おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

20分も早く着いてしまった。
日曜の朝10時に、石川屋近くの公園で待ち合わせ
昨日は、結局、ねーちゃんを頼ることなく、返信をした。
ただ、〈うん、そうだね〉と打っただけ。
遊が指定してくれるままに、僕はここにいる。
石川屋へ続く横断歩道から、遊が小走りに駆けてくるのが見えた。
僕は、ベンチから、立ち上がり、小さく手を振った。
 
隣に座った遊は、肩で息をしている
「急がなくて良かったのに」
「温のこと、待たせたくないから」
僕は携帯で時計の画面を見せる。
「10時まで10分以上ある」
「ほんとだ、俺ら気が早いな」
と、遊は笑った。
いつも通り、遊の周りだけ、爽やかな空気になる。
見惚れてる場合じゃない。
次の会話は僕のターン
聞きたいことがあるって呼び出したんだから、聞かなきゃ…なんて?!

「えっと…急に連絡してごめんね。」
「全然、俺も連絡するつもりだったから。」
「えっ?なんで?」
「今日は七夕だから。温といたいなぁと思って」
七夕…七夕で僕を思い出してくれるなんて、嬉しい。
「あの時の短冊にも書いたんだ。七夕には温に会えますよーにって。だから叶った」
無邪気に目を細める遊。
カワイイ、ダメだ。顔がニヤついちゃう。
とにかく、聞かなきゃ。

「そっか、えっと…聞きたいことって言うのは、夏休みのことなんだけど、予定が分からないって言ってたけど、まだ分からないのかな〜って思って。まだ分からないなら全然いいんだけど。」
僕は、息継ぎ無しで、早口に話をした。
遊の顔は、恥ずかしくて見られない。
「うん、予定は分かってる」
遊の声が、曇った?
どうして?
僕は顔を上げ、遊の綺麗な前髪を見ながら
「言いたくないことなら」
と断った。
「そんなことないよ。俺も話さなきゃって思ってた、だけど、ズルズル、今日まで先延ばしにしちゃって」
怖い、何?遊のこんな感じ、初めてだ。

遊は、俯きながら
「実は夏休みは、ずーとアメリカなんだ」
と言った。
えっ?予想外というか、全然、想像もしていなかったことに、僕の思考は止まってしまった。
「えっと、アメリカ。あの海外のアメリカ?」
「そう」
「飛行機で10時間とか、もっとかかるアメリカ?」
「そう」
「ずーとって、ずーと?」
「うん、終業式から、始業式まで」
遊は、足をブラブラさせながら、質問ばかりする僕に
少し微笑みながら。
そう、いつもの、余裕のある遊に戻って、ゆっくりと話してくれた。

「実は、俺の父親、俺が小1の時に亡くなって」
そうなんだ。
だから遊はこんなに頼もしくて、大人なのか。小さい頃から、シャキッとピシッと自分の足で、踏ん張ってきたんだろうな。
ウチも単身赴任で、ほとんど父親はいない。だけど、家族全員、精神的には父親を頼りっぱなしだ。
「そう…なんだ」
「当たり前だけど、父が亡くなった時、母は、かなり気落ちして、体調崩すこともあって。だけど、近くに、母の妹夫婦が、住んでたから、なんとか支えてもらって。元気になって。今は、普通に過ごしているんだけど」
「そうなんだ、大変だったね」
「うん。で、その、妹夫婦が、半年前に、アメリカに行っちゃって。ご主人の仕事の都合で。」
遊は、ベンチから立ち上がり、2、3歩、歩く
「母は、自分もアメリカに住むーって」
住む?えっ、夏休みは旅行じゃないの?
「住むーって子供じゃないんだからって、感じだろ?」
「あっ、いや、でも、お母さん的には、妹さんの近くが安心できるのかな」
「そうだろうね。でっ、母的には、この夏休みで、俺にアメリカを猛アピールして、留学したい!って、俺に言わせる魂胆」
「なるほど…」
遊は、進んだ3歩を、大股、2歩で、勢い良く僕の目の前に戻ってきた。

「ちゃんと、ヤダーって足掻いてくるから、温は、そんな顔で心配しない」
と、僕の、両頬を引っ張った。
僕は、今、どんな顔をしてる?自分では分からない。
心配?とは少し違う。
遊がいなくなるかもしれない。
不安?寂しさ?どれもそうで、どれも違う。
僕の両頬をつねったり、伸ばしたりし終えた遊は、
「やっぱり柔らかい」
と、いつもの一億点の笑顔をみせた。

強いな、遊は。
それとも、こんなに、離れ難いのは、僕だけ?

遊は、自分の足首にしていた、細いシルバーのアンクレットを外し、僕の左足首につけれくれた。
足に心臓があるくらい、足がドキドキで、弾みそう。遊がアンクレットをつけづらくならないように、足が動かないように、両手で必死に、左太ももに、体重をかけた。
 
「着けてて。お守り」
上目遣いの遊の寂しそうな顔…抱きしめたい
 
ここで告白したら、僕らはどうなる?
いやいや。
急にどうしたの?と苦笑いする遊が想像出来た。
「ありがと」
アンクレットからは、まだ遊の体温を感じれる気がした。