リーガルウェポン

 玲には、それが異様に長く感じられた。
「被告から答弁書の提出はなく、本日も出頭していません」
そして。
「本件については、これで弁論を終結します」
「……え」
 思わず出そうになった声を、玲は飲み込んだ。

 終わった?
 もう?

「判決言渡期日は――」
 淡々と、次の日付が告げられていく。
 玲は呆然とメモを取った。
 あれだけ練習した。
 あれだけ緊張した。
 昨夜なんてほとんど眠れなかった。
 なのに。

 初法廷は、二十分にも満たなかった。
「以上です」
 裁判官が席を立つ。
 玲も慌てて立った。
「ありがとうございました」
 廊下へ出た瞬間だった。
「……先生」
 依頼人に呼ばれて、玲は振り返る。
「はい」
「僕……悪くないんでしょうか」
 玲はすぐには答えなかった。
 弁護士になってから、何度も自分に言い聞かせてきたことがある。

 感情だけで断言するな。
 証拠を見ろ。
 事実を見ろ。
 法律を見ろ。

 だから、今度は迷わなかった。
「少なくとも」
 玲は男性をまっすぐ見た。
「あなたが知っていたことを示す証拠は、僕たちが調べた限り、一つもありません」
 男性が顔を上げる。
「その逆なら、山ほどあります」

 玲は抱えているファイルを軽く持ち上げた。
「あなたはこの人と結婚するつもりだった。そのために準備していた。その事実は、全部ここに残っています」
「……」
「だから、自分まで加害者だったみたいに考えるのは、判決が出てからでも遅くありません」
 男性の目が赤くなった。
 玲は小さく笑った。
「今は、僕に任せてください」

 玲がそう言うと、男性は唇を噛みしめながら、何度も頷いた。
「……お願いします」
「はい」
 短く答えて、玲は頭を下げる。
 その瞬間。
「お疲れ」
 聞き慣れた声がした。