あれからというもの、私の心から“消えたい”という気持ちが消えることは一度もなかった。目が合ってしまえば最後、私はその気持ちに四六時中囚われるようになっていた。だから、今日こそ佑月に話すのだ。もう限界だ、消えたい、と。
トンネルを抜けて貴方に声をかける。佑月はすぐに振り返って、私の口から発せられる次の言葉を待つ。
「あのさ、今日は話したいことが……あるの」
「なに?そんなかしこまって。いつにも増して変だよ、君」
私の胸中を知らない佑月は、いつも通りの軽口を叩く。申し訳ないけれど、今日は冗談を返す余裕はなかった。
「それで、話って言うのが、その…………」
明らかに気が動転しているのだと思う。私の口からこぼれる言葉は全て曖昧で、理路整然とした話し方をするなんて、到底無理だった。佑月の表情がだんだんと曇っていくのが見て取れた。
「私、消え、たくて………」
言葉を吐き終わると同時に震える声から漏れた吐息が、寂寥とした潮風に攫われて溶けていった。沈痛な静寂が満ちた辺りの景色には、潮風が岩肌を撫でる音だけが漂う。二人の間に張り詰める重々しい空気に存在そのものが呑まれてしまいそうだ。
思いもよらぬ言葉に面食らったのか、瞬きすら忘れていた佑月が我に返ったように鋭い眼光を瞳に宿した。その瞳に浮かべる表情は出会った時の貴方の目つきによく似ていた。
「何を言って……もう一人にしないって約束したじゃないか……!」
舌が満足に回っていないのか、しどろもどろになりながら佑月はそう叫んだ。その声を鼓膜が捉えた途端に、心の中枢にどす黒い罪悪感が覆いかぶさっていくのが分かった。
「この嘘つき……!!」
ヒュッと喉の奥から音がして息が上手くできなくなる。分かっていた、私の吐いた本音のせいで佑月がその衝撃に打ちのめされてしまうことも、佑月との心の距離が出会った時と同じゼロに戻ってしまうことも。分かっていたつもりだった。関係を壊すような選択を下したのは他でもない私自身だ。全部覚悟していたことじゃないか。
でも、覚悟していたつもりの言葉がいざ佑月の口から放たれた瞬間、バクバクと激しい鼓動を打っていた心臓が壊れるような動揺に襲われた。
足元がおぼつかなくなり、ただ立っているのでさえ苦しくなって、感情の激流に呑まれるまま砂に膝から崩れ落ちる。倒れこんだ勢いに押されて額が地面についた瞬間、必死に堪えていた涙が目に映る景色を覆い隠すようにボロボロと溢れ出して次々と地面に落ちていった。
「ごめん、ごめんなさい……っ!!ここから離れられる方法が見つかるまで、歩けるようになるまでそばにいるって約束したのに……それまでは耐えなきゃって思ってた。でも、出来なくて……!」
今まで胸の奥に閉じ込めていた気持ちや葛藤がとめどなく口からこぼれる。こんなこと伝えたところで佑月を困らせてしまうだけなのに。もう、無理だ。これ以上、この場に身を留めていられない。
「……ごめんね」
一言言い残して、私はその場から逃げ出した。私が地面を蹴るたび、砂が足元で舞い上がって風に攫われてどこかへ飛んでいく。
「待って、まだ話したいことが……っ!」
私を止める声にも、今は耳を貸したくなかった。今はただ、逃げたい。
「消えたい、なんて君から聞きたくなかった。君が死ねない理由にはなれなかったんだね、ボクは」
背後で寂しそうに呟く佑月の声が鼓膜から離れてくれなかった。
トンネルを抜けて貴方に声をかける。佑月はすぐに振り返って、私の口から発せられる次の言葉を待つ。
「あのさ、今日は話したいことが……あるの」
「なに?そんなかしこまって。いつにも増して変だよ、君」
私の胸中を知らない佑月は、いつも通りの軽口を叩く。申し訳ないけれど、今日は冗談を返す余裕はなかった。
「それで、話って言うのが、その…………」
明らかに気が動転しているのだと思う。私の口からこぼれる言葉は全て曖昧で、理路整然とした話し方をするなんて、到底無理だった。佑月の表情がだんだんと曇っていくのが見て取れた。
「私、消え、たくて………」
言葉を吐き終わると同時に震える声から漏れた吐息が、寂寥とした潮風に攫われて溶けていった。沈痛な静寂が満ちた辺りの景色には、潮風が岩肌を撫でる音だけが漂う。二人の間に張り詰める重々しい空気に存在そのものが呑まれてしまいそうだ。
思いもよらぬ言葉に面食らったのか、瞬きすら忘れていた佑月が我に返ったように鋭い眼光を瞳に宿した。その瞳に浮かべる表情は出会った時の貴方の目つきによく似ていた。
「何を言って……もう一人にしないって約束したじゃないか……!」
舌が満足に回っていないのか、しどろもどろになりながら佑月はそう叫んだ。その声を鼓膜が捉えた途端に、心の中枢にどす黒い罪悪感が覆いかぶさっていくのが分かった。
「この嘘つき……!!」
ヒュッと喉の奥から音がして息が上手くできなくなる。分かっていた、私の吐いた本音のせいで佑月がその衝撃に打ちのめされてしまうことも、佑月との心の距離が出会った時と同じゼロに戻ってしまうことも。分かっていたつもりだった。関係を壊すような選択を下したのは他でもない私自身だ。全部覚悟していたことじゃないか。
でも、覚悟していたつもりの言葉がいざ佑月の口から放たれた瞬間、バクバクと激しい鼓動を打っていた心臓が壊れるような動揺に襲われた。
足元がおぼつかなくなり、ただ立っているのでさえ苦しくなって、感情の激流に呑まれるまま砂に膝から崩れ落ちる。倒れこんだ勢いに押されて額が地面についた瞬間、必死に堪えていた涙が目に映る景色を覆い隠すようにボロボロと溢れ出して次々と地面に落ちていった。
「ごめん、ごめんなさい……っ!!ここから離れられる方法が見つかるまで、歩けるようになるまでそばにいるって約束したのに……それまでは耐えなきゃって思ってた。でも、出来なくて……!」
今まで胸の奥に閉じ込めていた気持ちや葛藤がとめどなく口からこぼれる。こんなこと伝えたところで佑月を困らせてしまうだけなのに。もう、無理だ。これ以上、この場に身を留めていられない。
「……ごめんね」
一言言い残して、私はその場から逃げ出した。私が地面を蹴るたび、砂が足元で舞い上がって風に攫われてどこかへ飛んでいく。
「待って、まだ話したいことが……っ!」
私を止める声にも、今は耳を貸したくなかった。今はただ、逃げたい。
「消えたい、なんて君から聞きたくなかった。君が死ねない理由にはなれなかったんだね、ボクは」
背後で寂しそうに呟く佑月の声が鼓膜から離れてくれなかった。
