくせに、こういう時だけ余計なこと聞いてくるやつ。俺のことだから、どうせ気にしてないとか、勝手に決めつけてくるやつ。そういうのが、少しだけ苦手だ。別に、相手の言葉をいちいち気にするほど繊細ではないけど。
あー……めんどくさい。
こういう、自分が引いた境界線に、無意識に踏み込んでくるの。別に俺は、秘密主義なわけではない。聞かれたら普通に答えるし。でも、踏み込まなくていい所まで詮索しようとされるのは、正直困る。
それを「嫌だ」というのも、周りの空気を壊すのが、気まずそうにされるのがダルくて言えなくて。だから、笑って誤魔化す。けど、本当は、こんな考え方しかできない自分が、一番めんどくさい。
「中原ー」
隣でスマホいじってた一ノ瀬が、スマホを閉じて顔を上げる。
「んー?」
「喉乾いたから自販機ついてきて」
何を言われるかと思えば。
「おい一ノ瀬、今良いとこだったのに」
「そうそう。もっと聞こうぜー」
クラスメイトは文句を言いつつも、止めたりはしない。
「いや、さすがに中原の元カノの話飽きた(笑)。つか、他人のそういう話、大して興味ねー」
「お前も興味持って来たじゃねえか(笑)」
「いや、俺は慰めるために来ただけ」
「絶対うそ」
クラスメイトはそう言うけど、一ノ瀬が自分で言った通りで、こいつは、こういう話に、さほどの興味を示さないのを、俺は知っている。
多分、俺のところに来たのも、興味があって、とかではなく、一ノ瀬の言ったとおり、本当に慰めるために来たのではないかと思う。なんて、チョコレート補正がかかってるだけかもしれないけど。
「中原ー、チョコレートもう一つあげる」
一ノ瀬は、さっきのチョコレートを、ポケットからもう一つ取り出す。
「マジか。サンキュ」
受け取ると、なんか、さっきよりもさらに溶けてる感じの手触りだ。
「これ、一つ目以上に溶けてね?」
「大丈夫。溶けても美味しいから」
「それはそう」
俺は、チョコレートの袋をあけて、ギリ取り出せるチョコレートを口の中に入れる。
「やっぱ美味い」
「だろ」
一ノ瀬は、満足そうに笑った。
多分、それ以上の会話は、大した話はしなかった。課題やり忘れた、とか、今日の数学ダルい、とか、そんな、どうでもいい話。
けどそれが、今の俺には、居心地が良かった。
一ノ瀬は、人との距離感を測るのが上手い。
冷たいわけではないけど、踏み込みすぎない。自分のことも、相手のことも、ある程度のことまでは話したり聞いたりするけど、それ以上のことは干渉しない。
必要以上に相手のことを知ろうとしないから、一緒にいると楽なんだと思う。
『気を遣わなくてもいい関係』とか、『一緒にいて楽な友達』とか、ただそれだけ。それ以上でも、それ以下でもない。そういう、ただの友達。
そう、思いたかったんだ。
突然呼びだされたと思えば、恒例の別れ話。
「いいよ。今までどーも」
こういう別れ話も、何回も経験してるせいで、悲しいとか、虚しいとか、そういう感情は、不思議と湧かないもんだ。
「え。意外とあっさり」
美咲は、驚いたように、目を丸くする。
「だって、俺が引き止めたところでって話だろ」
「⋯⋯まぁ、そうだけどさ」
何を期待してたんだろう。引き止めて欲しかったのか、別れたくないと、縋って欲しかったのか。
今この瞬間から『元カノ』になった、目の前にいる女子、美咲とは、三ヶ月続いた。今まで付き合ったことのある彼女とも、長くて一、二ヶ月くらいだったから、それだけで最高記録かもしれない。
なんて、記録更新したからなんだ、って話ではある。
今回、振られた理由は聞かなかった。聞いても無意味だと思ったからだ。
毎回、振られる理由は同じ。
『私ばっかり好きだから、中原と付き合うの辛い』
