翌日、部室にて。
「……だから、そんなにくっ付いているんですね?」
タブレットから再生された昨日の「花のワルツ」を聞きながら、青い顔をして肩を並べてひっついている小川と平屋を見やりながら、未知はマスクをつけてから、呆れたようにロッカーを開けた。
「まじで、キモかったんだよ! お前も一緒にいたら分かるぞ」
「でも、雑音がいっぱいで、正直、この音源だけだとよくわかんないですよ」
と、麻紐で閉じられているノートの束を引っ張り出した。
どんっと机の上に束を置くと、心なしか埃が宙を舞い、平屋はたまらず窓を開ける。
小川が口を腕で抑えながら、
「部誌の表紙には『第〇〇期』と書かれてるのが伝統だ。今、俺たちが第四十期だから、第一期を探すぞ」
平屋も黒マスクを着けて、ご丁寧にビニール手袋もはめ、束を出していく。
一年の間に何度もノートが分冊されるのか、どんどんと積み重なって行く。
――二十期、十期……。積み重ねられた束の一番下に、第一期のそれはあった。
三人は、かび臭いそれに我慢ならず、ついに部室を飛び出し、新聞紙を敷いて屋外にそれを広げ始めた。
「第一期……これか」
何冊か分冊されているそれの中に、異様に真っ黒な、けれど風化で表紙が擦れて白く変色しているノートがある。
「これだけなんか雰囲気が違うな。じゃあ、ほら、手分けして読もうか」
三人は、椅子を屋外に引っ張り出して読み始める。
うろこ雲の下、赤とんぼが舞い、初秋のさわやかな風が、彼らを撫でていく。
「ふーん。これを読むと普通の部誌だな。『五月十日、部員が揃った。全部で五名。これで正式に部としてスタートできる。まずは、手始めに、「シャーロックホームズ」シリーズの精読からはじめることにする』……だって」
と平屋が目を上げる。
「『六月三十日。テストも終わり、本格的な研究に入ろうと思う。まず、アガサクリスティーの「そして誰も居なくなった」の検証を、校庭でやってみようと思う』……って、最後、鬼ごっこになってましたね」
未知がくすくすと笑いながら顔を上げ、
「あんまり私たちと変わりませんね」
と同意を求めるように小川のほうを向いたとき、小川の異様な様子に、平屋と未知はぎょっとした。
黒いノートを持ったまま、小川は固まっているのだ。
「先輩!?」
「どうしました!?」
小川が涙目になってる。
「うわあ……俺、読んじゃった。十三日後には死んじゃう……」
「は?」
「え、何?」
平屋と未知は、小川からそのノートを奪い取ると、即座に読み始めた。
******
『ようこそ、探偵諸君。
この白きキャンバスへようこそ。
私はここに七つの謎を落とした。
すなわち「学園七不思議」である。
一、無人で鳴り響くピアノ
ヒント:すべて日のあたるところにあるのが正しいとは限らない。
二、こちらを向く美術室の石膏像
ヒント:その目に奪われると、君の世界は反転する。
三、真夜中に叫ぶ校内放送
ヒント:そこでの叫びはすなわち沈黙。
四、上がってるのに下がっている無限階段
ヒント:どこまでもどこまでもたどり着かない。
五、機械仕掛けのドッペルゲンガー
ヒント:動き始めたそれを、止めることはできない。
六、踊り嗤う骨格標本
ヒント:君の技術が勝るか、こちらが上か。
七、異界へ引き込まれる魔の鏡
ヒント:それを目にしたら、もう戻ってはこれないだろう。
警告しよう。
このページに触れた瞬間から、君に拒否権はない。
猶予は十三日間。
私が仕掛けたこの七つの謎をすべて解き明かさなければ、君の探偵としての命脈は絶たれ、完全なる敗北という名の「死」を迎えることとなる。
君たちのひらめきが、私の退屈な日常を悦ばせるものになるよう祈ってるよ。
怪人S』
******
「……すごい、厨二感漂うポエムですね」
平屋は、恥ずかしそうに顔を覆った。
「? お前、顔真っ赤だぞ?」
涙目をこする小川に、平屋は声を荒げる。
「共感性羞恥ってやつですよ! これはイタい!うわぁ、キッツ……!」
「?」
あーだこーだやっている男子二人をよそに、未知は、部誌のノートの「九月一日」の日付をめくる。
「先輩方。これ、呪いの書とかでも何でもなく、文化祭の出し物の草案みたいですよ」
「え」
「やっぱり」
二人は未知の持っている通常の部誌を覗き始める。そこには、四十年前の探偵研究部での活動が記されていた――
