「待って」
「え?」
「僕はまだ、先輩の気持ちを聞いていない」
「それは…」
「僕は、迷惑をかけられたなんて一ミリも思っていないんだけど」
「でも、怪我をさせてしまったし。もし、また同じことが起こったとしたら、今度は命の保証だって……」
「それでも、僕は先輩と――蒼生君とは、もう離れたくない」
「……!」
「先輩も、蒼生君も。僕が守りたい。そばにいたい。迷惑だなんて思わないで、もっと頼ってほしい。それとも、僕のこと、嫌い? むしろ、その方が諦めつく……いや、先輩が僕のこと嫌いでも、今回は引き下がるつもりないから」
「どうして……そこまで」
遙花の決意は、玲に伝えれば伝えるほど揺らぐ。
そして、玲の理屈は、理屈に見えて理屈ではなくなり――いつの間にか、感情論が優位になっている。
弁護士としてではない。
ただの「神城玲」という、一途なまでに恋心全開な青年として。
「好きだから。先輩も、蒼生君も。僕にとっては大事だから。大切にしたいと思ったから。これっきりには、したくない」
「……ありがとう」
遙花の強い決意さえ、玲は容赦なく揺るがしていく。
蒼生のために強い母でいようとする遙花を、隣で支えたい。
一人で歩こうとする彼女に、「一人でなくてもいい」と伝えたい。
玲の覚悟の方が、遙花の決意を上回るほど――揺るぎないものだったから。
「で、先輩の気持ちは?」
「そこは聞くんだ」
「だって、まだ聞いてない」
「意外としつこいのね」
「しつこいよ。しつこくしたくなるくらい……好きになったんだから、仕方ないじゃん」
好きになると一直線。
神城家の血は、形を変えて次世代に受け継がれているようだ。祖父、父、そして玲へ。
「回りくどそうで、結構直球なのね」
「だって、もう待つ必要なくなったから」
「それは、私の離婚が決まったから?」
「そうだよ。本当はすぐにでも離婚してほしかったけど、手続き上色々あるから……まあ待ちきれなくなって……感情が暴走しそうになるのを必死に抑えてたくらい」
「わかった。もう降参します」
「え?」
「すぐには無理だけど、これから少しずつだったら。蒼生もいるし」
「ほんと?」
「うん」
「これからも、会ってくれる?」
「うん」
「やった!」
玲は子どものように喜んだ。
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