『全然私のこと好きじゃない』
『もっと好きになって欲しかった』
そういうのを求められても、俺は応えられなかった。
でも、仕方ないと思った。初めはなんとも思ってなくても、付き合っていくうちに、好きになるかもしれない。そんな、少女漫画みたいな感情で、何度も付き合っては別れてを繰り返す。
けど、意外とならないものなのだ、これが。
俺なりに、愛情表現はしてるつもりではある。相手を不満にさせたいわけではなくて。デートもするし、記念日にはプレゼントを渡す。ハグやキス、それ以上のことも。それなのに、それ以上のことを求められる。『気持ち』の部分を求められる。
だから、美咲と三ヶ月続いたのは、今までの彼女よりも、温度差がなかったからかもしれない。『一緒にいると楽だから』とか、『今互いにフリーだから』『男避けにちょうどいい』とか、その程度。
依存しすぎず、でも恋人らしいこともする。
「はー……、結構アリだったんだけど」
まあ、今さらこんなこと言ったところで、どうしようもない。
「よっ、昨日振られた男(笑)」
教室に入った瞬間に、藤田と雨宮に詰められる。多分こいつらには、からかわれるとは思ってたけど、教室の扉開けた瞬間にこれとは思わなかった。
「情報源どこだよ……」
昨日振られたばっかなんですけど。
「美咲ちゃんの友達が教えてくれた」
藤田は、イェーイ、と指をピースにする。
「振られた相手に対するテンションじゃねえ……」
「モテ男が振られるのなんか嬉しい(笑)」
「最低発言きた」
俺がつっこむと、雨宮が隣から笑ってくる。
「まぁでも、今回は結構続いたじゃん」
「そう。俺の最高記録」
「世界一ダサい記録じゃん」
まぁ、こいつらはいつもこんな感じだ。普通に笑える。でも……笑えるけど、少しだけ違う。でも、それを顔に出そうとも思わない。むしろ、同情されるのも面倒だ。
「なに、中原また振られたって?」
一ノ瀬まで、さっきまでやっていた委員会の仕事を置き去りにして、ニヤニヤしながらこっちに来る。
「お前は委員会の仕事をしろ」
俺は、一ノ瀬の頭を軽く叩いた。
「えー、せっかく慰めに来てあげたのに」
「これから慰める顔じゃねえんだよ」
「ほら、お菓子やる」
一ノ瀬は自分のポケットから、チョコレートを取り出して、俺の机の上に置いた。
「え、これ俺が好きなやつじゃん。一ノ瀬まじ神」
しかも結構高いやつ。さすがお金持ち。
「開き直り早くてダル(笑)」
後ろで藤田と雨宮の笑い声が聞こえるが、俺の好きな高級お菓子を前に、俺の耳には入らない。
袋をあけて食べようとすると、なかなか取り出せない。中でくっついてる感じがする。
「……ん?」
俺は、嫌な予感がして、袋を覗いた。
「これ、溶けてんじゃん」
めっちゃドロドロだし。
「あ、マジか。まぁ、俺のポケットに入ってたやつだしな(笑)」
他人事みたいに言う。
「夏でポケットにチョコレートはなくね?」
どう考えても溶けるだろ。
「まぁ、いけるかなって」
「いけねーよ」
こいつ、確信犯じゃね?と思いながらも、せっかくの高級お菓子だ。俺は原型の保たれてないそのチョコレートを、手につかないように気をつけながら、口に入れる。
「うま」
やっぱ美味しいやつは溶けても美味しい。
「てか、美咲ちゃんになんて言われて振られたわけ?」
雨宮に聞かれる。
「え、理由聞いてない」
つーか、大体同じだし。
「お前なぁ……」
そんな呆れた顔されても困る。
「あ、中原くんじゃん、おはよー」
クラスの女子三人くらいが、俺らのところに寄ってきて、人数が増えれば、それにつられて他のクラスメイトもこっちに来る。
「ねー、美咲と別れたんでしょ?」
「そ。慰めてくれる?」
「おい、別れた翌日に次行こうとすんな(笑)」
