遊は、アメリカに行った。
終業式より、1週間も早く。
遊いわく、母親が、アメリカ行きを、待ちきれなくてフライングした。そうだ。
ほんと、子供みたいな人なんだよ。
そう笑う遊は、幸せそうで。僕の心には、もやっとした感情が湧いた。
これは嫉妬?遊のお母さんに?
それとも、1週間も早いなんて、あり得ない!と母親に怒らなかった遊に、ガッカリした?
「あ〜わかんねぇー」
誰もいない部室までの廊下で、独り言
「でけー独り言だな」
えっ、誰かいた?
僕は振り返る。
そこには、赤髪、長身、タンクトップ男がいた。
特徴多すぎ!
「すみません」
僕は、小さく縮こまり、早足に部室へ向かった。
赤髪、長身、タンクトップ男も
「別にいいけど〜」
なんて言いながら、ブラブラとついてくる。
いや、ついては来てないんだろうけど。何部だ?
ウチの部室の近くには、将棋部…違うな
天文部…違う?
数学部…似合わない
あとは〜?
そう考えている間に、落研の部室に到着していた。
まだ、赤髪、長身、タンクトップ男が後ろにいる。
これより奥の部室って…
「早く開けて」
ドアノブを持ったまま、鍵を開けずに、考え込んでいた僕に、赤髪、長身、タンクトップ男はせっついた。
はいはい、早くねーって
「えー?」
僕は、振り返る。
「ここなの?部室?」
つい、タメ口になってしまったことに焦った。
「落研だろ?ここ」
「はい」
え?
「はい、開けて」
えっ?えっ…
「でも、部員は、3年の先輩2人と、1年の僕と」
「2年の俺」
と赤髪、長身、タンクトップ男は、自分を指差した。
「…?えー」
僕の頭の整理が追いつかない。
幽霊部員?
赤髪、長身、タンクトップ男はズカズカと部室に、入り、いつも僕が座っているソファに、ドシッと腰を下ろした。
「2人は?」
「えっ?」
「部長と副部長」
「あー、えっと、夏休みは塾の夏期講習があるので、ほとんど来れないと」
「えーなにそれ。じゃあ文化祭の落研のブースどうすんの?」
「さぁ?一応、好きな落語を一つ覚えておくようにと言われてます」
「ふーん。そんな入口にずっと立ってないで、座りなよ。いつものとこに」
はい。
そのいつものところが、あなたの座っているソファなんですが…
とは、とても言えない。
ふんぞり返っている彼の、斜め前のパイプ椅子に、リュックを膝に抱き座った。
本当に、この人が落研?
「好きなの?」
「…」
「落語」
「あー、えっと、実は全く知らなくて」
「ふーん、じゃあ、お笑い好きで、入ってみたら、こんな感じだったってこと?」
と、手のひらで、部室内を指した。
「そう、ですね」
「ガッカリしたでしょ?入部した時」
「いや、」
「気を使わなくていいよ、俺もだから。俺もガッカリして、幽霊になった」
「あーそういうことでしたか」
「でした。だから一緒、俺と。君、名前は?」
「はい、草壁です。草壁温です」
「温君ね。俺は!山名渉」
山名さん。鬼頭とか嵐山とか、そっちの名前が似合う。
だいたい、2年にしても、この赤髪、ダメだよな。
赤鬼とかあだ名つきそう…
「今、何かんがえてる?」
「えっ、いや別に」
「なんか、ごちゃごちゃ考えてたでしょ。そういうの声に出した方がいいよ。それが案外、漫才につながったりするから」
「えっ、僕の思ってることがですか?」
「うん、しゃべくり漫才って、思ってることがベースだと思うけど」
そう言われると、豆皿さんのラジオは、漫才みたいだと思っていた。
「なるほど。です」
「どんなお笑いが好きなの?漫才?コント?それとも、もっとお芝居的なもの?」
「僕は、漫才が好きです。コントもコメディ的なお芝居も観ますが、漫才が一番好きです」
「どうして?」
「どうしてと、言われましても」
「コントも面白いじゃん」
あれ?山名先輩ってコント好き?コントより、漫才のどこが面白いんだよーってイラッとしてる?
