今日も相変わらず散々な一日だった。特に部活中の出来事がいやに頭にこびりついている。
部活での演奏中、突然一人で吹くよう指示されたのだ。緊張も相まって私の演奏は最初から最後まで上手くいかなかった。その直後に吐かれた顧問からの嫌味と、他の部員からの突き刺すような視線が忘れられない。
先輩としての期待と後輩としての重圧に押しつぶされてしまいそうだ。でも、これも中途半端な苦しみの一つでしかない。たったそれだけ、でしかないのだ。振り返ってみれば、これまでもそうだった。
とにかく中の下みたいな人生を送ってきた。どん底に叩き落されるほど特別不幸だったわけではないけれど、成長してからは小さな幸せすら噛みしめられた試しがない、そんな中途半端な人生。何をしてもそう、習い事も成績も頂点を目指せるほどの実績は残せなくて、最後まで頑張りきれなかった。今私が置かれているのは、時間を争うほど切羽詰まった状況というよりかは、些細な悩みの種によって作り上げられた底なし沼にどんどん足をとられてがんじがらめになっていっている状況、という方が近いかもしれない。
人間関係一つをとってもそうだ。友達はいたけれど、苦しみを共有できるほど深い関係は一度も築けなかった。知り合いはいても信頼できる人は周囲にいない。
中途半端という概念に浸された私の人生に、いったい何が残るというのだろうか。
だからこそ、私は普通に縋るしかなかった。せめて普通でいないとお母さんから見捨てられるから、普通じゃなければ社会のレールから外れるから、そんな理由で私は必死に普通にしがみついてきた。それしか生き残る道はないのだと錯覚するほどに。
普通から逃げたいと願いながら、何より普通に固執していた。誰よりも普通に執着していたのは私自身だったのかもしれない。私にとって、普通という言葉は呪いだ。
それなのに、誰も彼も私の苦しみを何も分かってくれない。そもそも、理解しようとする気がないのだ。みんな自分を抱えるので精一杯で、理解する余裕もないことくらいは理解しているつもりだけど、本当は“頼りにしてるね”とか“頑張れ”って言葉より、“よく頑張ったね。もう立ち止まっていいんだよ”って言葉が欲しい。
お世辞みたいに“強いね”って褒められるより、“貴方は確かに弱い。でもそのままの貴方でいいんだよ”ってありのままの私を抱きしめて欲しかった。
でもその願いを叶えてくれる人はどこにもいない。一瞬佑月の顔が脳裏を掠めたけれど、見ないふりをしてかき消した。きっと、助けを求めれば佑月は手を差し伸べてくれるだろう。そんなこと、とうに分かっている。本当は助けてくれる人がいても、この世界で一人ぼっちのように感じるのだ。これは一体何の病気なのだろうか。いや、病気じゃないからこんなに苦しんでるんじゃないか。
誰も助けてなんかくれない、その絶望感を身に染みて実感するようになったのはいつからだっけ。なんとか誰かを頼って、信じようとしても最後には突き放される。その繰り返しに、疲れたのだ。辛いだとか、苦しいだとか、もう誰にも言えるわけなかった。
寝る前に一人で泣いてできた涙の跡も、私が貴方の言葉に傷ついているのも、お母さんたちはまるで気づいてくれないし、見向きすらしてくれない。
もう、傷つき疲れたのだ。期待することも、助けを求めることも、何もかも疲れた。
もはや、あれだけ好きだった花も空も綺麗だと思えない。自分の心から、綺麗という感情の色が失せてしまったような感覚だ。
「…………あー、消えたいな。人魚みたいに泡になって消えられたらいいのに」
その言葉を唇で描いた直後、ハッとして首元を抑えた。
消えた、い?私は今、なんてことを考えてしまったのだろう。命を捨てるなんて、本来あってはならないことだ。そんなこと思っちゃいけないのに。目を合わせちゃいけない感情なのに、それなのに、目の前に浮かんで消えてくれないのはどうしてなのだろう。
