おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

「はる?迎えに来たよ」
電話の向こうで遊の声…
「…えっ?約束って12時に駅前だよね」
「うん。」
「今、今は」
「11時、温の家の前にいる」
「えー、準備。ちょっとまって、準備は、準備は出来てるんだけど」
心の準備がぁ…
「あと、親も来てて」
「…」
僕は、携帯を手に持ったまま、慌ただしく、ドタバタと階段を降り、ガチャガチャと玄関の鍵を開けた。
そこには、上品な箱星親子が、にこやかに立っていた。
遊は
「どうも」
と手をあげた。
僕も、鏡のように
「どうも」
と手をあげた。

僕の背後では、ウチの母親が
「ドタバタドタバタなんなのー」
と、いつもの調子で出てきた。
「あら、お客様?」
声のトーンが上がる母親。これも、いつもの調子。
 
ということで、今、ウチのリビングには、
緊張した箱星親子と、脳天気なエプロン姿の母と、
寝起き、寝癖、パジャマ姿の姉と、
ドギマギとテンパり顔の僕が、
顔を突き合わせている。

「もう〜こんなにカッコいい友達がいるなんて、ウチ子、全然、学校の話、してくれないんですよ」
「本当にカッコいいわね。どの角度も、つむじまで」
と首を延ばし、遊の頭の上まで見る、ねーちゃんに
「もう、ねーちゃん!」
パジャマを引っ張り、​腰を落とさせ、そのまま座らせる。
「ねーちゃんは、早く着替えてきたら」
「もう遅いでしょ」
「遅いってなんだよ」
「今から、いらっしゃる、っていうなら急いで、着替えるけど、もう、パジャマで会っちゃったんだから」
「意味分かんないよ、どうせ着替えるんだから、さっさと、着替えてこいよ」
お母さんは、僕達の小競り合いを
「あんた達、何をコソコソと。お客様の前よ。ほんとにもう。ごめんなさいね。すみませんね。」
と、終わらせた。
「いえいえ仲いいですね〜」なんて、遊も、遊のお母さんも、当たり障りの無い、世間話をしている。
で、で、これはなんの時間ですか?
僕は遊に目で話す
「これ…どんな感じ?」
と。
すると遊は、背筋を伸ばした。
元から姿勢は良かったけど、より、改まって
「温君のお母さんと、母さんに、許して欲しいことがあるんです」
リビングの5人の空気が、一気にピーンと張り詰める。
許す?何を?遊、何を話すつもり?
「あら何かしら」
とウチの母親が、この空気に耐えきれず、茶化す。
「なに〜なに〜」
と、姉も茶化すモードにのっかる。
それでも遊は、真面目な顔で
「僕達、2人が18歳になったら、一緒に暮らすことを許して欲しいんです」
暮らす?一緒に?ど、同棲!?
お母さんとねーちゃんは、同時に僕を見る。
そう、見られましても…僕も何がなんだか…

「えっと…暮らすと言うのは…」
なぜか、僕が代表して、遊に聞く。
「大学生になったら、ルームシェアするってこと」
と、遊は、いたずらっ子ぽく笑った。
「あ〜ルームシェア…」
僕は、ルームシェアという表現に、ホッとした。

「ビックリした、何の話?って思っちゃった。いいじゃん!ルームシェア、姉としては、問題無いけど」
「そうねぇ。おばさんも、一瞬、なんのことか、よく分からなかったわよ。でも、ウチは、大丈夫だけど、箱星さんは、どうですか?ウチの子、雑だし、ご迷惑じゃないかしら」
と、ウチの母親は、遊のお母さんに話をふった。
遊のお母さんは、ゆっくり、ティーカップに手をのばし、紅茶で唇をぬらした。
ウチの家族とは違う、ゆっくりとした時間が流れる。

「すみません、少し混乱していて」
と、頭を下げた。
ウチの母親は
「全然、そりゃそうですよね。別に今、決めなくても、また落ち着いた時にでも。まだまだ、先の話なんだから。ねぇ」
と僕に、同調して、この話を終わらせるように、目配せをしてきた。
だけど、僕には遊の気持ちがわかる。
今日、ここにきた理由、既成事実を作ろうとしている。
留学後、アメリカの大学に行けと言われない為に。
絶対に帰ってくる。その意思を、遊のお母さんに、伝えているんだ。
遊は、黙って、遊のお母さんの言葉を待っている。
「人様のお宅で、お話するような事では無いですが」
「そうですよね、あっ私たちは、2階にでも行ってましょうか」
と、ウチの母親が椅子から腰をあげる
「いえ、いてください。僕のことは、温君のことでもあるので。温君のご家族にも、聞いて頂きたいです」
遊の目力に、ウチの母親は、ゆっくり腰を下ろす。
遊は、
「母さん、話して」
と促す。
「お恥ずかしい話なんですが、アメリカに行くのは、この子の留学の為だけではなくて、私の、療養の為でもあるんです。ですから、期間のお約束は、なかなか出来ない…と言うのが本心です。でも、母親として、遊の幸せを願う、気持ちはもちろんあります。…草壁さんがよろしかったら、温君が、待っていてくださるのなら、…お願いします」
と頭を下げた。
「そんな、頭、上げてください」
ウチの母親は、そう言いながら、テーブルに置かれた、遊のお母さんの手の上に、自分の手を重ねた。
「お体、大丈夫ですか?」
「はい、ありがとうございます」
「留学されるんですね、ごめんなさい。ウチのコ、本当に、何も話してくれなくて」
「明日、出発します」
母親達の会話を、子供の僕らは、見守っている
「明日…それで、ご挨拶に、いらしてくれたんですね」
「突然押しかけてしまって、すみません」
「いえいえ、お会いできて良かった。これから長いお付き合いに、なりそうですもの〜」
「ええ、よろしくお願いします」
ハイっと、ねーちゃんが手を叩いた。
「ってことは、お二人は、温と遊君のルームシェアに賛成して頂ける?」
と、仕切り出す。
「お母さんは、もちろん構わないけど」
「はい、私も。家事も何も、教えて無くて」
「そんなこと言い出したら、ウチもですよ。全然、しつけが行きどどいてなくて」
母親同士が、僕らの謙遜をし合ってる中、ねーちゃんが
「こっちは、任せて。早く出なさい」
「えっ」
「今日が最後の日なんでしょ」
僕が、戸惑っていると、遊は
「ありがとうございます、お姉さん」
と、ねーちゃんに頭を下げて、僕の手を引いて玄関を出た。
早足で歩きながら、次第に僕らは走っていた。
気がつけば、全速力で

