リーガルウェポン


「私たちが大切に育てるから、蒼生を私たちの養子にしてほしい。お金はいくらでも払う。その子は近藤家の大切な跡取り息子。あなたはまだ若いし、再婚して素敵な家庭を築けばいい」と。

 そして、遙花はついに限界突破した。


「犯罪犯すような息子に育てた親が、孫を養子にしたいからよこせ? 笑わせんなよ!」

 隣にいた玲が、びくりと肩を揺らす。

「蒼生はモノじゃねーんだよ! 何が跡取りだ! 犯罪者の後を継ぐ意味がわからんわ! そんなに子育てしたいなら、息子の躾からやり直せ! この老害が! 二度とかけてくんな! 次やったら即警察に通報するからな! おととい来やがれ、クソババア!」

 通話終了ボタンを押し、すぐさま着信拒否。

 その様子を、玲は終始見ていた。

「ムカつく」

 遙花はスマホをテーブルの上に置いた。

「蒼生を何だと思ってんの。頭おかしすぎるわ、親子揃って」
「……強いね」
「私、ほんと……何であんなやつと結婚しちゃったんだろう……」
「それは……当時の先輩がそれくらい好きな相手だったからじゃない?」
「結婚って、してみないとわからないとは聞くけど。私の場合は、出産しないと……わからなかった」
「でも、蒼生君を産んだことは?」
「後悔はしていない。むしろ私は、蒼生が男の子で良かったと思っている」
「それは、どうして?」
「蒼生がもし女の子だったら……あいつに『女なんだから』って、もっと好き勝手に人生を決められていたかもしれない。それに……」
「それに?」
「あの親に『嫁に行くまで家のことをしっかりやれ』って、こき使われるようになってたかも」
「なるほど……あの親たちなら、やりかねないな。男尊女卑以前に、人を一人の人間として見ていない気がするし」

「ねえ、玲君」
「何?」
「私もあれから考えたんだけど……」
「うん」
「やっぱり、会うのはもうこれっきりにしよう」

 振り切るように、遙花は言った。
 玲といた時間。
 玲が身を挺して守ってくれた記憶。
 玲と過ごした時間のすべてが、遙花の中でも特別になっていた。

 だからこそ。
 これ以上は、駄目だと思った。

 玲はまだ二十三歳だ。
 これから仕事をして。
 恋をして。
 結婚して。
 いくらでも、自分の未来を選べる。

 そんな玲を。
 子どもを抱えた自分の人生に、これ以上巻き込みたくなかった。
「もう充分だよ」
「先輩……?」
「玲君には、もう充分すぎるくらい助けてもらった」
 声が震えそうになる。
 それでも、笑った。

「だから、ここからは私がやる」
 蒼生の母として。
 一人の人間として。
 自分の人生を、自分で歩く。
 そのために。

 好きになってしまった人の手を、自分から離す。
 それが今の遙花にできる、精一杯の決断だった。