「はい、コントも面白いです。」
「じゃあ、どうして?漫才」
「それは」
僕は、うっすら感覚で感じていたことを言葉にした。誰にも理解されることのない感覚。
それを、言葉にしてみた。
「それは、カッコいいからです。もちろん、コントも漫才もどちらも面白いです。だけど、漫才師さんの方がカッコいいです。僕は。個人的には」
足元を見ながら、話さない山名先輩。怒られる?
すると、突然、山名先輩は立ち上がり僕にハグをした。
なに〜?
「一緒!いっしょだよー」
ハグしたまま、僕をブンブン振り回す。
「はい?一緒?」
ブンブンが、おさまったと思ったら次は、両肩をガシガシと揉まれる。
「俺も、俺も、断然、漫才の方がカッコいいと思う」
「あ〜そうですよね!」
僕は安堵した。
両肩のガシガシが終わったかと思うと、次は肩に腕を回され、ソファに並んで座らされた。
「で、誰が好きなの?」
近い!そう大きくもない2人掛けソファに、大型長身が足を広げて座ってるんだから、おのずと、隣の僕とは密着してしまう。
「誰?」
先輩はニコニコで、僕の答えを待っている。
ここで、豆皿さんと言う勇気がない。
豆皿さんは、もちろん面白い。だけど、万人受けするネタではない。先輩は誰が好きなんだろう?僕はつい、賞レース優勝経験のある、テレビにもよく出ている、コンビを伝えた。
「ホントに?案外、普通なんだな」
ガッカリしてる。
「すみません」
「別にいいよ。お笑い好きがみんな、コアなお笑いまで詳しいわけじゃないし。普通にテレビのバラエティが好きで、お笑い好きです!でもいいんだから」
なんか、ひっかかる言い方…
「先輩、僕、テレビのバラエティ以外でもお笑い観ます。劇場に行ったこともありますし、ラジオも聴いてますし」
「ラジオ?誰の?」
「えっと…」
ここで言わなかったら、ハッタリだと思われる。
僕は、両手の拳に強く力を入れた。
「豆皿さんです」
「…」
無言?この時間なんなの?
バカにするなら、すればいい。それでも僕は、豆皿さんが一番好きで、
「マジで!俺も。俺も聞いてるよ。豆ラジだろ?」
「はい」
僕は先輩のテンションに、あっけにとられている。
「マジかぁ、豆ラジ聞いてるヤツに、初めて会えた」
先輩は、座りながら、ぴょんぴょんと跳ねている。
「喜び過ぎですー」
「そりゃ、喜ぶだろ」
と、肩をギュッと抱き寄せた
「僕も嬉しいですけど」
「マジかぁ」
先輩は、感慨深く天井を見あげている
「豆ラジ、めちゃくちゃ面白いよな」
と、満面の笑みで僕をみる。
「はい、めちゃくちゃ面白いです。それに、つい、こちらも考えたくなるお題というかテーマで」
「そうそう、俺も豆皿の2人より面白い答えを、みつけてーって考えまくる」
「はい、僕もつい、ラジオ止めて考えちゃいます」
「わかるわかる!」
「そのまま、豆皿の答え聞いちゃったら、もうそれが正解ってゆうか、それ以外思いつかなくなるよな」
「そうなんですよ、それで」
僕らは気がつけば、夕方までお笑いの話をしていた。
豆皿さんの話はもちろん、他の若手芸人さんの話、どこの劇場が好きかの話、ショピングモールの営業までチェックしてるか?などなど、他愛もない、だけど、話し出したら、止まらない話。
こんな風に、誰かとお笑いについて話せる日がくるなんて、幸せ過ぎる。
僕は明日からの部活にワクワクしていた。
ふと、僕の心に遊が顔を出した。
遊ともこんな風に話せたら、完璧なのに。いや、完璧過ぎて、好きが爆発して暴走して、今みたいに抑えられない。
僕の全てが遊になる。そうなりそうで…だけど、そんなことになったら、必ず、遊を失う。
そんな、怖いことを想像してしまった。
無理無理無理。僕の人生から遊がいなくなるなんて。
遊とは、今のままが一番いいんだ。
遊とは、好きなものが、バラバラぐらいがちょうどいい。
「赤鬼って言われません?」
「なんだよ、急に」
「いえ、先輩のサイズ感と、髪型と、赤過ぎる赤が、鬼だなーと思いまして」
僕は、190以上はある先輩を見上げる
「人のこと、鬼に例えといて、キラキラの目でみてんじゃねーよ」