はぁはぁはぁ
振り返っても、誰もいない
はぁはぁはぁ
別に、誰にも、追いかけられて無いのに
必死で逃げた自分達に、笑いが込み上げる

はぁはぁはぁ
「疲れたー」
僕は歩道でしゃがみ込んだ
「疲れたね…温のお姉さん、大丈夫かな」
「大丈夫、大丈夫。多分、出前でもとって、女子会〜とかしてそう。あっ、遊のお母さんは、そういう軽いノリ、大丈夫?ノリは軽いのに、2人とも圧があるから。」
「全然大丈夫。多分、楽しんでる。これからどうする?どこに行こっか?」
「ここを真っすぐ行ったら学校なんだけど。行ってみる?学校?」


僕らはコンビニで、ご飯を買って、学校に忍び込んだ。
シーンと静まりかえる廊下
「本当に誰もいないのかな?」
「クリスマスだから、部活は休み。先生も警備員さんも休みかもな」
僕は、二人っきりの、この状況に緊張しだした
僕と遊だけの学校

「せっかくだし、最初の思い出の場所に行こうか」
「「UFO」」

僕らは、あの時のように、屋上まで走った。
冬の冷たい空気の中でも、屋上での思い出や、景色か、心を、暖かくしてくれる。

UFOをよんだ場所
フェンス越しに見える遊と過ごした街
「遊、あっちに見えるの、いつもの公園だよね。向こうは石川屋かな」
遊がいなくなっても、遊との思い出が僕を優しく包んでくれる
ここで、僕は、遊を待っている…

「遊、今日は来てくれてありがとう。遊のお母さんに会えて嬉しかった」
遊も、遠くの街を見ながら
「俺も、温の家族に会っておきたかったんだ。ちゃんと挨拶して、ちゃんと戻ってくるって伝えたかった」
「大学は日本って、確定になったしね」
「そこは、ちょっと強引で、正攻法では無かったけど。俺と母さんだと、お互い、また同じ失敗をしそうで。もう、母さんとはケンカしたくない。
だけど、温とのことは譲れない。だから温の家族に、協力してもらうしかないかなって。」
「遊はスゴイよ。いつも、僕の一歩もニ歩も先を考えてて」
「今回は、特に必死だっただけ。正しさなんてどこにもいらない。温との約束だけを守りたい。そう思った。」
僕はフェンスにもたれて、風に肩を震わせながら
「遊は強いな」
と、呟いた。
「強くなんてないよ」
と、照れながら、自分のマフラーを、僕に巻いてくれる遊。
「ありがと。暖かい」
僕は、首元に手を持っていき、一緒に温めた。
「遊は強いんだよ。僕は正しさや常識を振りかざさないと、前には進めない。」
「だから温といると安心するだよ。俺は。」
「えっ?」
「自分の常識や、自分の考えの枠にはめて、突き進んじゃうから。温が側にいてくれると、独りよがりじゃないって、確信できる」
「羨ましいよ。独りよがりでもいい。僕は、その自信が欲しい」
「温?」
遊の優しい眼差しに、全てを委ねて、遊の気持ちを聞きたくなる。
こんなこと、聞いてもどうしょうもないこと。
だけど、だけど
「温?」
「遊。僕らの、この、名前の無い関係に、永遠を誓える?」
聞いてしまった…
ずっと心の奥に、隠していた言葉

「誓います」
冬の静かな空に、遊の澄んだ声が響く
 
遊は両手で僕の手を包み、僕を見つめながら続ける。

「健やかなる時も、病める時も、箱星遊の命ある限り、草壁温に、真心を尽くすことを誓います」
僕は、幸せに震えながら、小声で答える
「ありがと。僕も誓います」
遊は、僕をそっと優しく、座らせてくれる
そして、自分のコートに僕も入れてくれた。
パラパラと雪が降ってきた。
空を見上げながら、もっともっとと、キュッとキュッとと、2人でくっついて、くっついて、僕らは、やっとひとつになった。