『人気モデル刺傷事件』
【刑事裁判記録】
事件名――殺人未遂被告事件。
被害者――神城エリサ。芸名、ELLIE。当時二十一歳。
被告人――二十代女性。
「う……」
玲は思わず裁判記録を閉じた。
「玲、無理するな」
「いえ、大丈夫です……」
再び記録のページを開いた。
「事件概要は……」
♢
【事件概要】
被告人は、交際中の男性が神城エリサに対して執拗なつきまとい行為を繰り返していたことを知りながら、被害者が男性を誘惑したものと思い込み、一方的に強い恨みを募らせていた。
事件当日。
被告人は刃渡り約十二センチのナイフを購入。
その後、被害者の仕事先を調べ、周辺で待ち伏せした。
仕事を終えて現れた被害者を呼び止めると、被告人は一方的に男性との関係を問い詰めた。
被害者は、男性との交際関係を否定。
さらに、男性から繰り返し接触を受けていたものの、すでに明確に拒絶の意思を示していたことを説明した。
しかし、被告人はこれを信用しなかった。
口論の末、被告人は所持していたナイフを取り出し、至近距離から被害者の左下腹部を一回刺突した。
刃物は腹腔内まで達した。
刺入の深さは、約八センチ。
被害者は大量に出血し、その場に倒れた。
その後、直ちに救急搬送され、緊急手術を受けた。
左卵巣には著しい損傷が認められた。
医師らは可能な限り温存を試みたものの、損傷が激しく、止血および被害者の生命を優先した結果、左卵巣の摘出を余儀なくされた。
被害者は一命を取り留めた。
♢
「……」
「玲?」
「八センチって……」
「……かなり深いね」
「酷い……」
思わず目を背けたくなるほどの惨状が、玲の脳裏に浮かんだ。
「痛いだけじゃ、済まないだろ……これ」
「そうだね」
「左卵巣摘出……」
『可能な限り温存を試みたものの、損傷が激しく――』
「……っ」
はたりと、机上に涙が落ちる。
「どうして……叔母が、こんな目に……」
感情的になってはいけない。
わかっているのに、溢れ出す涙。
「きっと、多くの被害者や遺族が同じことを思うんじゃないかな」
「すみません、僕は……弁護士なのに――」
「それでいい」
「え……」
「人の痛みに何も感じなくなる必要なんてない。むしろ、依頼人に寄り添うには大事な感覚だよ」
「でも……」
「もちろん、法廷で感情に任せて戦うわけにはいかない」
武蔵は記録へ視線を落とした。
「だから今は、その感情から目を逸らさなくていい。ちゃんと向き合って、それでも最後には事実と証拠で戦える弁護士になればいい」
「……はい」
「今は、そのために学ぶ時期だよ」
「はい」
「続き、読めそう?」
「読みます。最後まで」
そして、玲はページの続きを読み始めた。
♢
【刑事裁判記録】
事件名――殺人未遂被告事件。
被害者――神城エリサ。芸名、ELLIE。当時二十一歳。
被告人――二十代女性。
「う……」
玲は思わず裁判記録を閉じた。
「玲、無理するな」
「いえ、大丈夫です……」
再び記録のページを開いた。
「事件概要は……」
♢
【事件概要】
被告人は、交際中の男性が神城エリサに対して執拗なつきまとい行為を繰り返していたことを知りながら、被害者が男性を誘惑したものと思い込み、一方的に強い恨みを募らせていた。
事件当日。
被告人は刃渡り約十二センチのナイフを購入。
その後、被害者の仕事先を調べ、周辺で待ち伏せした。
仕事を終えて現れた被害者を呼び止めると、被告人は一方的に男性との関係を問い詰めた。
被害者は、男性との交際関係を否定。
さらに、男性から繰り返し接触を受けていたものの、すでに明確に拒絶の意思を示していたことを説明した。
しかし、被告人はこれを信用しなかった。
口論の末、被告人は所持していたナイフを取り出し、至近距離から被害者の左下腹部を一回刺突した。
刃物は腹腔内まで達した。
刺入の深さは、約八センチ。
被害者は大量に出血し、その場に倒れた。
その後、直ちに救急搬送され、緊急手術を受けた。
左卵巣には著しい損傷が認められた。
医師らは可能な限り温存を試みたものの、損傷が激しく、止血および被害者の生命を優先した結果、左卵巣の摘出を余儀なくされた。
被害者は一命を取り留めた。
♢
「……」
「玲?」
「八センチって……」
「……かなり深いね」
「酷い……」
思わず目を背けたくなるほどの惨状が、玲の脳裏に浮かんだ。
「痛いだけじゃ、済まないだろ……これ」
「そうだね」
「左卵巣摘出……」
『可能な限り温存を試みたものの、損傷が激しく――』
「……っ」
はたりと、机上に涙が落ちる。
「どうして……叔母が、こんな目に……」
感情的になってはいけない。
わかっているのに、溢れ出す涙。
「きっと、多くの被害者や遺族が同じことを思うんじゃないかな」
「すみません、僕は……弁護士なのに――」
「それでいい」
「え……」
「人の痛みに何も感じなくなる必要なんてない。むしろ、依頼人に寄り添うには大事な感覚だよ」
「でも……」
「もちろん、法廷で感情に任せて戦うわけにはいかない」
武蔵は記録へ視線を落とした。
「だから今は、その感情から目を逸らさなくていい。ちゃんと向き合って、それでも最後には事実と証拠で戦える弁護士になればいい」
「……はい」
「今は、そのために学ぶ時期だよ」
「はい」
「続き、読めそう?」
「読みます。最後まで」
そして、玲はページの続きを読み始めた。
♢