「キラキラの目なんてしてません」
「してたね!キラキラ、ぽわぽわしてましたぁ!惚れんなのよ!俺に」
「惚れるかー」
僕らは、笑い合いながら、夏休みの廊下を歩く。
「しかし、こんなに、誰もいないかねー」
「そうですねー先輩、生徒全員、食べました?」
「鬼じゃねーよ」
「(笑)文化部は、夏休みの活動ないんですかね」
「文化部なんて、家で出来ることばっかだろ。こんな暑い中、わざわざ学校こないよな」
「なるほど、じゃあ、なんで、僕らは来てるんですか?」
僕らは、先輩のバイトがない日は、ほぼ毎回、部室に集まって、何気ない話を夕方までしていた。
「お前が、俺に会いたいからだろ?」
「会いたくねーよ、赤鬼なんか」
「だれが赤鬼だよー」
僕らの中で、僕が先輩を好きなキャラ。先輩が赤鬼説のイジりが定番になっていた。
部室の狭いソファに2人で収まり、昨日見たバラエティの話をする。
「あれは、絶対、ドッキリって分かってたよな」
「はい、だから、流石なんです。ザッ、リアクション芸人。カッコいいです」
「そうだよな〜俺は無理だわ。ワサビ入りって分かってて、寿司食べるとか」
「僕もです。食べるだけなら根性でいけるかも、ですけど。結局、あんなに面白いリアクション出来ませんから」
「だな。カッコいいよな」
「はい、誰かを笑顔に出来るって。凄くカッコいいですよね」
僕らの会話は、いつもここに着地する。
芸人さんてカッコいい。
先輩は正面をみていた体を少し僕に向け、真面目な顔で
「やってみようか、漫才」
と言った。
「やってみる?」
「そう、文化祭で」
「えー僕と先輩がですか?」
「そう」
先輩の目に迷いはない。
「でも、ネタは?僕、書いたこと無いです」
「俺も」
「じゃあ、ムリじゃないですか」
「ムリじゃないでしょ〜後、2か月あるんだから」
「そうですけど…出来るでしょうか?」
「出来る!出来ると思わないと、何事も始まらないだろ?」
「そうですけど…ネタってどこから?どう書くのか?」
「とりあえず、〈はい、どうも〜〉から書いてみる?」
「そうですけど…その後が、続きますか?」
「そうだな、テーマ決めるか?デートとか」
「そうですけど…デートはちょっと、したことないですし」
「あー、そうですけど、そうですけど、ってうるせいな!」
先輩は勢いよく立ち上がった。
「すみません、でも、ネタって」
「決まり!コンビ名は、〈そうですけど〉だ」
また、突調子も無いことを適当に
「先輩、僕は真剣に」
「こっちの方が真剣だよ。ウダウダ言い訳ばっか言わねーように!コンビ名を聞くたびに、言い訳は、良くないって実感しろ」
僕は圧倒された
「じゃあ、そういうことで。」
先輩は帰ろうとしている。
「そういうことって?」
「漫才のテーマはデート。コンビ名は〈そうですけど〉次に合う時までに、漫才一本書いてくる」
「えっ、?次って?」
「来週。来週の月曜、10時に部室集合。以上」
「1人でそれぞれ書くってことですか?」
「一旦な。ここにいたら、お前がいて集中出来ないから、俺は出る!じゃあな」
そう言って先輩は、バタバタと出て行った。
一度大きく深呼吸をしよう、
頭をクリアに、落ち着こう……
ええー僕、人前で漫才するのぉぉぉー
僕は頭をグシャグシャにしながら、部室を歩き回った。
えーえーえー、どうしょう、、
だって、変だよ!ずーとぼっちだった僕が、いきなり人前で漫才?
絶対、笑われる。笑わせるじゃなくて、笑われる
遊、どうしよう…
遊に会いたい。相談したい。
アメリカに行ってからも、毎日メッセージのやり取りはしている。
でも、時差もあるし、遊はサマーキャンプ?とか言うのに参加してるらしく、言葉も通じない中、忙しく大変な様子。だから、メッセージでは、応援しかしたくない。こんな相談、できない。
終業式より、1週間も早く。
遊いわく、母親が、アメリカ行きを、待ちきれなくてフライングした。そうだ。
ほんと、子供みたいな人なんだよ。
そう笑う遊は、幸せそうで。僕の心には、もやっとした感情が湧いた。
これは嫉妬?遊のお母さんに?
