リーガルウェポン

「……本当ですか?」
「ああ」
 武蔵は優しく笑った。
「声も出てた。裁判官の質問にもちゃんと答えてたし、余計なことも言わなかった」
「余計なこと……」
「それが一番心配だったからね」
「先生……」
「褒めてるよ」
「絶対褒めてないですよね?」
「褒めてる、褒めてる」
 武蔵は笑いながら、玲の肩を軽く叩いた。

「法廷はね、派手に喋ればいいってもんじゃない」
「……」
「必要なことを、必要なだけ言う。それで十分なときもある」
 玲は先ほどまで自分が立っていた法廷を振り返った。

 静かな部屋だった。
 ドラマで見たような怒号もなければ、机を叩いて相手を追い詰めるような場面もない。
 ただ。

 書面があって。
 証拠があって。
 事実があって。
 裁判官がいる。

「……なんか」
「ん?」
「思ってたより、ずっと静かなんですね。裁判って」
「民事は特にね」
「もっとこう……相手と直接言い争ったりするのかと思ってました」
「今日は相手が来てないからな」
「あ」
「まあ、来てても言い争いはしないけど」
「そうなんですか?」
「弁護士が感情的になったら負けだ」
 その言葉に、玲は黙った。

 武蔵は玲を見る。
「……耳が痛い?」
「かなり」
「だろうね」
「先生」
「ははは」
 けれど。

 玲は、自分でも分かっていた。
 昔の自分なら。
 被告の女性が目の前にいたら、きっと言っていた。

 夫も子どももいるのに独身のふりをして。
 結婚すると嘘をついて。
 人のお金で好きなドレスを着て。 
 相手の両親にまで平気な顔で挨拶をして。

 人の人生を何だと思ってるんですか。


 そんな言葉を。
 いくらでも――いくらでも言える。

 だけど。
 それは弁護士の仕事ではない。

 依頼人の怒りを代わりにぶつけることではなく。
 依頼人の権利を、法律と証拠で守る。

 それが、弁護士。

「……難しいですね」
「何が?」
「言いたいことを言わないのって」
「君には特にね」
「そこまで言います?」
「言うよ」
 武蔵は笑った。
 そして。