******
九月一日(火)快晴
本日より、二週間後の文化祭に向けての準備に入る。まずは部員五人で相談するところから始まった。
話し合いの結果、満場一致で「学校七不思議」によるスタンプラリーを実施することになる。各自、題材を持ち寄って打合せすることにし、本日は解散する。
題材探しのため、部活後にSと共に図書室へ出向き推理小説を数冊選ぶ。Sは画集とオカルトに関する書籍を借りた。
九月二日(水)曇り
五人で出し合った案はこのようなものだった。
目の動くベートーベン、トイレの花子さん、口裂け女、踊る骨格標本、緑色の宇宙人、真夜中の校内放送、恐怖の十三階段。
これでどのような出し物をするか話し合った時、思いがけないことが起きた。
Sが言うには、「既存の七不思議や、お化け屋敷で出し尽くしているものじゃ、つまらない。もっと新しくて、面白いものにできないかな?」だった。
それには、「確かに、もう釣り竿にこんにゃくで驚かせるようなのは、やりつくした感あるよね」と皆が同意した。
かくして、Sの提案する画集と、オカルトの書籍を基に、こんどは我々オリジナルの「新・学校七不思議」を考案することとなった。
******
小川、平屋、未知はそこまで読み終えると、
「へえーーーー」
と小川が声を上げた。
「まあ、こんな感じで、この展示が評判になって四十年も時を経て、七不思議の噂になった、というわけですね」
未知がまとめると、平屋がすかさず、
「じゃあ、次あたりで、どこに何を設置したかわかるんじゃない?」
と未知に問えば、
「無いんです」
と答える。
「え?」
「だからないんですよ、次。ちょうどページの終わりかけで、次のノートに移っているはずなんですが、九月三日以降のノートがまるっと一冊抜けてて、次のノートは、十二月三日から始まってます」
「なんだよそれ、いい加減だなー」
肩を落とす平屋を見て、小川はなだめるように明るく声を張る。
「まあまあ。ほら、この黒ノートの草案は残ってるだろ。うっし、幽霊じゃないならこっちのもんだ。よし、七つ、探しに行くぞ!! あ、暗くなる前に行くぞ!」
そうして三人は片付けもそこそこに部室を後にした。
「……だから、そんなにくっ付いているんですね?」
タブレットから再生された昨日の「花のワルツ」を聞きながら、青い顔をして肩を並べてひっついている小川と平屋を見やりながら、未知はマスクをつけてから、呆れたようにロッカーを開けた。
「まじで、キモかったんだよ! お前も一緒にいたら分かるぞ」
「でも、雑音がいっぱいで、正直、この音源だけだとよくわかんないですよ」
と、麻紐で閉じられているノートの束を引っ張り出した。
どんっと机の上に束を置くと、心なしか埃が宙を舞い、平屋はたまらず窓を開ける。
小川が口を腕で抑えながら、
「部誌の表紙には『第〇〇期』と書かれてるのが伝統だ。今、俺たちが第四十期だから、第一期を探すぞ」
平屋も黒マスクを着けて、ご丁寧にビニール手袋もはめ、束を出していく。
一年の間に何度もノートが分冊されるのか、どんどんと積み重なって行く。
――二十期、十期……。積み重ねられた束の一番下に、第一期のそれはあった。
三人は、かび臭いそれに我慢ならず、ついに部室を飛び出し、新聞紙を敷いて屋外にそれを広げ始めた。
「第一期……これか」
何冊か分冊されているそれの中に、異様に真っ黒な、けれど風化で表紙が擦れて白く変色しているノートがある。
「これだけなんか雰囲気が違うな。じゃあ、ほら、手分けして読もうか」
三人は、椅子を屋外に引っ張り出して読み始める。
うろこ雲の下、赤とんぼが舞い、初秋のさわやかな風が、彼らを撫でていく。
「ふーん。これを読むと普通の部誌だな。『五月十日、部員が揃った。全部で五名。これで正式に部としてスタートできる。まずは、手始めに、「シャーロックホームズ」シリーズの精読からはじめることにする』……だって」
と平屋が目を上げる。
「『六月三十日。テストも終わり、本格的な研究に入ろうと思う。まず、アガサクリスティーの「そして誰も居なくなった」の検証を、校庭でやってみようと思う』……って、最後、鬼ごっこになってましたね」
未知がくすくすと笑いながら顔を上げ、
「あんまり私たちと変わりませんね」
と同意を求めるように小川のほうを向いたとき、小川の異様な様子に、平屋と未知はぎょっとした。