もし、幼い頃から探し続けているあの人がこの瞬間に目の前に現れたら、今の私を助けてくれるだろうか。どうしようもなく消えたい今の私を。
私はきっと、死にたいというより消えたいのだ。この世界に初めから存在しなかったみたいに跡形もなく消えてしまいたい、それがこの感情の正体なんだと思う。
そしてこの感情は多分ずっと前から心の中で燻っていたものだ。ただ、見て見ぬふりしていただけ。今この瞬間も、生きる気力も死ぬ勇気もないまま消えたいという気持ちを抱えて呼吸をしている。
でもその直接的な理由が分からないのだ。いじめられてるわけでもなければ、虐待されてるわけでもないのに。けれど、現時点で分かっていることもある。
私がここまで苦しんでいるのは、世界が汚いからでもおかしいからでもなくて、ただ自分が生きるのに向いていなかったから、それだけだ。本当に、たったそれだけなのだ。
だから、周囲に助けを上手く求められなかった。もし、このことを誰かに相談したら、どんな言葉を返されるだろう。目を瞑って想像を巡らせてみる。
“残された人の気持ちを考えろ”
“そんなことしたら親が悲しむよ”
ダメだ、どんなに思考を巡らせてみても想像できるのはそんな言葉ばかり。相談したところで無駄なのは火を見るより明らかだ。
私はこれまで“優等生でいて欲しい”と願う母の指図に逆らうことなく従順に従ってきたし、父の機嫌をできるだけ汲み取ろうと懸命に足掻いてきた。こんなにも自分を取り巻く人たちのために頑張ってきたのに、最後まで周りの人たちのために生きなければいけないのだろうか。
消えたい自分の気持ちを押し殺してまで生き続けるのが、この世界の正解なの?
そうか、それが正解なのだ。少なくともこの世界では。
佑月にはこの気持ちをどう伝えたらいいんだろう。そもそも、話す必要なんてあるのだろうか。でも、消えたいと感じていることをひた隠しにして、嘘を纏ったまま貴方の隣にいることに負い目を感じる。こうやって本音を胸の奥に押し殺したまま静かに姿を消すのが、果たして正解なのだろうか。
部活での演奏中、突然一人で吹くよう指示されたのだ。緊張も相まって私の演奏は最初から最後まで上手くいかなかった。その直後に吐かれた顧問からの嫌味と、他の部員からの突き刺すような視線が忘れられない。
先輩としての期待と後輩としての重圧に押しつぶされてしまいそうだ。でも、これも中途半端な苦しみの一つでしかない。たったそれだけ、でしかないのだ。振り返ってみれば、これまでもそうだった。
とにかく中の下みたいな人生を送ってきた。どん底に叩き落されるほど特別不幸だったわけではないけれど、成長してからは小さな幸せすら噛みしめられた試しがない、そんな中途半端な人生。何をしてもそう、習い事も成績も頂点を目指せるほどの実績は残せなくて、最後まで頑張りきれなかった。今私が置かれているのは、時間を争うほど切羽詰まった状況というよりかは、些細な悩みの種によって作り上げられた底なし沼にどんどん足をとられてがんじがらめになっていっている状況、という方が近いかもしれない。
人間関係一つをとってもそうだ。友達はいたけれど、苦しみを共有できるほど深い関係は一度も築けなかった。知り合いはいても信頼できる人は周囲にいない。
中途半端という概念に浸された私の人生に、いったい何が残るというのだろうか。
だからこそ、私は普通に縋るしかなかった。せめて普通でいないとお母さんから見捨てられるから、普通じゃなければ社会のレールから外れるから、そんな理由で私は必死に普通にしがみついてきた。それしか生き残る道はないのだと錯覚するほどに。
普通から逃げたいと願いながら、何より普通に固執していた。誰よりも普通に執着していたのは私自身だったのかもしれない。私にとって、普通という言葉は呪いだ。
それなのに、誰も彼も私の苦しみを何も分かってくれない。そもそも、理解しようとする気がないのだ。みんな自分を抱えるので精一杯で、理解する余裕もないことくらいは理解しているつもりだけど、本当は“頼りにしてるね”とか“頑張れ”って言葉より、“よく頑張ったね。もう立ち止まっていいんだよ”って言葉が欲しい。
