おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

GW明けの教室。
楽しく過ごしたクラスメイトの話声が、あちらこちらから、ガヤガヤ聞こえてくる。
僕は縮こまり、早くこの時間が終わることを祈っている。
こういう日のぼっちが、1番嫌いだ。
心臓がチクチク痛い。
針のむしろ…って表現はあってるのかな?
例えるなら、夕食で大皿に残った最後の春巻き。春巻きも、きっとこんな気持ちだろう…いや、唐揚げの方が定番か?
 
「ねぇ、雨好きなの?」
机で頬杖をつきながら、ぼーっと唐揚げのことを考えていると、心臓が高鳴った。
おもちゃ箱が、僕に話しかけてきたからだ。
「えっ?」
急に整った顔が目の前に現れて、息が出来ない。
「別に…」
チャイムがなり、おもちゃ箱は、自分の席に戻っていった。
はぁ、
苦しかった。

斜め前にいる、おもちゃ箱を、頬杖をついた、指の隙間から、まじまじと見る。
制服は、ネクタイを緩めボタンを3つも開けて、シャツの裾を出して着ている。上履きのかかとを踏んでいることもある。これがファッション界における抜け感?というのか…おもちゃ箱以外がしたら、だらしないだけだ。

さっきの、雨が好きって…何のことだ?
雨…雨宿り?雨だれ?…ショパン?
僕は、コソッと耳にイヤフォンをつけ、ショパンの雨だれを再生した。
その音色が、頭も心も呼吸も、全てを穏やかにしてくれる。
ぼっちで、チクチクしていた、気持ちが少しは落ちついた。
おもちゃ箱に目をやると、いつも通り、授業を寝て受ける気だ。
僕も目を瞑る。

うちの母は家でピアノを教えている。
僕と姉も、2歳の頃から弾いていたけど、とうの昔に挫折していた。
クラシックを聴くほど、ピアノを弾くことが好きになれなかった。
雨だれは、母が雨の日に弾いてくれた。
どんなに、外が雷雨でも、穏やかな気持ちになれた。そして、その、雷雨さえ、優しく包み込みたくなる、そんな心持ちになれた。
 
放課後
来週から中間テスト。
クラスのみんなは、今日から部活が休みになるので、今から遊びに行くらしい。
ぼっちの僕には、関係ない話
帰る準備をしていると、僕の真後ろの、田中君が津田君とUFOの話を始めた
なんか、面白そう…
帰宅準備のペースを落とし、こっそり耳を傾ける

「呼ぶって?今から?」
「そう、梅雨に入る前がいいし、中間の前に、って思うと、今日しかない。明日から、天気は曇予報だから」
UFOを?呼ぶ?
田中君は、どうやら本気らしい
「2人で出来るの?」
津田君も、真に受けて話を進める
どんな、顔してこんな話をしてるんだよ!
顔をみたいけど、振り向けない

「2人でも出来るけど、本当は4人がベスト。UFOが来た時に、全部の方角を見落とさない為に。」
「あと2人?」
2人が、辺りを見渡す様子が背後で感じる。UFOには、全く興味は無い、でも面白そうな気配は感じる。いや、だけど、僕から急に話かけるのは…
 
「俺らでよかったら協力するけど」
トントントン…心臓が高鳴る声…
俺ら…えっ?僕の机の横で、おもちゃ箱がそう言って、僕に微笑んでいる。
…つまり、俺らって、おもちゃ箱と僕?!

「えっ、いいの!」
田中君はノリノリで、もうUFOを呼ぶ計画の説明を始めている
えっ…?
全然、ついていけて無いんですけどー
おもちゃ箱…いや、箱星君も、多分、分かってない様子。
箱星君は、田中君が、饒舌に呪文の説明をしているところに、割って入り
「とりあえず、屋上だろ?」
と、僕の手を握った

「えっ?」
冷たい手。
僕の汗ばんだ手が恥ずかしい。

「行こう」
箱星君に手を引かれて、屋上を目指して廊下を走る
田中君達は、僕らの、後を追いかけてくる

すれ違う生徒達は、箱星君と僕がセットでいることに、目が点になっている。
すれ違う先生に、走るなーと声をかけられる
はーいと、元気に返事をするだけの箱星君、走ることは止めない
いや、この状況、めっちゃくちゃ青春してるんですけど、ぼくー
自分を客観的にみてニヤけてしまった。

胸の痛みの原因は、手を繋いでいることでのドキドキなのか、久しぶりに走ったからなのか、もう何が何だか、わからない

はぁはぁはぁ
屋上に到着すると、田中君と津田君は、着々と準備を始めている。
僕は、息を整えながら、繋いだ手を離すタイミングを探している。
僕の汗ばんだ手から、僕の心臓のドキドキが、
箱星君に、ずっと伝わっているかと思うと、とにかく恥ずかしい。
だけど、箱星君の手が、ギュッと僕の手をつつみ込んでいて、自由に動かせる隙間などなかった。
綺麗な大きな手…見惚れてしまう

「じゃあ、背の順で円になって」
田中君は津田君と僕を見比べて
「どっちが170無い?」
「あるよ!俺が172で草壁君は170くらい」
と津田君
僕は頷いた
「よし、じゃあ俺は173だからここで、箱星は?」
「184」
箱星君以外の3人は、きっと心の中で同じことを思っている。
デカ!
てゆーか、顔も良くて高身長って完璧かよ!
 
