おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

「部活、大丈夫だった?」
「うん、明日でも出来ることだし」
僕らの声は、運動部員たちのランニングの声に、かき消されるほど小さい。
校門を出れば少しは静かになる。
だけど、我慢出来ずに、だけど、声は小さいままで遊に尋ねる。
「帰ってくるの早まったの」
「えっ?」
案の定、運動部員の掛け声に、僕の問はのまれた。

僕は、全身のスイッチをオンにする。
声も大きく、顔も笑顔に、
「帰ってくるの早かったね」
「あぁ、一人で帰ってきたから」
「えっ?なんで?」
遊の予想外の答え。
「一人で帰ってきた。母が9月いっぱいいる、とか言い出して、俺は帰るって帰ってきた」
「大丈夫なの?」
僕は、遊の顔が見たくて、遊の前を後ろ向きに歩く。
「大丈夫、じゃない。温、ちょっと公園でゆっくり話さない?」
深刻な遊の表情に、怖さを感じた。
 
 
僕らは公園のベンチに、並んで座っている。
遠くの遊具の方から、小学生たちの遊び声が、かすかに聞こえる。
「これ、お土産」
「えっ、これって」
遊から渡されたお土産は、エコバッグ
だけど、ただのエコバッグじゃない。
アメリカのスーパーのエコバッグ
以前、豆皿さんがラジオで、めちゃくちゃ使いやすいって話してた、そのエコバッグだ。
つまり、遊は、豆皿さんのラジオを、聞いてくれてるの?
ほら、遊はズルい。
もう、イライラしてた気持ちが溶けていく。
「遊、これって、豆皿さんの」
「うん、アメリカに行く前から、温へのお土産は、これって決めてたんだ」
「ありがとう」
帰国の、連絡をくれなかったこと、とか。放課後、勝手に待ってることを決めちゃうこと、とか。色々モヤモヤ思ってた、心のわだかまりが、遊の側にいて、遊の優しさに、浸っていると、いつの間にか無かったことになる。
僕って単純なのかな。

「あっ、さっき、大丈夫じゃないって言ってたけど、何かあった?」
遊は、深くため息をついた後
「うん、足掻いてくるって言ったこと」 
「あ〜」
「めちゃくちゃ、足掻いた。めちゃくちゃ足掻いて、足掻けば足掻くほど、自分が子供だと実感した」
「子供?」
「うん、残念だけど、俺らは、まだまだ子供で。あの子たちとたいして変わらない。」
遠くの、遊具で遊んでいる小学生に、目を向ける遊。
「何があったの?」
「何一つ、思い通りにはいかない。ホントに残念で申し訳なくて、悔しくて」
遊の声は、少し涙声に聞こえた。
うつむいているから、表情は分からない。

「遊、何かあった?お母さんと?」 
「あった。あり過ぎた。だから、温に会いたかった。温、助けてーって。何度も思うけど、メッセージには定番の文しか打てなくて。どうしょうもなくて、もう、親なんてどうでもいい!って思ったけど、そういうわけにはいかなくて」
遊の涙が地面に落ちた。ポタポタと…
遊の心の葛藤が、伝わっわてくる。

「そりゃそうだよ!親なんだから、家族なんだから。どうでもいい!なんて、出来ない。わかるよ遊」
「だけど、それだと、温と約束した、足掻くが、ちゃんと出来なくて」
「いいよ、いいんだよ。遊…そんなの出来なくて。」
僕は、遊の肩に、腕を回して抱きよせた。
ヒクヒク頼りなく揺れる遊の肩
いつもより小さなその肩を僕は強く、強く抱き抱えた。

遊はアメリカで、一番戦いたくない相手と、凄く頑張って戦ったんだ。
なのに、連絡をくれないとかグチグチ思ってた自分に、腹が立つ。
こんな時に、なんと声を掛ければいいか、何も浮かばない自分の語彙力の無さに、情けなくなる。

「遊、遊も僕も家族が大事で。遊の大事な物?人は、もちろん僕も大事で。だから僕も、遊のお母さんが大事で。だから、いいんだよ。これで。遊、だからいいんだよ」
僕は、とにかく、伝わって欲しくて、強くハッキリと言った。内容はともかく…
「だけど」
「18、大人って18だろ?あっという間だよ」
僕らは、泣いていた。
2人でシクシク泣いていた。
秋の居心地のいい空気の中で、どうしょうもなく、泣いていた。
散歩の人達に見られてて、居心地悪かったけど、居心地の悪さなんて、2人一緒なら、どうってこと無い。
子供の僕らは、乗り越えられない問題を前に、泣くしか知らなかった。
 
遊は落ち着いたのに、僕の方がまだ泣いちゃって、結局、遊に肩を抱き寄せられ、慰められた。
頼りにならない僕、遊の制服を汚したくない。
ポケットから、出そうとしたハンカチを落としてしまった。
「あっ」
すかさず、遊は、僕の足元のハンカチを拾い、砂を払ってくれる。
「ありがと」
ひざまずいたまま、上目遣いで、僕にハンカチを渡す遊。
夕日が遊を照らす
かっこよすぎるよ、遊
上目遣いは反則
かすかな風に、揺れる髪の毛
髪サラサラ過ぎでしょ
鼻高いし、まつ毛長いし、唇はピンク色だし、ほくろの位置まで完璧で、喉仏まで綺麗だし
あっ、うっかりしてた。
遊のカッコよさは無限だった。
こんな風に数え出したらキリがないんだった。
「はる?」
まだ、僕の足元で、ひざまずいたままの遊が優しく、僕を呼ぶ。
その声も、なんでこんなに、心に響くの?
そう、初めて話した日も、遊の声は僕の心を動かした。

「温、これって俺のだよね?」
「えっ?」
僕の足首のアンクレットに、遊の手が触れる
足がドクンと熱くなる
ドクドクドクドク高速に足に血液が集まって、爆発して、めちゃめちゃに足が動いて遊を蹴っちゃう。
「…そうだよ」
僕は、全神経を左足首に集中させ、爆発しないように気を張る
遊は、僕の目を見ながら
「これも?」
と、僕の左手に触れた
えっ、近い…、中腰で前かがみの遊に、僕の心臓が、悲鳴を上げている

「うん」
頭なんて働かない。
目の前の遊しか見えてない。
もっと触れられたい。僕は今、何の返事をしてる?
これってどういう状況?

「これも?」
ビビビっと体が痺れる感覚。
大きな手が、僕の頬を優しくつつみ込む
「…うん」
このまま、もしかして…。それでも…いいと思った。僕の体中のアドレナリンが駆け回っている
僕達キスをする?

「…よかった」
遊は、ホッとした表情を浮かべ、僕の頬から手を離した。
そして、ドサッと僕の隣に腰を下ろした。
遊は僕に微笑む。
僕も同じように表情を作るけど、きっと出来ていない。
僕、キスする覚悟決めてた…
ヤバ!ダメだ。ダメだ。
とにかく一旦、落ち着こう
夕日を眺めながら、僕は、ゆっくりと遊にバレないように、何度か深呼吸をした。
僕は遊を失いたくない。
もう失敗しないって決めたじゃないか!