お世辞みたいに“強いね”って褒められるより、“貴方は確かに弱い。でもそのままの貴方でいいんだよ”ってありのままの私を抱きしめて欲しかった。
でもその願いを叶えてくれる人はどこにもいない。一瞬佑月の顔が脳裏を掠めたけれど、見ないふりをしてかき消した。きっと、助けを求めれば佑月は手を差し伸べてくれるだろう。そんなこと、とうに分かっている。本当は助けてくれる人がいても、この世界で一人ぼっちのように感じるのだ。これは一体何の病気なのだろうか。いや、病気じゃないからこんなに苦しんでるんじゃないか。
誰も助けてなんかくれない、その絶望感を身に染みて実感するようになったのはいつからだっけ。なんとか誰かを頼って、信じようとしても最後には突き放される。その繰り返しに、疲れたのだ。辛いだとか、苦しいだとか、もう誰にも言えるわけなかった。
寝る前に一人で泣いてできた涙の跡も、私が貴方の言葉に傷ついているのも、お母さんたちはまるで気づいてくれないし、見向きすらしてくれない。
もう、傷つき疲れたのだ。期待することも、助けを求めることも、何もかも疲れた。
もはや、あれだけ好きだった花も空も綺麗だと思えない。自分の心から、綺麗という感情の色が失せてしまったような感覚だ。
「…………あー、消えたいな。人魚みたいに泡になって消えられたらいいのに」
その言葉を唇で描いた直後、ハッとして首元を抑えた。
消えた、い?私は今、なんてことを考えてしまったのだろう。命を捨てるなんて、本来あってはならないことだ。そんなこと思っちゃいけないのに。目を合わせちゃいけない感情なのに、それなのに、目の前に浮かんで消えてくれないのはどうしてなのだろう。
もし、幼い頃から探し続けているあの人がこの瞬間に目の前に現れたら、今の私を助けてくれるだろうか。どうしようもなく消えたい今の私を。
私はきっと、死にたいというより消えたいのだ。この世界に初めから存在しなかったみたいに跡形もなく消えてしまいたい、それがこの感情の正体なんだと思う。
そしてこの感情は多分ずっと前から心の中で燻っていたものだ。ただ、見て見ぬふりしていただけ。今この瞬間も、生きる気力も死ぬ勇気もないまま消えたいという気持ちを抱えて呼吸をしている。
でもその直接的な理由が分からないのだ。いじめられてるわけでもなければ、虐待されてるわけでもないのに。けれど、現時点で分かっていることもある。
私がここまで苦しんでいるのは、世界が汚いからでもおかしいからでもなくて、ただ自分が生きるのに向いていなかったから、それだけだ。本当に、たったそれだけなのだ。
だから、周囲に助けを上手く求められなかった。もし、このことを誰かに相談したら、どんな言葉を返されるだろう。目を瞑って想像を巡らせてみる。
“残された人の気持ちを考えろ”
“そんなことしたら親が悲しむよ”
ダメだ、どんなに思考を巡らせてみても想像できるのはそんな言葉ばかり。相談したところで無駄なのは火を見るより明らかだ。
私はこれまで“優等生でいて欲しい”と願う母の指図に逆らうことなく従順に従ってきたし、父の機嫌をできるだけ汲み取ろうと懸命に足掻いてきた。こんなにも自分を取り巻く人たちのために頑張ってきたのに、最後まで周りの人たちのために生きなければいけないのだろうか。
消えたい自分の気持ちを押し殺してまで生き続けるのが、この世界の正解なの?
そうか、それが正解なのだ。少なくともこの世界では。
佑月にはこの気持ちをどう伝えたらいいんだろう。そもそも、話す必要なんてあるのだろうか。でも、消えたいと感じていることをひた隠しにして、嘘を纏ったまま貴方の隣にいることに負い目を感じる。こうやって本音を胸の奥に押し殺したまま静かに姿を消すのが、果たして正解なのだろうか。