一人、また一人と、机の周りに集まってくる。
正直、別れ話ごときで集まられても困る、というのが本音だ。人が増えれば増えるほど、『そういうノリ』を期待される。俺にとっては、笑い話じゃなくても、笑い話のように話さないといけない感じ。
別にいいけどさ、本当のこと言えば、放っておいて欲しい。
「でも中原って、そういうの気にするタイプじゃないっしょ?」
「てか、どうせすぐ新しい人できてそう」
俺は、適当に相槌を打つ。
「てかさ、お前と美咲ちゃんってどこまでいってたん?」
クラスメイトに聞かれて、俺は、笑ったままそいつを見る。
「んー、秘密」
俺がそう言うと、クラスメイトは面白がるように笑う。
「うわ、これ絶対最後までヤってるやつ(笑)」
「中原って手早そうだしな」
「美咲ちゃんってスタイル良いし、顔良いし、もったいねー(笑)」
これ、いつまで続くんだろ。
大して親密な間柄でもないくせに、こういう時だけ余計なこと聞いてくるやつ。俺のことだから、どうせ気にしてないとか、勝手に決めつけてくるやつ。そういうのが、少しだけ苦手だ。別に、相手の言葉をいちいち気にするほど繊細ではないけど。
あー……めんどくさい。
こういう、自分が引いた境界線に、無意識に踏み込んでくるの。別に俺は、秘密主義なわけではない。聞かれたら普通に答えるし。でも、踏み込まなくていい所まで詮索しようとされるのは、正直困る。
それを「嫌だ」というのも、周りの空気を壊すのが、気まずそうにされるのがダルくて言えなくて。だから、笑って誤魔化す。けど、本当は、こんな考え方しかできない自分が、一番めんどくさい。
「中原ー」
隣でスマホいじってた一ノ瀬が、スマホを閉じて顔を上げる。
「んー?」
「喉乾いたから自販機ついてきて」
何を言われるかと思えば。
「おい一ノ瀬、今良いとこだったのに」
「そうそう。もっと聞こうぜー」
クラスメイトは文句を言いつつも、止めたりはしない。
「いや、さすがに中原の元カノの話飽きた(笑)。つか、他人のそういう話、大して興味ねー」
「お前も興味持って来たじゃねえか(笑)」
「いや、俺は慰めるために来ただけ」
「絶対うそ」
クラスメイトはそう言うけど、一ノ瀬が自分で言った通りで、こいつは、こういう話に、さほどの興味を示さないのを、俺は知っている。
多分、俺のところに来たのも、興味があって、とかではなく、一ノ瀬の言ったとおり、本当に慰めるために来たのではないかと思う。なんて、チョコレート補正がかかってるだけかもしれないけど。
「中原ー、チョコレートもう一つあげる」
一ノ瀬は、さっきのチョコレートを、ポケットからもう一つ取り出す。
「マジか。サンキュ」
受け取ると、なんか、さっきよりもさらに溶けてる感じの手触りだ。
「これ、一つ目以上に溶けてね?」
「大丈夫。溶けても美味しいから」
「それはそう」
俺は、チョコレートの袋をあけて、ギリ取り出せるチョコレートを口の中に入れる。
「やっぱ美味い」
「だろ」
一ノ瀬は、満足そうに笑った。
多分、それ以上の会話は、大した話はしなかった。課題やり忘れた、とか、今日の数学ダルい、とか、そんな、どうでもいい話。
けどそれが、今の俺には、居心地が良かった。
一ノ瀬は、人との距離感を測るのが上手い。
冷たいわけではないけど、踏み込みすぎない。自分のことも、相手のことも、ある程度のことまでは話したり聞いたりするけど、それ以上のことは干渉しない。
必要以上に相手のことを知ろうとしないから、一緒にいると楽なんだと思う。
『気を遣わなくてもいい関係』とか、『一緒にいて楽な友達』とか、ただそれだけ。それ以上でも、それ以下でもない。そういう、ただの友達。
そう、思いたかったんだ。
