まずは、第一の『無人で鳴り響くピアノ』だ。昨日は音楽室のピアノを調べたが、異常はなかった。ならば、体育館にあるグランドピアノはどうだろうか?
三人が体育館に行き、バスケ部とバレー部が練習している脇を通り、ステージに上がる。昨日と同じように蓋を開け未知が弾いても、こちらも何も異常はない。
「なんだよ。手がかりゼロじゃん」
小川が肩を落とし、
「なんにもないですね」
と平屋はタブレットの平面図に×を付けた。
未知は黒のノートのヒントを見つめていた。
【ヒント:すべて日のあたるところにあるのが正しいとは限らない】
「平屋先輩……ちょっと」
とタブレットを覗く。
未知は、学校平面図を見る。そこには方位も書かれている。音楽室、体育館。いずれも南に位置している。では北側を見てみよう。そこの教室は……。
「平屋先輩。この平面図は、今現在の学校の平面図と教室の配置ですよね」
「うん。そうだよ。今年度のやつ」
「でも、四十年前なら、教室の並びも、使用している教室の用途も、もしかして違うんじゃないですか? もしかして、私たちの気づいていない『ピアノ』がどこかに存在してる?」
「……!」
平屋は声を失った。
「あ! じゃあさ!もしかして図書室ならわかるんじゃないか? 歴代の卒アル置いてあったぞ!こないだ佐藤刑事の卒アル探したんだ!ヤンキーすぎて引いたけど」
「え、じゃあ、みゆお刑事のもあるんですか! 教えてくださいよ!」
足早に三人は図書室に移動した。
***
「やばい、美少女じゃん……」
平屋がみゆお刑事の卒アルを眺めながら、ため息をついている横で、未知と小川は第一期の卒アルを開いていた。
「縮尺がちがって、平屋のタブレットと比較しにくいなあ……」
と小川のつぶやきが聞こえたのか、司書の先生が近づいて来た。
「なあに? 探偵さんたち。何か困りごと?」
学校の配置図を書き写したいと説明すると、年配の司書の先生は「分かった」と言って、準備室に戻り、一枚のプラスチックシートと油性ペンを持ってきた。
「コピーは、卒業アルバムの性質上できないんだけど、これに書き写すならOKよ」
「何ですか? これ。プラバン? いいんですか? 高そう」
一段薄いペラペラのシートは、プラバンには適さないように思える。
「オーエイチピーシートよ。……って知らないか。使わないの余っちゃってるから、好きに使っちゃって」
と笑う。
「おおっ!油性ペンでスルスル書ける!」
と小川は模写を始めた。
「へー。小川先輩、製図描くのうまいですね」
未知が感心したように言うと、ちょっとこそばゆいように肩を揺らした。
「ん、まあ。技術家庭はなぜか満点だからな。ほら、平屋。卒アルもういいから、タブレット画面出せ!」
そして、シートにタブレット画面の縮尺を合わせていき、三人は息を飲んだ。
「うわ……随分違うな」
「今は特別教室だったりがほとんど教室だったんだな。壁を増設して、仕切って準備室にしているところもある」
「生徒の人数も違ってましたね。写真見ましたか? クラス人数。四十八人ですよ!」
「絶対、一年で話したことないやついたよな。運動会ごちゃごちゃしそう」
「あれ? この、一階の一番奥。今はPTA会議室になってるとこ。『第二』音楽室……?」
方位図を指さし、
「北向きだ」
三人はすぐさま移動を始めた。
鍵を借りて部屋に入ると、分厚いベルベットのカバーが被せられた古いアップライトピアノが放置されていた。
未知はカバーを外し、鍵盤の蓋を開ける。
鍵盤を覆ったフェルトを外し、ラの音を鳴らした。
「ポーン」
と小気味の良い音がする。未知は部屋をぐるりと見回すが、揃いのスツールはもはや無いのか、適当なパイプ椅子を引っ張り出す。
「ピアノって、動かすと調律が狂っちゃうんですよ。だから、この子はここに置いてきぼりにされたんですね」
そう言って、昨日と同じようにまた「花のワルツ」を弾き始める。
昨日より、なぜか思いが込められているように小川には感じられた。
そうして、最後、全鍵盤をなでつけるように指を滑らせたとき、それは分かった。一番高い音が、なぜかひしゃげているのだ。
「なに、この音?」
未知は立ち上がって、アップライトピアノの天板を開ける。
蓋がそんなところに付いているなんて思いもしない小川と平屋も近づき、平屋がスマホのライトを起動する。
「なんか挟まってるみたいです。先輩方、このピアノ、後ろの蓋も開けたいんで、ちょっと前に動かしてください」
「え?動かしたら調律狂うんじゃないのか?」
「もともと狂ってましたよ。ずっと調律されてなかったみたいだし!」
そして、二人がピアノを押し出すと、背面が見える。
未知の指示通り木の突起を引っ張ると、なんとハンマーや弦の内部が見えた。埃がたまったそれを一瞥した未知は、一番端に挟まる異物を取り出した。
それは一片の便箋を折りたたんだもののようだった。
四十年前のノートと同じくらい古びた紙の質感。
ドキドキと三人はそれを開くと、そこには
『 IZANAMI HOTORI MON 』