それとも、1週間も早いなんて、あり得ない!と母親に怒らなかった遊に、ガッカリした?
「あ〜わかんねぇー」
誰もいない部室までの廊下で、独り言
「でけー独り言だな」
えっ、誰かいた?
僕は振り返る。
そこには、赤髪、長身、タンクトップ男がいた。
特徴多すぎ!
「すみません」
僕は、小さく縮こまり、早足に部室へ向かった。
赤髪、長身、タンクトップ男も
「別にいいけど〜」
なんて言いながら、ブラブラとついてくる。
いや、ついては来てないんだろうけど。何部だ?
ウチの部室の近くには、将棋部…違うな
天文部…違う?
数学部…似合わない
あとは〜?
そう考えている間に、落研の部室に到着していた。
まだ、赤髪、長身、タンクトップ男が後ろにいる。
これより奥の部室って…
「早く開けて」
ドアノブを持ったまま、鍵を開けずに、考え込んでいた僕に、赤髪、長身、タンクトップ男はせっついた。
はいはい、早くねーって
「えー?」
僕は、振り返る。
「ここなの?部室?」
つい、タメ口になってしまったことに焦った。
「落研だろ?ここ」
「はい」
え?
「はい、開けて」
えっ?えっ…
「でも、部員は、3年の先輩2人と、1年の僕と」
「2年の俺」
と赤髪、長身、タンクトップ男は、自分を指差した。
「…?えー」
僕の頭の整理が追いつかない。
幽霊部員?
赤髪、長身、タンクトップ男はズカズカと部室に、入り、いつも僕が座っているソファに、ドシッと腰を下ろした。
「2人は?」
「えっ?」
「部長と副部長」
「あー、えっと、夏休みは塾の夏期講習があるので、ほとんど来れないと」
「えーなにそれ。じゃあ文化祭の落研のブースどうすんの?」
「さぁ?一応、好きな落語を一つ覚えておくようにと言われてます」
「ふーん。そんな入口にずっと立ってないで、座りなよ。いつものとこに」
はい。
そのいつものところが、あなたの座っているソファなんですが…
とは、とても言えない。
ふんぞり返っている彼の、斜め前のパイプ椅子に、リュックを膝に抱き座った。
本当に、この人が落研?
「好きなの?」
「…」
「落語」
「あー、えっと、実は全く知らなくて」
「ふーん、じゃあ、お笑い好きで、入ってみたら、こんな感じだったってこと?」
と、手のひらで、部室内を指した。
「そう、ですね」
「ガッカリしたでしょ?入部した時」
「いや、」
「気を使わなくていいよ、俺もだから。俺もガッカリして、幽霊になった」
「あーそういうことでしたか」
「でした。だから一緒、俺と。君、名前は?」
「はい、草壁です。草壁温です」
「温君ね。俺は!山名渉」
山名さん。鬼頭とか嵐山とか、そっちの名前が似合う。
だいたい、2年にしても、この赤髪、ダメだよな。
赤鬼とかあだ名つきそう…
「今、何かんがえてる?」
「えっ、いや別に」
「なんか、ごちゃごちゃ考えてたでしょ。そういうの声に出した方がいいよ。それが案外、漫才につながったりするから」
「えっ、僕の思ってることがですか?」
「うん、しゃべくり漫才って、思ってることがベースだと思うけど」
そう言われると、豆皿さんのラジオは、漫才みたいだと思っていた。
「なるほど。です」
「どんなお笑いが好きなの?漫才?コント?それとも、もっとお芝居的なもの?」
「僕は、漫才が好きです。コントもコメディ的なお芝居も観ますが、漫才が一番好きです」
「どうして?」
「どうしてと、言われましても」
「コントも面白いじゃん」
あれ?山名先輩ってコント好き?コントより、漫才のどこが面白いんだよーってイラッとしてる?
