アイドルの卵のクラスメイトが何故か俺にグイグイ迫ってくる話

 高校に進学したばかりの俺は、今日から同じクラスになるのがどんな奴らかと目を皿にして観察していた。

 高校における俺の一番最初の目標は、クラスの「姫」ポジションにならないこと。そして高校でこそ、可愛い彼女を作りたい。その目的の為には、俺より可愛い存在が必須……!

 なので、「頼むから俺より可愛い子よ現れてくれ……!」と祈りまくっている真っ最中だった。

 何故ならば、中学時代、俺は共学であるにも関わらず「姫」ポジションに置かれていたせいで、散々な目に遭ってきたからだ。

 一、二年の頃は身長がなかなか伸びなくて、制服はずっとSSサイズ。中学三年生に上がってようやく少しずつ身長が伸びてきたものの、それでも平均身長にすら及ばない。

 せめて男らしい顔立ちだったらよかったけど、一緒に歩いていると姉妹に間違われる母さんとそっくりの可愛らしい童顔のせいで、誰からも男扱いされてこなかった。

 まあどんなに顔が可愛かろうが俺は男なので、さすがに惚れられるようなことはなかった。

 だけど、女からの嫌われ度が半端なかったんだ。

 男なんて、仲が良けりゃボディタッチだって普通にあるもんだと思う。なのにクラスの女子は、クラス一のイケメンが俺の肩を抱くと目を三角にして怒り狂っていた。

 ちょっと待て。直前に、ぬぼっとしてる吉田くんにも同じことをしていたぞ!? なのになんで俺ばっかりそんなに陰口を叩かれる上に睨まれないといけないんだよ、ちくしょー!

 更には、とある男性教師が俺を猫可愛がりした結果「色目を使っている」と噂され、その男性教師に密かに惚れていたっぽい担任の女性教師に内申点を下げられたりした。

 ……俺は何もしてねーだろ!

 男友達には「お前が可愛いからそう見えちゃうんだろうな。気にすんなよ」と慰められたけど、いや内申点は大事だからな!? なんで生活態度で2を付けられるんだよ! 俺は極めて真面目にやっていたのに!

 何より悲しかったのは、中学時代大好きだったクラスで一番可愛い沙羅ちゃんのほうが、俺より背が高かったことだ。

 せめて同じ高さまで到達したらその時は告白しようと毎日頑張って牛乳を飲んでいたのに、クラス一背の高いバスケ部キャプテンといつの間にか付き合っていて、俺の初恋は告白する前に終わってしまった。悲しみが深すぎる。

 その悲しみを糧に、俺は更に牛乳を飲み続けた。

 そしてようやくあと数センチで平均身長に到達するぞというところまできた段階で、高校に進学したんだ。

 選んだのは、同じ中学の奴が誰もいない、家から結構離れた場所にあるこの高校。知り合いゼロを選択したのは、少しでも中学の二の舞を避ける為だった。
 
 身長が少し伸びたお陰か、顔もちょっとは大人びてきたと思う。腋毛も下の毛もなんならすね毛すら生えずツルッツルで泣きたいけど、それでももう私服を着ていても女子に間違われることはきっとない筈だ。

 だからとにかく、俺より可愛い存在よ早く降臨しろ――!

 心の中で、熱心に祈り続けた。

 と、その時だった。クラスが急にざわついたと思った直後、教室に入ってきたとある人物に視線が一気に集まる。

 俺の斜め後ろの席に座っていた女子が、知り合いらしい別の女子に話しかける声が聞こえてきた。

「あの子だよあの子! 今度デビューする、アイドルグループの『東京REIWA☆ボーイズ』のメンバーの子!」

 なんだそのクソダサなネーミングセンスは。でも確かにインパクトは相当でかいかもしれない。アイドルなんて一切興味がない俺でも、一瞬で覚えたもんな。

 ちらりと目線をそいつのほうに向けたけど、みんなが立ち上がって見ようとしているせいでちっとも見えない。

 その間にも、女子たちは黄色い声を上げながら詳しい情報を語り続けた。

「この間の最終メンバー決定回の配信、見た! 人気投票ぶっちぎりだった、歌が滅茶苦茶上手い子だよね!?」
「そうそう! あれすごかったよね!」

 ほー。オーディションをネット配信か何かでやっていたのか。そりゃ知らなかった。男のアイドルなんて興味は一ミリすらない。

「羽鳥(はとり)樹(いつき)くんだよね! 名前からしてアイドルって感じなのに本名なんでしょ!?」

 へー。俺なんか佐藤洋一なんていう、全国にどんだけいるんだってくらい平凡な名前だよ。いいねえ、格好いい苗字の家に生まれた奴はよ。

 内心やさぐれつつ肘を突きながら何気なく人が集まっているほうを眺めていたら、突然モーゼの十戒みたいに人の波が割れた。その間から、とんでもないイケメンオーラをまとった超絶イケメンがこちらに向かって歩いてくる。

 どう考えてもあれが羽鳥樹だろう。体型からしてまず一般人からかけ離れている。なんだよその顔の小ささは。俺に対する嫌味か?

 俺はモテる男が羨ましくて仕方ないので、イケメンは嫌いだった。

 羽鳥樹は俺と目が合うと、お手本のような笑顔を見せた。男にすらこのにこやかな態度。普通にいけ好かない。イケメンで性格も愛想もよしとか、ふざけてんのか?

 超絶イケメン羽鳥樹は空いていた俺の隣の席に座ると、「今日からよろしくね」とにこやかに挨拶をしてきた。……左右を見渡す。奴の視線の先に座っているのは俺ひとりしかいない。

 ……え? 今俺に挨拶してきた?

 教室にいる奴らの視線が全て俺と羽鳥樹に集まってきてしまい、俺は焦り出した。ちょ、ちょっと待ってくれ! こんな初っ端から目立ちたくないんだけど!

 サッと目を伏せると、机の上に置かれている教科書類を確認するふりをしつつ、「……どーも」とだけ答える。

 早く去(い)ね! と心の中で吐いた。

「ねえ、君さ――」

 俺があからさまに視線を逸らしたのはわかるだろうに、羽鳥樹は更に話しかけてこようとしてきた。

 とその時、俺の斜め後ろの席の女子が上擦った声で羽鳥樹に話しかける。

「あ、あのっ、羽鳥くんですよねっ!? 今日から一年間、よろしくお願いします!」

 羽鳥樹は彼女のほうに向きなおると、「あ、俺のこと知ってくれてるの? 嬉しいな! こちらこそ一年間、よろしくね!」とアイドルのお手本のような返事をした。

 すると次の瞬間、クラスの他の奴らがうわっと羽鳥樹の周りに集まり、教室内が一気に喧噪に包まれる。誰も俺のことなんて見もしない。

 ……俺より可愛い子がいればと思ったけど、イケメンでもここまでイケメンだと野郎も寄っていくものらしい。

 しめしめ、これで俺の高校生活は穏やかにいけそうだぞ――!

 入学初日、俺はそう思ってほくそ笑んだ。