リーガルウェポン

 玲が弁護士になりたいと思ったのは、十歳の頃だった。

 祖父が法廷に立つ姿を、初めて目の前で見た日。
 開廷を告げる声が響き、傍聴席のざわめきが消える。誰もが息を潜めるなか、祖父はゆっくりと立ち上がった。

 玲は小さな手を膝の上で握りしめた。いつも家で見る祖父とは、まるで別人だった。背筋はまっすぐに伸び、ダークスーツの裾がわずかに揺れる。その姿だけで、広い法廷の空気が変わったように感じられた。
 被告席では、依頼人の女性が固く拳を握りしめていた。二十六歳の彼女は、交通事故による損害賠償を求められ、被告としてこの法廷に立っていた。怯えた顔に、向けられる視線の一つひとつが突き刺さっている。

 事故は、本来なら車の修理代だけで済むはずの軽い物損事故だった。ところが男性は事故のあとに身体の不調を訴え、治療費や慰謝料まで請求するようになった。治療費も払ってほしい、払わなければ裁判になるぞと、彼女を繰り返し脅していた。
 けれど祖父は、まっすぐ前を見ていた。
 どうして怖くないのだろう。こんなにたくさんの人が見ているのに、祖父だけは揺らいでいない。まるで、目には見えない何かを確かに見つめているようだった。その揺るがなさに、玲の心は強く引き寄せられた。