妊娠を誰にも相談できず、あっという間に出産の時を迎えた。
妊婦健診は、二十五週とわかった次の受診日から受け始めた。早急に母子手帳の取得を促され、窓口に申請した。
「ごめんね……」
胎動を感じ始めた頃から、自責の念にも苛まれた。
いや、それまでも動いていたのだろう。
ただ、自分がそれを胎動だと気づいていなかっただけなのかもしれない。
今となっては、もう後戻りできない。
高級店で働いた頃の蓄えがあったため、深愛は仕事をクビになった直後、タワマン生活をやめてワンルームのマンションに引っ越した。
お腹が大きくなると、さらに動けなくなる。
動けるうちに、お金に余裕があるうちに引っ越そう。
咄嗟の判断だった。
それでも、周囲に妊娠を打ち明ける勇気はどうしても持てなかった。
どこに相談していいかもわからなかった。
深愛は、役所に相談すれば両親に連絡されるのではないかと恐れていた。
せっかく縁を切ったのに、連れ戻されるのは絶対に嫌だ。
母子手帳の取得のため、やむを得ず窓口に赴いた。
父親がわからず、頼れる家族もいないと話す深愛の様子から、担当の保健師は何か事情があることを察したのだろう。
そして、深愛の了承を得たうえで、産院や児童相談所にもつないでくれた。
そうこうしているうちに、あっという間に臨月を迎えた。
胎児は順調に育っていった。
深愛は、意を決して助産師に打ち明けた。
「この子を、養子に出すことはできますか?」
「え?」
「多分、私ではこの子を、幸せにしてあげられない……」
泣きながら、深愛は言った。
「もし、他に子どもを望んでいる人がいるなら……その人に、育ててほしい」
生まれた女児は、三二五六グラムの元気な赤ちゃんだった。健康上の問題もなく、ミルクや母乳の飲みも悪くない。
「痛い……」
「ちょっと張ってるから、マッサージするわね」
「い、痛い!」
母乳が出るようになってから、頻繁に胸が張るようになった。
「出さないと乳腺炎になって、もっと辛くなるからね。しっかり出そうね」
「うッ」
「母乳の出は悪くないわ。母乳は出てるけど、どうするかは深愛さんの希望でいいからね。飲ませたいなら手伝うし、止めていきたいならその方法も一緒に考えよう」
「あの……」
「何?」
「私、やっぱり……」
深愛は声を震わせて言った。
「この子を、育てる自信がありません」
「そりゃ、初めてだもの。それに、あなたは若いし、不安になるのも当然よ。大丈夫、私たちが――」
「そういうことじゃないんです」
「え……」
「私では、この子を……幸せにできない」
「……」
「勝手なことを言ってるって、わかっています。誰の子かわからない子を勝手に妊娠して、産んで……育てられないなんて。身勝手にもほどがあるって」
深愛は続ける。
「赤ちゃんは、可愛いです。でも、可愛いからこそ、私はこれ以上……この子の人生の足枷には、なりたくない」
「……それは、本心なの?」
「本当なら、私も……育ててみたい。でも、自分の人生もままならない状態で、もう一人の人生を支えるのは、無理です」
「そう……じゃあ退院後は――」
「私の代わりに、この子を育ててくれる人に、お願いしたいです」
「あなたの気持ちはわかったわ。そのあたりは、専門家の意見も含めて一緒に考えましょう」
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