「はい、コントも面白いです。」
「じゃあ、どうして?漫才」
「それは」
僕は、うっすら感覚で感じていたことを言葉にした。誰にも理解されることのない感覚。
それを、言葉にしてみた。
「それは、カッコいいからです。もちろん、コントも漫才もどちらも面白いです。だけど、漫才師さんの方がカッコいいです。僕は。個人的には」
足元を見ながら、話さない山名先輩。怒られる?
すると、突然、山名先輩は立ち上がり僕にハグをした。
なに〜?
「一緒!いっしょだよー」
ハグしたまま、僕をブンブン振り回す。
「はい?一緒?」
ブンブンが、おさまったと思ったら次は、両肩をガシガシと揉まれる。
「俺も、俺も、断然、漫才の方がカッコいいと思う」
「あ〜そうですよね!」
僕は安堵した。
両肩のガシガシが終わったかと思うと、次は肩に腕を回され、ソファに並んで座らされた。
「で、誰が好きなの?」
近い!そう大きくもない2人掛けソファに、大型長身が足を広げて座ってるんだから、おのずと、隣の僕とは密着してしまう。
「誰?」
先輩はニコニコで、僕の答えを待っている。
ここで、豆皿さんと言う勇気がない。
豆皿さんは、もちろん面白い。だけど、万人受けするネタではない。先輩は誰が好きなんだろう?僕はつい、賞レース優勝経験のある、テレビにもよく出ている、コンビを伝えた。
「ホントに?案外、普通なんだな」
ガッカリしてる。
「すみません」
「別にいいよ。お笑い好きがみんな、コアなお笑いまで詳しいわけじゃないし。普通にテレビのバラエティが好きで、お笑い好きです!でもいいんだから」
なんか、ひっかかる言い方…
「先輩、僕、テレビのバラエティ以外でもお笑い観ます。劇場に行ったこともありますし、ラジオも聴いてますし」
「ラジオ?誰の?」
「えっと…」
ここで言わなかったら、ハッタリだと思われる。
僕は、両手の拳に強く力を入れた。
「豆皿さんです」
「…」
無言?この時間なんなの?
バカにするなら、すればいい。それでも僕は、豆皿さんが一番好きで、
「マジで!俺も。俺も聞いてるよ。豆ラジだろ?」
「はい」
僕は先輩のテンションに、あっけにとられている。
「マジかぁ、豆ラジ聞いてるヤツに、初めて会えた」
先輩は、座りながら、ぴょんぴょんと跳ねている。
「喜び過ぎですー」
「そりゃ、喜ぶだろ」
と、肩をギュッと抱き寄せた
「僕も嬉しいですけど」
「マジかぁ」
先輩は、感慨深く天井を見あげている
「豆ラジ、めちゃくちゃ面白いよな」
と、満面の笑みで僕をみる。
「はい、めちゃくちゃ面白いです。それに、つい、こちらも考えたくなるお題というかテーマで」
「そうそう、俺も豆皿の2人より面白い答えを、みつけてーって考えまくる」
「はい、僕もつい、ラジオ止めて考えちゃいます」
「わかるわかる!」
「そのまま、豆皿の答え聞いちゃったら、もうそれが正解ってゆうか、それ以外思いつかなくなるよな」
「そうなんですよ、それで」
僕らは気がつけば、夕方までお笑いの話をしていた。
豆皿さんの話はもちろん、他の若手芸人さんの話、どこの劇場が好きかの話、ショピングモールの営業までチェックしてるか?などなど、他愛もない、だけど、話し出したら、止まらない話。
こんな風に、誰かとお笑いについて話せる日がくるなんて、幸せ過ぎる。
僕は明日からの部活にワクワクしていた。
ふと、僕の心に遊が顔を出した。
遊ともこんな風に話せたら、完璧なのに。いや、完璧過ぎて、好きが爆発して暴走して、今みたいに抑えられない。
僕の全てが遊になる。そうなりそうで…だけど、そんなことになったら、必ず、遊を失う。
そんな、怖いことを想像してしまった。
無理無理無理。僕の人生から遊がいなくなるなんて。
遊とは、今のままが一番いいんだ。
遊とは、好きなものが、バラバラぐらいがちょうどいい。
「赤鬼って言われません?」
「なんだよ、急に」
「いえ、先輩のサイズ感と、髪型と、赤過ぎる赤が、鬼だなーと思いまして」
