探偵研究部。――カケラノセカイ―― ④文化祭の謎を追え!

 小川と平屋が慌てて追いかけた先は音楽室だ。
 すでに未知はグランドピアノの前に座り、静かに鍵盤に指を乗せていた。

 深窓の令嬢然とした未知の姿に圧倒され、二人は入口に立ち尽くしていた。
 静かな集中の一瞬の後、未知の指が鍵盤を滑らかに踊る。

 音楽室に響き渡ったのは、チャイコフスキーの『くるみ割り人形』の美しいワルツのメロディーだった。
 音に合わせ未知の亜麻色の髪がゆっくりと揺れる。透明な輪郭がまるでこの世のものとは思えないほどだった。
 二人はその幻想的な光景を声もなく見つめていた。

 一曲を弾き終えると、未知は立ち上がり、照れくさそうにぺこりと二人にお辞儀をした。

 ――いつもの未知だ。

 二人は、ほっとしつつも思わず拍手をした。

「未知、うまいじゃないか!」

 小川が驚いて声をかけると、

「ありがとうございます。でも、この曲しか弾けないんです」

 そして、視線をピアノに移した。

「このピアノは、何でもない普通のピアノですね。ハンマーも何にも細工はされていない。電子でもなければ、そもそも演奏者がいなければ鳴りません」

「だから、七不思議なんだろ?」

 小川も蓋を開けて確認し、平屋はタブレットのカメラで内部を撮っていた。
その時、音楽室の扉が開き、見回りの生徒会長のマタロウと副会長の成瀬今日子が入ってきた。

「おい、お前ら! 下校時刻だぞ! こんな時間まで何やってんだ!?」

「あー、悪いな、マタロウ。もう片付けるよ」

「全く……。文化祭前は、みんな下校時刻を守らんな」

 生徒会連中はぶつぶつと次の場所へ向かって行く。
 小川は肩をすくめ、

「今日はもう遅い。明日また見てみよう」

 と平屋と未知に伝えた。
 部室に戻ると、智と高杉はもうカバンを背負っていた。

「卒業生の先輩たち、もう用事があるって帰っちゃったよ。それで、これ、三人にって」

 小川が受け取った、手書きのA4用紙――チラシの裏には、いいかげんな殴り書きで、こんな言葉が書かれていた。

『現役探偵たち。ヒントだよ。七不思議の噂は「昔からある」って言ったでしょ。この部は、学校創設以来ある部活動。そしたら記録をたどってみたらいいんじゃない?』

「記録……」

 小川は部室のロッカーを見た。
 そうだ、ここにはかつての先輩たちが残した大切な記録、部誌がある。
 小川は平屋と未知の顔を見た。

「明日から、本腰入れて、調べるぞ!」

 そう言うと、平屋と未知は嬉しそうに「はい」と頷いた。

 三人が並んで校門に差し掛かると、いつものようにそこには黒塗りのハイヤーが停まっていた。未知の迎えだ。

「じゃあまた明日」

 二人に会釈をしてから、未知は後部座席のドアを開けた。
 運転席の初老の武田さんが、「おかえり、嬢ちゃん」と口もとで笑う。
 小川と平屋が軽く会釈すると、ブロロ……、と車は出発した。

 すると、どこからか先程の未知が弾いた「花のワルツ」のフレーズが聞こえた気がし、振り返る。
 すでに三階の音楽室の電灯は消えている。

「え……?」

 小川が学校のあちこちに目を配るが、まだ電灯が灯っているのは、職員室と生徒会室だけだった。

「さっき、未知が弾いた曲だ!」

 怯えるように平屋が言う。

「平屋、録音!」

 小川が声をかけ、すぐさま平屋はタブレットのマイクを起動させる。
 未知の演奏とは違い、音は故意にたわんで、ところどころひずんで、ひっかかるように聞こえてきた。まさしく、お化けが弾いているようにも聞こえる。
 そして、それは、ふいにふっつりと消えた。

「一、無人で鳴り響くピアノ……。七不思議は本当にあるってことなのか?」

「……非科学的でしょ」

 そんな言葉を言いながらも、二人は通学路が別れるぎりぎりまでぴったりくっついて歩いた。