「…瞑想しよう」
そう言うと、田中君と、津田君は、当たり前の様に、目を閉じる
僕と箱星君は置いてけぼり
僕らはどちらからともなく、笑ってしまった。
ただ、箱星君の笑顔が眩しすぎて、僕はすぐにうつむいた。これ以上、箱星君の魅力をみせつけられたら、僕の容量は完全にオーバーしてしまう。
心臓もたないって。

「瞑想って?」
箱星君が、僕らの気持ちを代弁してくれる
「やったこと、無い?」
「あるわけないじゃん」
困り顔の箱星君

「俺と津田はあるけど…普通に」
普通って何?
心の中でツッコんでしまう…
「普通って何だよ…なぁ」
箱星君がそう言いながら、僕の顔を覗き込む

あー、近い近い!心臓がぁー
僕もそろそろ話さないと…
覚悟を決め、生唾を飲み込む。

声が裏返らないよーに、
変に高くならないよーに、
早口にならないよーに、落ち着いて

「うん、そうだね。瞑想ってそんなに高校生にとって、主流じゃ無いってゆーか」
「そうそう、主流じゃ無い」
と箱星君が、援護してくれる

「じゃあ高校生の主流ってなんだよ」
と、田中君が言った言葉が、大喜利のお題に聞こえる。なんでも、お題に聞こえて、面白いことを考えたくなるのは、僕の癖

主流…主流ってことはメジャー
つまりは、その逆、メジャーじゃないこと…
高校生のメジャーじゃないことって?
「そんなの決まってるだろ!運動だよ」
隣の箱星君が堂々と答えている

うんどう…
「運動って」
僕は、独り言のようにツッコんでしまった

「みんな何かしら運動やってるだろ?部活とか、ランニングとか」
停止していた、田中君の顔が、明るくなる

「あ〜そっちの運動!俺、反対運動とか、そういう運動かと思ったわ」
と、ズレたことを言う田中君に
「そんなわけないじゃん」
…また、小さな声でツッコんでしまった。

田中君の後ろから、ぬうっと津田君の声が聞こえる。
「俺は、運動と聞いて、学生運動が浮かんだよ。今どき、そんなことするタイミング?あるのかなー?って」
「ないよ!そんなタイミング、今の日本に」
のんびり話す津田君に、食い気味に、早口に、ツッコんでしまった。

3人の僕を見る視線が痛い。
そりゃそうだよな。無言だった奴が、急にツッコみだしたら、引くよな。
キモっとか思うよな。

うつむく僕に、田中君が
「草壁って、運動部だっけ?」
と、またズレた質問
「違うけど、何で?」

「運動にプライドを持ってるから、口数が増えたのかと」
運動にプライドって日本語が変だよ!
あーツッコみたい
いや、日本語が変だよ!の、短めのツッコミの方がいい?
僕がツッコミワードを思考しているうちに、3人の話は、どんどんと、逸れていく。

まず、箱星君が真面目な顔で
「田中、温は、落研。口数が増えたのは、早くUFOを呼びたいっていう純粋な気持ちだよ」
箱星君…違う。
あと、僕のこと、温って呼んでるの?

「草壁君ってUFOに興味があったんだ、俺なんて全然。田中に付き合ってるだけだから。」
いや、津田君…
興味が無い人の付き合い方じゃないから
「付き合ってるだけって言うけど、瞑想は出来るんだもんな?」
そうそう、箱星君、いいこと言ってくれる
「瞑想は昔からしてたんだ。母と」
「津田の家、ケーキ屋だから」
へー、だからかぁ…って納得しないから、田中君!

「ケーキ屋は、関係無いでしょ」
僕は我慢できずに、口を開く
そして1人づつに、
「箱星君、僕はUFOを呼びたいとも呼べるとも思って無い」
「津田君、僕はUFOに興味を持ったことは、これまで一度も無い」
「田中君、運動にプライドって日本語が変だから」
はぁー息継ぎ無しに3人に、ツッコんだ。

スッキリした!でも…
ヤバい…引かれてる。
僕は怖くて、また、うつむいた。

3人の笑い声が聞こえた。
「草壁って、マシンガンみたいにツッコむからウケる」
ウケる?
「そうそう、草壁君みたいに、貯めて話すタイプの人、始めて会った!面白い」
面白い?
「温。すっげーいいわ」
いい…この僕が?
箱星君は、ずっと繋いだままだった僕の手をブンブン振り回した。

3人の笑い声
僕をバカにした笑い方じゃない。
大丈夫…?大丈夫かも

僕は、顔をあげた。
田中君も、津田君も、笑い掛けてくれた。
箱星君は
「温。いい、すっげーいい」
と、満面の笑みを僕にくれた。
ずっと不安だった僕の心は、その言葉に、救われた。