「これ、私にそっくりじゃない?」
砂に描いた自分の似顔絵を木の枝で指しながら、佑月の方へ振り返った。夜の暗がりに視界を邪魔されながらも、細部までこだわり抜いた自信作だ。
「全然似てないね。君はもっと変な顔してる」
「えーひっどい!どうせならもっといい表現してよ~君の方が綺麗だよ、とかさ」
いつの間にか口角が緩んでいて、口元には笑みが浮かんでいた。佑月と話していると、自然と笑顔になっていることが多い気がする。
「ふふっ、こういう時は笑っていいんだよ?」
「………もしいつか、笑えるようになったらその時は笑ってあげる」
佑月がふいに発したその一言が心に引っかかって溶けてくれなかった。まるで、自分から笑顔が欠落しているかのような口ぶりだ。あぁ、そうか。だから出会ったあの瞬間、佑月から一縷も感情を感じなかったんだ。あの時も、今この瞬間も、月の影に支配された佑月の瞳は、ただ美しいだけのビー玉のように生気を伴っていない。
「ほら!にーってして!」
強引に佑月の口元に手を当てて口角を上げてみる。こうやって素っ頓狂な行動に出れば、佑月の顔に自然な笑顔が浮かぶかもしれないと思ったのだ。
「はぁ?急になにを………」
普段のクールで意地っ張りな佑月からは想像できないほど間抜けな姿に、思わず笑みが漏れてしまった。
「いやさ、こうしてたらちょっとは笑えるかもと思って」
それでもやっぱり佑月の口角は硬いままで、顔をほころばすような気配はない。やっぱりダメか、と肩を落とすしかなかった。
「やり方が強引すぎ。今度こういうことしたらもう口を利かないから」
「はーい、すみませんでした。そういえば、笑えないってことは泣くこともできないの?」
地面に途方もなく広がっている砂を指先でなぞりながら、佑月は静かに首肯した。きっと私の思い違いだけど、変わることのないその表情にもひとさじの悲しみが浮かんでいるような気がする。
「…………心が半分こできたらいいのにね。それができたら、喜んで貴方に私の心を半分あげたのに」
「そんなの、いらない。心なんてあっても胸が苦しくなるだけだ。ボクはどう足掻いても一人ぼっちなんだから、そんなものあったところでただ辛い気持ちになるためだけに存在してるようなものじゃないか」
揺れ一つない硬質な声色でそんな言葉を口にしてから、佑月は静かにそっと目を伏せた。その仕草を見ていると、ひどく擦り切れた心が痛むようなやるせない気持ちになった。
「今は私もいるから二人ぼっちだね」
「どうせ、すぐいなくなるくせに。人間なんてボクは信じる気はないし、君なんて余計に信用できないよ」
「そっか、まだ出会ったばっかりの人間の言うこととか、信じられないよね。それでも私は勝手にそばにいるよ。貴方が煙たがっていても、すっごく身勝手に貴方のそばにいる。それで証明させて、私は貴方のそばから離れないってこと」
その言葉を紡ぐうちに、佑月の人間に対する不信感がほんの少し揺らいだように感じた。私の目は、わずかに崩れた佑月の表情を確かに捉えたのだ。
「……君は噓つきだ」
それきり、佑月はそっぽを向いてしまった。私たちの言葉は途絶えて、無言がその場に沈殿する。それでも、私の肌を掠める春の空気は心地よくて、目の前にはいつも通りの佑月がいる。私にとってそれだけで十分だった。
砂に描いた自分の似顔絵を木の枝で指しながら、佑月の方へ振り返った。夜の暗がりに視界を邪魔されながらも、細部までこだわり抜いた自信作だ。
「全然似てないね。君はもっと変な顔してる」
「えーひっどい!どうせならもっといい表現してよ~君の方が綺麗だよ、とかさ」
いつの間にか口角が緩んでいて、口元には笑みが浮かんでいた。佑月と話していると、自然と笑顔になっていることが多い気がする。
「ふふっ、こういう時は笑っていいんだよ?」
「………もしいつか、笑えるようになったらその時は笑ってあげる」
佑月がふいに発したその一言が心に引っかかって溶けてくれなかった。まるで、自分から笑顔が欠落しているかのような口ぶりだ。あぁ、そうか。だから出会ったあの瞬間、佑月から一縷も感情を感じなかったんだ。あの時も、今この瞬間も、月の影に支配された佑月の瞳は、ただ美しいだけのビー玉のように生気を伴っていない。
「ほら!にーってして!」
強引に佑月の口元に手を当てて口角を上げてみる。こうやって素っ頓狂な行動に出れば、佑月の顔に自然な笑顔が浮かぶかもしれないと思ったのだ。
「はぁ?急になにを………」
普段のクールで意地っ張りな佑月からは想像できないほど間抜けな姿に、思わず笑みが漏れてしまった。
「いやさ、こうしてたらちょっとは笑えるかもと思って」
それでもやっぱり佑月の口角は硬いままで、顔をほころばすような気配はない。やっぱりダメか、と肩を落とすしかなかった。
「やり方が強引すぎ。今度こういうことしたらもう口を利かないから」
「はーい、すみませんでした。そういえば、笑えないってことは泣くこともできないの?」
地面に途方もなく広がっている砂を指先でなぞりながら、佑月は静かに首肯した。きっと私の思い違いだけど、変わることのないその表情にもひとさじの悲しみが浮かんでいるような気がする。
「…………心が半分こできたらいいのにね。それができたら、喜んで貴方に私の心を半分あげたのに」
「そんなの、いらない。心なんてあっても胸が苦しくなるだけだ。ボクはどう足掻いても一人ぼっちなんだから、そんなものあったところでただ辛い気持ちになるためだけに存在してるようなものじゃないか」
揺れ一つない硬質な声色でそんな言葉を口にしてから、佑月は静かにそっと目を伏せた。その仕草を見ていると、ひどく擦り切れた心が痛むようなやるせない気持ちになった。
「今は私もいるから二人ぼっちだね」
「どうせ、すぐいなくなるくせに。人間なんてボクは信じる気はないし、君なんて余計に信用できないよ」
「そっか、まだ出会ったばっかりの人間の言うこととか、信じられないよね。それでも私は勝手にそばにいるよ。貴方が煙たがっていても、すっごく身勝手に貴方のそばにいる。それで証明させて、私は貴方のそばから離れないってこと」
その言葉を紡ぐうちに、佑月の人間に対する不信感がほんの少し揺らいだように感じた。私の目は、わずかに崩れた佑月の表情を確かに捉えたのだ。
「……君は噓つきだ」
それきり、佑月はそっぽを向いてしまった。私たちの言葉は途絶えて、無言がその場に沈殿する。それでも、私の肌を掠める春の空気は心地よくて、目の前にはいつも通りの佑月がいる。私にとってそれだけで十分だった。
