「血のつながりはなくても、僕は……蒼生君のお父さんになれたらいいなって思っているよ」
「でも、それだと玲君の人生が……」
「僕の人生?」
「うん」
「遙花さんと、蒼生君と、一緒に生きていくことも――僕の人生だよ」
「……!!」
急に名前で呼ばれたからか。
それとも、プロポーズともとれる彼の言葉に。
遙花は今までにないくらいの、鼓動の高鳴りを感じた。
「だって、蒼生君さ。最近僕に懐いてくれているし、可愛いし。それに、多分僕は、恋愛は向いていない。でも、一度好きになったら、その人とずっとそばにいたいって思える。刺激とかときめきとか、そういうのは与えられないかもしれないけど、家族として支え合って生きていくくらいの気持ちは、もう既に持っている。だから、二人にとって僕が必要だからじゃない。僕が二人と一緒にいたいんだ」
「わかった。もうわかったから」
「わかったから、何?」
「いいよ、玲君となら」
「それは、つまり?」
「うん」
「お付き合い、OKってこと?」
「うん」
「や、やったあ!」
「……大袈裟」
「長かったあ~。遙花さん頑固だし、あのクソ旦那……あ、先輩の元旦那さんね。なかなか離婚に応じないからもう、埋めたろかと思ってたし」
「あっははは!」
「え、何?」
「ボロが出てるよ。クソ旦那とか埋めたろかとか」
「あ……」
「いいよ。もうあんなやつ、埋められて当然のことしたんだから。玲君、あいつのせいで大怪我したし」
「今は殺人未遂で起訴されてるしね。多分、このまま実刑食らって、塀の向こう側に行くんじゃない?」
「うん。でも、また数年後には出てきちゃうのかと思うと、ちょっとね」
「その時は、また考えよう。今度は向こうが部外者だから」
「そうだね」
「ねえ、遙花さん」
「何?」
「……」
「何で黙るの?」
「……キスしても、いい?」
「え?」
「嫌なら、しない」
「……いいよ」
「え、ほんとに?」
「うん」
「ほんとに?」
「うん」
「ほんとに、するよ?」
「何回聞くの?」
「じゃあもう、していい?」
「いいよ」
「わかった」
「……嫌なら、言って」
「ちょっと、早くして」
「……遙花さん、したかったの?」
「うるさいな」
唇に触れた。
「……した」
「したね」
「……もう一回」
「え?」
「次はもっと、ちゃんとしたい」
「もしかして、初めて?」
「……そうだよ」
「意外。もう何人かと経験あるのかと思った」
「僕はまだ純潔だよ」
「失礼な」
「遙花さんも僕とは初めてじゃん」
「だから?」
「一緒」
「私、子どもいるんだけど」
「そういう意味じゃない。僕と過ごす時間のこと」
さっきよりも長く、深いキス。
そして、その日。
「あ……」
蒼生が初めて歩いた。
一歩、一歩と踏みしめるように。
おぼつかない足取りで、玲の元へ向かってくる。
玲の瞳が潤む。
「ねえ、蒼生君が歩いたよ! 自分の足で! すごいよ、蒼生君!」
蒼生を抱きしめる玲。
その小さな手が、玲の服をぎゅっと掴んだ。
「ぱぱ」
「え?」
「ぱぱ」
玲は、涙腺が崩壊した。