黒いノートを持ったまま、小川は固まっているのだ。
「先輩!?」
「どうしました!?」
小川が涙目になってる。
「うわあ……俺、読んじゃった。十三日後には死んじゃう……」
「は?」
「え、何?」
平屋と未知は、小川からそのノートを奪い取ると、即座に読み始めた。
******
『ようこそ、探偵諸君。
この白きキャンバスへようこそ。
私はここに七つの謎を落とした。
すなわち「学園七不思議」である。
一、無人で鳴り響くピアノ
ヒント:すべて日のあたるところにあるのが正しいとは限らない。
二、こちらを向く美術室の石膏像
ヒント:その目に奪われると、君の世界は反転する。
三、真夜中に叫ぶ校内放送
ヒント:そこでの叫びはすなわち沈黙。
四、上がってるのに下がっている無限階段
ヒント:どこまでもどこまでもたどり着かない。
五、機械仕掛けのドッペルゲンガー
ヒント:動き始めたそれを、止めることはできない。
六、踊り嗤う骨格標本
ヒント:君の技術が勝るか、こちらが上か。
七、異界へ引き込まれる魔の鏡
ヒント:それを目にしたら、もう戻ってはこれないだろう。
警告しよう。
このページに触れた瞬間から、君に拒否権はない。
猶予は十三日間。
私が仕掛けたこの七つの謎をすべて解き明かさなければ、君の探偵としての命脈は絶たれ、完全なる敗北という名の「死」を迎えることとなる。
君たちのひらめきが、私の退屈な日常を悦ばせるものになるよう祈ってるよ。
怪人S』
******
「……すごい、厨二感漂うポエムですね」
平屋は、恥ずかしそうに顔を覆った。
「? お前、顔真っ赤だぞ?」
涙目をこする小川に、平屋は声を荒げる。
「共感性羞恥ってやつですよ! これはイタい!うわぁ、キッツ……!」
「?」
あーだこーだやっている男子二人をよそに、未知は、部誌のノートの「九月一日」の日付をめくる。
「先輩方。これ、呪いの書とかでも何でもなく、文化祭の出し物の草案みたいですよ」
「え」
「やっぱり」
二人は未知の持っている通常の部誌を覗き始める。そこには、四十年前の探偵研究部での活動が記されていた――
******
九月一日(火)快晴
本日より、二週間後の文化祭に向けての準備に入る。まずは部員五人で相談するところから始まった。
話し合いの結果、満場一致で「学校七不思議」によるスタンプラリーを実施することになる。各自、題材を持ち寄って打合せすることにし、本日は解散する。
題材探しのため、部活後にSと共に図書室へ出向き推理小説を数冊選ぶ。Sは画集とオカルトに関する書籍を借りた。
九月二日(水)曇り
五人で出し合った案はこのようなものだった。
目の動くベートーベン、トイレの花子さん、口裂け女、踊る骨格標本、緑色の宇宙人、真夜中の校内放送、恐怖の十三階段。
これでどのような出し物をするか話し合った時、思いがけないことが起きた。
Sが言うには、「既存の七不思議や、お化け屋敷で出し尽くしているものじゃ、つまらない。もっと新しくて、面白いものにできないかな?」だった。
それには、「確かに、もう釣り竿にこんにゃくで驚かせるようなのは、やりつくした感あるよね」と皆が同意した。
かくして、Sの提案する画集と、オカルトの書籍を基に、こんどは我々オリジナルの「新・学校七不思議」を考案することとなった。
******
小川、平屋、未知はそこまで読み終えると、
「へえーーーー」
と小川が声を上げた。
「まあ、こんな感じで、この展示が評判になって四十年も時を経て、七不思議の噂になった、というわけですね」
未知がまとめると、平屋がすかさず、
「じゃあ、次あたりで、どこに何を設置したかわかるんじゃない?」
と未知に問えば、
「無いんです」
と答える。
「え?」
「だからないんですよ、次。ちょうどページの終わりかけで、次のノートに移っているはずなんですが、九月三日以降のノートがまるっと一冊抜けてて、次のノートは、十二月三日から始まってます」
「なんだよそれ、いい加減だなー」
肩を落とす平屋を見て、小川はなだめるように明るく声を張る。
「まあまあ。ほら、この黒ノートの草案は残ってるだろ。うっし、幽霊じゃないならこっちのもんだ。よし、七つ、探しに行くぞ!! あ、暗くなる前に行くぞ!」
そうして三人は片付けもそこそこに部室を後にした。



