リーガルウェポン

「でも」
 少しだけ声を落とす。
「今日の玲は、ちゃんと弁護士だったよ」
「……」
 玲は目を見開いた。

 胸の奥が、熱くなる。

 小学生の頃。
 祖父の法廷を見た。

 言葉を武器にして。
 証拠から真実を導き出して。

 困っている人を救う姿を見た。

 ボクも、あんなふうになりたい。
 そう思った。

 あれから十三年。
 ようやく。
 ほんの少しだけ。

 あの日見た背中に、近づけた気がした。

   *

 数週間後。
 判決言渡しの日。

 玲は再び法廷にいた。
 被告席は。
 やはり空席だった。

 原告である男性も、この日は来ていない。

 判決言渡しだけなら、本人が出頭する必要はないからだ。
 玲だけが原告側の席に座っていた。

 裁判官が入廷する。
 玲は立ち上がった。

「令和○年(ワ)第三十七号、損害賠償請求事件」
 事件番号が読み上げられる。

 心臓が鳴る。

 初法廷の日とは、また違う緊張だった。
 裁判官が判決主文を読み上げる。

「被告は、原告に対し、金○○○万円及び――」

 玲は息を止めた。

 金額が読み上げられる。

 全額ではない。

 それでも――かなりの部分が認められた。

「その余の請求を棄却する」


 続いて、訴訟費用について告げられる。

 玲は、必死にメモを取った。

 声には出さない。顔にも出さない。

 だけど。

 胸の奥では。

(……よし)

 小さく拳を握っていた。

 そして、判決書を確認した後。

 婚約指輪。前撮り費用。衣装代。ヘアメイク代。結婚式場に支払った費用のうち返還されなかった部分――。

 玲たちが一つずつ積み上げてきた損害の多くが認められていた。
 そして。

 被告が既婚者であることを隠し、原告と将来婚姻する意思があるかのように装い続けたことで生じた精神的苦痛についても、慰謝料が認められた。