おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

「これ、ハイキングじゃなくて登山だよな。誰?実行委員!しおりに登山て書いとかなきゃダメだろー」
息を切らしながら、田中が騒ぐ。
周りの生徒は笑いながら、次々と、僕らを追い越していく。
気がつけば、多分僕らが、最後尾。
僕は省エネモードに入っているので、田中の相手は、津田に任せている。
足元に落ちていた、小さなお菓子のゴミをポケットに入れ、足を前に出すことに意識を集中させたい。

今日は、高校に入って、初めての課外授業。
遠足と言う名の、ハイキングと言う名の…登山
普段から運動ゼロの僕は、開始1時間でヘロヘロだ。
遊は、その名の通り、遊々と、スタスタ軽やかな足取り。たまに立ち止まり、僕ら3人に、ペースを合わせてくれている。

「田中ー津田!サッカー部だろ?」
遊が2人を挑発する。
「サッカー部の練習メニューに登山は無い。なっ津田」
「そうだね、フィールドは、こんなに、斜面じゃないし、砂利じゃないし」
当たり前だ。
サッカーと登山の、どこを比べてるんだよ!
浮かんだツッコミも、息苦しくて言葉に出来ない。
あっ、また、お菓子のゴミ

「あと、2時間くらいだから、がんばれー」
遊の励ましは
「励ましになって無い。どこの誰が1/3終わったよーっで、よし、あと2/3頑張ろう!ってなるんだよ」
田中が代わりにツッコんでくれる。
そうそう、爽やかに、花を見る余裕のある遊には、僕たちの苦しみは伝わらない。
斜面に咲く、花の匂いを嗅ぐ遊の横顔に、念のように、こちらの苦しみを、送る僕ら3人。

「よし!余裕ぶっこいてる箱星と俺らの勝負だ!」
田中がまた、いつもの変な提案。
僕はただ、淡々と一歩一歩を進めたい。
目の前にあったプラスチック片のゴミをポケットに入れ、一歩一歩、前に足を出す。

「どんな勝負?」
田中の全てを受け入れる、ブレない津田。
津田も辛いはずなのに、突然の勝負に、乗り気になるって、相変わらずスゴすぎる。
そう思いながら、斜め後ろの津田に目をやると、大汗をかいている。
これは、心配になるレベル。
「津田、大丈夫か?水飲んでる?飲まないと、干からびるぞ」
津田は、小さな声でうんと答えた。
僕の心配をよそに、田中は、
「それ!"干からびる"から始めよう」
と、元気に言う。
なんで、さっきより、元気になってるんだよー
遊は、先頭を、後ろ向きに歩きながら
「何をはじめるの?」
と、涼しい顔で聞く。

「見えるものしりとり。だから、草壁の津田を見た、"干からびる"から、スタート。箱星は、目に見える、るを答えて」
遊は、ため息をつきながらも、この提案に乗るらしく
「る?る、る」
と、考えている。
田中は、
「るは、無いだろ?早速、箱星の負けだな」
と、遊を煽る。