僕は、190以上はある先輩を見上げる
「人のこと、鬼に例えといて、キラキラの目でみてんじゃねーよ」
「キラキラの目なんてしてません」
「してたね!キラキラ、ぽわぽわしてましたぁ!惚れんなのよ!俺に」
「惚れるかー」
僕らは、笑い合いながら、夏休みの廊下を歩く。
「しかし、こんなに、誰もいないかねー」
「そうですねー先輩、生徒全員、食べました?」
「鬼じゃねーよ」
「(笑)文化部は、夏休みの活動ないんですかね」
「文化部なんて、家で出来ることばっかだろ。こんな暑い中、わざわざ学校こないよな」
「なるほど、じゃあ、なんで、僕らは来てるんですか?」
僕らは、先輩のバイトがない日は、ほぼ毎回、部室に集まって、何気ない話を夕方までしていた。
「お前が、俺に会いたいからだろ?」
「会いたくねーよ、赤鬼なんか」
「だれが赤鬼だよー」
僕らの中で、僕が先輩を好きなキャラ。先輩が赤鬼説のイジりが定番になっていた。
部室の狭いソファに2人で収まり、昨日見たバラエティの話をする。
「あれは、絶対、ドッキリって分かってたよな」
「はい、だから、流石なんです。ザッ、リアクション芸人。カッコいいです」
「そうだよな〜俺は無理だわ。ワサビ入りって分かってて、寿司食べるとか」
「僕もです。食べるだけなら根性でいけるかも、ですけど。結局、あんなに面白いリアクション出来ませんから」
「だな。カッコいいよな」
「はい、誰かを笑顔に出来るって。凄くカッコいいですよね」
僕らの会話は、いつもここに着地する。
芸人さんてカッコいい。
先輩は正面をみていた体を少し僕に向け、真面目な顔で
「やってみようか、漫才」
と言った。
「やってみる?」
「そう、文化祭で」
「えー僕と先輩がですか?」
「そう」
先輩の目に迷いはない。
「でも、ネタは?僕、書いたこと無いです」
「俺も」
「じゃあ、ムリじゃないですか」
「ムリじゃないでしょ〜後、2か月あるんだから」
「そうですけど…出来るでしょうか?」
「出来る!出来ると思わないと、何事も始まらないだろ?」
「そうですけど…ネタってどこから?どう書くのか?」
「とりあえず、〈はい、どうも〜〉から書いてみる?」
「そうですけど…その後が、続きますか?」
「そうだな、テーマ決めるか?デートとか」
「そうですけど…デートはちょっと、したことないですし」
「あー、そうですけど、そうですけど、ってうるせいな!」
先輩は勢いよく立ち上がった。
「すみません、でも、ネタって」
「決まり!コンビ名は、〈そうですけど〉だ」
また、突調子も無いことを適当に
「先輩、僕は真剣に」
「こっちの方が真剣だよ。ウダウダ言い訳ばっか言わねーように!コンビ名を聞くたびに、言い訳は、良くないって実感しろ」
僕は圧倒された
「じゃあ、そういうことで。」
先輩は帰ろうとしている。
「そういうことって?」
「漫才のテーマはデート。コンビ名は〈そうですけど〉次に合う時までに、漫才一本書いてくる」
「えっ、?次って?」
「来週。来週の月曜、10時に部室集合。以上」
「1人でそれぞれ書くってことですか?」
「一旦な。ここにいたら、お前がいて集中出来ないから、俺は出る!じゃあな」
そう言って先輩は、バタバタと出て行った。
一度大きく深呼吸をしよう、
頭をクリアに、落ち着こう……
ええー僕、人前で漫才するのぉぉぉー
僕は頭をグシャグシャにしながら、部室を歩き回った。
えーえーえー、どうしょう、、
だって、変だよ!ずーとぼっちだった僕が、いきなり人前で漫才?
絶対、笑われる。笑わせるじゃなくて、笑われる
遊、どうしよう…
遊に会いたい。相談したい。
アメリカに行ってからも、毎日メッセージのやり取りはしている。
でも、時差もあるし、遊はサマーキャンプ?とか言うのに参加してるらしく、言葉も通じない中、忙しく大変な様子。だから、メッセージでは、応援しかしたくない。こんな相談、できない。