(イザナミ・ホトリ・モン)
と書かれていた。
三人が体育館に行き、バスケ部とバレー部が練習している脇を通り、ステージに上がる。昨日と同じように蓋を開け未知が弾いても、こちらも何も異常はない。
「なんだよ。手がかりゼロじゃん」
小川が肩を落とし、
「なんにもないですね」
と平屋はタブレットの平面図に×を付けた。
未知は黒のノートのヒントを見つめていた。
【ヒント:すべて日のあたるところにあるのが正しいとは限らない】
「平屋先輩……ちょっと」
とタブレットを覗く。
未知は、学校平面図を見る。そこには方位も書かれている。音楽室、体育館。いずれも南に位置している。では北側を見てみよう。そこの教室は……。
「平屋先輩。この平面図は、今現在の学校の平面図と教室の配置ですよね」
「うん。そうだよ。今年度のやつ」
「でも、四十年前なら、教室の並びも、使用している教室の用途も、もしかして違うんじゃないですか? もしかして、私たちの気づいていない『ピアノ』がどこかに存在してる?」
「……!」
平屋は声を失った。
「あ! じゃあさ!もしかして図書室ならわかるんじゃないか? 歴代の卒アル置いてあったぞ!こないだ佐藤刑事の卒アル探したんだ!ヤンキーすぎて引いたけど」
「え、じゃあ、みゆお刑事のもあるんですか! 教えてくださいよ!」
足早に三人は図書室に移動した。
***
「やばい、美少女じゃん……」
平屋がみゆお刑事の卒アルを眺めながら、ため息をついている横で、未知と小川は第一期の卒アルを開いていた。
「縮尺がちがって、平屋のタブレットと比較しにくいなあ……」
と小川のつぶやきが聞こえたのか、司書の先生が近づいて来た。
「なあに? 探偵さんたち。何か困りごと?」
学校の配置図を書き写したいと説明すると、年配の司書の先生は「分かった」と言って、準備室に戻り、一枚のプラスチックシートと油性ペンを持ってきた。
「コピーは、卒業アルバムの性質上できないんだけど、これに書き写すならOKよ」
「何ですか? これ。プラバン? いいんですか? 高そう」
一段薄いペラペラのシートは、プラバンには適さないように思える。
「オーエイチピーシートよ。……って知らないか。使わないの余っちゃってるから、好きに使っちゃって」
と笑う。
「おおっ!油性ペンでスルスル書ける!」
と小川は模写を始めた。
「へー。小川先輩、製図描くのうまいですね」
未知が感心したように言うと、ちょっとこそばゆいように肩を揺らした。
「ん、まあ。技術家庭はなぜか満点だからな。ほら、平屋。卒アルもういいから、タブレット画面出せ!」
そして、シートにタブレット画面の縮尺を合わせていき、三人は息を飲んだ。
「うわ……随分違うな」
「今は特別教室だったりがほとんど教室だったんだな。壁を増設して、仕切って準備室にしているところもある」
「生徒の人数も違ってましたね。写真見ましたか? クラス人数。四十八人ですよ!」
「絶対、一年で話したことないやついたよな。運動会ごちゃごちゃしそう」
「あれ? この、一階の一番奥。今はPTA会議室になってるとこ。『第二』音楽室……?」
方位図を指さし、
「北向きだ」
三人はすぐさま移動を始めた。
鍵を借りて部屋に入ると、分厚いベルベットのカバーが被せられた古いアップライトピアノが放置されていた。
未知はカバーを外し、鍵盤の蓋を開ける。
鍵盤を覆ったフェルトを外し、ラの音を鳴らした。
「ポーン」
と小気味の良い音がする。未知は部屋をぐるりと見回すが、揃いのスツールはもはや無いのか、適当なパイプ椅子を引っ張り出す。
「ピアノって、動かすと調律が狂っちゃうんですよ。だから、この子はここに置いてきぼりにされたんですね」
そう言って、昨日と同じようにまた「花のワルツ」を弾き始める。
昨日より、なぜか思いが込められているように小川には感じられた。
そうして、最後、全鍵盤をなでつけるように指を滑らせたとき、それは分かった。一番高い音が、なぜかひしゃげているのだ。
「なに、この音?」
未知は立ち上がって、アップライトピアノの天板を開ける。
蓋がそんなところに付いているなんて思いもしない小川と平屋も近づき、平屋がスマホのライトを起動する。
「なんか挟まってるみたいです。先輩方、このピアノ、後ろの蓋も開けたいんで、ちょっと前に動かしてください」
「え?動かしたら調律狂うんじゃないのか?」
「もともと狂ってましたよ。ずっと調律されてなかったみたいだし!」
そして、二人がピアノを押し出すと、背面が見える。
未知の指示通り木の突起を引っ張ると、なんとハンマーや弦の内部が見えた。埃がたまったそれを一瞥した未知は、一番端に挟まる異物を取り出した。
それは一片の便箋を折りたたんだもののようだった。
四十年前のノートと同じくらい古びた紙の質感。
ドキドキと三人はそれを開くと、そこには
『 IZANAMI HOTORI MON 』
(イザナミ・ホトリ・モン)
と書かれていた。