目に見える、る…なんだよ!目に見える、るって。
僕は笑ってしまった。
田中のズレには、なんだかんだで、いつも結局、笑わされてしまう。
「る、る?あっ、"ルート"。ここ、今歩いてる登山ルート」
ホッとした表情の遊が、いつもより子供に見えてかわいい
田中は
「ト、津田、目に見える、トは?」
「"登山ルート"」
津田の即答は、一瞬、みんなをフリーズさせた。
田中は
「まっ、同じのは無しって、最初に言ってないし…これからは無しな。次、箱星、ト」
「えーなんだよ…ト?と、と?」
「無いだろ〜無いだろ〜」
疲れているはずの足で、謎のステップを踏みながら、煽る田中。
遊は、人差し指で小刻みにリズムを取り…田中にイラつきながら、目で見える、トを探している。
「歩くことが辛いんだから、せめて楽しくなること」
僕は、言葉を絞り出したが、僕が言い終わる前に、遊が
「はい!"としふみ、うるさい"」
と、田中俊文のトを使って、しりとりをした。
「目に見えるもの、です。うるさいは聞こえるものだからダメですー」
と小学生並の、返答をオーバーリアクションでする田中。
「この、この動きもうるさいので、目に見えるものですー」
と遊も、その場で、田中の謎のステップを真似し、田中と同レベルの返答をする。
津田が、足が止まっている僕らを追い越しながら、
「田中、い。」
と言った。
田中は、小走りに津田に追いつき、
「い、い」
と呟きながら、考えはじめた。
田中と津田の、この対等な関係が好きだ。
僕と遊は、まだ全然。
なんでも言える関係とは程遠い。当たり前かぁ、まだ出会って二カ月だもんな。
初めて話したのは、多分、突然の雨の日…僕がそんな回想をしていると、いを、考えていた田中が
「"インコがね 飛んできそうな いい山だ"」
とズルい回答をする。
「インコ見えてないじゃん、それありなの?」
田中は、遊のつめよりにも、動じない。
真面目に無言で、先を急ぐ。早歩きをしながら、振り返り
「箱星、真面目に登らないと怒られるぞ」
やりたい放題か!
「お前に言われたく無いよ。ったく。はい!じゃあ、"ダンゴムシ"」
「"鹿注意"」
僕は看板を指さした。
「はい!"石"」
「"食料"」
津田は、ポケットから飴を出した。
「はい!"ウィンドブレーカー"」
「"カワセミを 見れそうな山 ここの山"」
遊は、田中を睨みつつ
「はい!"マップ"」
と、手に持っていた地図を僕にみせた。
僕は
「プ?プ…プ…プあっ」
ポケットから、さっき拾った、ゴミを出し
「"プラスチック"」
と、答えた。
遊は、
「温、らしい」
と微笑みながら、ビニール袋を僕に差し出した
「ゴミでポケットがいっぱいでしょ。これ使って」
「ありがと」
僕は、この気遣いが出来る遊が、本当に凄いと思う。
遊は、
「ク?"クリ"」
と近くにあった、クリの木に触れた。
「"リュック"」
と、津田は自分のリュックを少し揺らした。
「"クスノキ"」
と遊が言うと、少し考えてから、田中は、指を折り
「"きれいだな ゴミがない道 ここの道"」
と言った。
僕は、つい
「田中だけ、どうして575にしてるの?ってゆーか、ここの道とか、ここの山とかズルすぎ」
と、省エネモードを忘れて、ついツッコんでしまった。
そして、最悪なことに、田中に気を取られていたせいで、つまずき、足首がグキッとなった。…ヤバい。
僕はその場に、座りこむしか無かった。
歩けないかも…
フワッと遊の匂いが僕の顔にかかる。遊は、しゃがみ込み、
「大丈夫?温」
と不安そうな顔で、僕の足を見ている。
少し先を歩く、田中と津田も、小走りで戻ってきてくれた。
「どうした?コケたのか?」
「どこが痛い?」
「ありがと、えっと、足首がグネってなって、捻挫かな」
僕は、恥ずかしくて、ヘラヘラと答えた。
「じゃあ、登るのは無理じゃん?」
「降りるのも、無理じゃない?」
田中と津田が口々に言う。
みんなに迷惑をかけたくない。
「大丈夫だよ。ゆっくりなら、歩いて降りれるし、出発地点に行けば、誰か先生が、いるだろうし」
僕は、そう話をしながら、なんとか立ち上がった。
すると、遊が僕の前にしゃがみ直し、背中を僕に差し出してくれた。
「えっ?」
これって…
「乗って」
「いや、いーいー。遊が大変過ぎるから」
「いいから乗って」
遊は振り向き、優しさの中に、強い意識がある瞳を僕にみせた。
田中と津田も
「そうだよ、この際、おんぶしてもらえよ」
「せっかくなら、してもらった方が俺らも安心だし」
と、後押し、してくるけど…
「でも、本当に僕、重いし。汗かいてて、服とか臭いし、あと、あと」
僕が断る理由をモジモジと探していると
田中が背中を押す。
「あーうるさい、うるさい!重くて臭い。それでも箱星は乗せるって言ってんだから、はいっ、乗った!」
「いや、でも」
まだ、またがる、踏ん切りがつかない僕に、遊は、優しく
「おんぶさせて、お願い」
いやいや、なんで僕がお願いされてるの?
お願いするのは僕の方だから。
いや、実際は、お願いしたくないんだけど。
だから結果的に、こんなリスみたいな瞳でお願いされてしまってる訳だけど…これ、おんぶされないと終わらない流れ…?
「ありがと」
僕は小さな声でお礼を言って、遊の背中に身を委ねた。
スッと浮き上がる体。
思ってたよりも、ガッシリしている遊の背中。
「じゃあ」
遊は田中と津田に会釈して、もと来た道を下りはじめた。
僕も、軽く2人に手をあげた。
2人は
「「気をつけてねー」」
と大袈裟に、両手でバイバイをしてくれた。

「ごめんね、本当に重いでしょ?」
「重い」
えっ、
「おりるー」
と僕は足をバタバタさせた。
遊の手に力が入る。
「ウソウソ、だから暴れないで」
「…ごめん」
「温一人くらい、空気と一緒だよ」
僕は遊の背中に顔を埋めた。 
笑顔で優しい嘘をつく遊。

僕は、そんなあなたが大好きです。