おもちゃ箱に恋をした!?いえこれは断じて恋ではありません!

「ねぇ、草壁君、落研って何?」
この質問、前にもされたような?
答えてなかったっけ?
僕らはいつもの通り、4人でお昼を食べている。
今日は、あまり自分の話はしたくないな。
外が暑すぎて、クラスのみんなが、教室でお昼を食べているから、それぞれの会話も聞こえるし、息苦しい。
「落語研究会の略。でも研究」
「あーそうだ!研究しないで、YouTubeみる部活だ」
途中から津田に答えを取られた。
「まぁそうなんだけど、声が大きい」
「今日も、部活だよね」
遊が、カラフルな卵焼きを食べながら聞いてきた…って
カラフルな卵焼きって何だよ。
僕は遊の手元を2度見した。
卵焼きなんて、普通、黄色一色だろ。
「温、フリーズしてる。またなんかイジってただろ?」
遊にはもう、僕の思考は、お見通しだ。

「あっごめん。その卵焼き?カラフルだなーって」
「これ?」
遊は、食べかけの卵焼きをお箸で持ち上げた。
僕は、何味か聞いた。
「オクラとカニカマと長芋が入ってる」
と言う遊に
田中が、
「つまり、何味?」
「オクラとカニカマと長芋と卵味」
「ひねり無いなぁ」
田中に言われて、遊は不満げだ。
「美味しそうだね」
僕はフォローのつもりで言った。
遊は大袈裟に、僕を睨みながら
「温、思ってないだろー」
と怒ってみせた。カワイイ。
「思ってる思ってる!オクラとカニカマと長芋と卵味って、美味しそうだなって」
「はいっ、イジってますー」
「イジって無い無い」
僕らはいつも、こんなどうでもいい会話を繰り返している。
周りの遊のファン達は、なぜ遊が、こんなくだらない会話を、僕らなんかと、楽しそうにしているのか?納得いかないだろう。
僕は、この幸せな時間が、永遠に続くことを願ってしまう。
その為には、僕の気持ちを誰にも気づかれてはいけない。
田中と津田は、いつもの様に、食後のジュースを買いに行った。
食後のジュースって。
珈琲を買ってくるなら、まだ理解できるけど、特にこだわりも無く、毎回違うジュースを買ってくる2人…なんで?
どうせなら、食後のオレンジジュースとか、リンゴジュースとか、こだわりを見せてくれた方が、しっくりくるのに…
「温、温!話聞いてる?」
「ごめん、何だっけ」
「また、イジってた?」
「イジって無いって。ごめん。で、何?」
「今日は、部活終わるの待ってていい?」
「別にいいけど」
「良かった、一緒に帰りたいから」
「うん、ありがと」
遊の、たまにくれる、このストレートな言葉が、僕の心臓を躍らせる。

 
部室は、ほこり臭くて、かび臭くて、爽やかさゼロをずっと保っている。
「お疲れ様です」
先に来ていた2人の先輩、安藤・阿部コンビに声をかける。
2人は、いつも通り、3畳だけおかれた畳で、将棋を指している。
2人は手元の将棋盤から目をそらさずに、僕に手をあげた。
あれ?いつも流れている落語が流れていない。
静かな部室に、将棋のコマの音が響く。
落語をBGMにするなんて、とイジっていたけど、この部室を唯一、落研と証明してくれるものだったと、今、気付いた。

「先輩、落語は流さないんですか?」
「将棋に、集中したい」
これは完全に、将棋に落研が乗っ取られた。
今日からここは、落研の部室ではなく、将棋部2軍の部室となった。
てゆーか、将棋部2軍って何?
ウチの学校の、将棋部自体が10人もいないのに、謎の2軍、いらないって。
さっさと将棋部に吸収された方がいいかも。廃部か…廃部になったら、もう帰宅部になろう。
僕は、いつも座る二人掛けのソファに、腰を下ろしYouTubeを開いた。
豆皿さんのフリートーク
もう5回は聞いている。
鵜飼さんは、背が低いけど、よく背が高い顔だと、言われる。それって、ただ、顔がデカいって悪口だよな!というトーク内容。
褒め言葉っぽくて、悪口になること…僕の日常でもあるだろうか?
僕はソファに深く腰掛け直し、改めて考える。

静かな部室
ほこり臭くて、活気ゼロ
この空間で落ち着ける自分は、やっぱり、遊とは違って底辺だと思った。

レトロ、古民家。ただのボロ家
個性的、ただ奇抜なだけ

1時間考えても、出ない時は出ない。
帰る準備をして、まだ勝負がつかない、先輩たちに声をかけるタイミングを計っていると、部室に携帯のバイブ音が響いた。
「すみません」
僕は、急いで、ポケットから携帯を取り出した。

遊だ。いつもより早く帰るべきだった。
僕は、すぐに
「ごめん待たせちゃって」
と、謝った。
電話の向こうからは、遊の穏やかな声が聞こえる。
「全然、図書室で調べることあったし」
「ほんと、ごめんね。今終わったら、昇降口で」
「迎えに行くよ」
「えっ?」
このほこり臭い底辺に?あの遊が
「いやいや、大丈夫大丈夫、昇降口で会えば」
「行きたいから、俺が温を迎えに行きたいから、待ってて」

今から、この部屋とは真逆の人間が、ここにやってくる。
 
先輩2人は当たり前の様に、遊の輝きに圧迫されて、将棋どころでは無くなっていた。