探偵研究部。――カケラノセカイ―― ④文化祭の謎を追え!

 第二中学校生徒会長、小笠原章は、猫背で寝ぐせをそのままに、よれたカッターシャツに青いネクタイをかろうじて着けて、千鳥格子のズボンの制服姿で、風船に彩られた「受付」に並ぶ。

 その手には、第一中学生徒会長から贈られた「招待状」がある。
後ろには三人の眼鏡の執行部員が控える。小笠原はじろりと睨むように三人に声をかけた。

「今日はあくまで、うちの文化祭の参考のための他校の視察だ。羽目を外さないようにしろよ。まずは生徒会長に会う。
 格調高く、規律正しい文化祭に立て直すと言っていた。
 彼は、陣頭指揮を取るタイプの生徒会長だ。多分体育館にいることだろう。
行くぞ」

 可愛らしいピンクの上質紙に印刷された「文化祭プログラム」を持って、体育館へ向かった。

 そこは、熱気の混沌だった。

 まず、生徒たちが舞台上で、

「かわいいだけじゃなくって、強いのよ♡」

 と、アイドルさながらのダンスを踊ってる。
 その踊ってるのが、なんともガタイの良い柔道着の連中だ。頭につけた、全員色違いの大きなカチューシャが、申し訳程度のアイドルの体を保ってる。

 次に出てきたのは高身長、イケメン集団だ。
 こっちは学ランに、キラキラのモールをくっつけて、男子アイドルのように舞い踊る。

「好きすぎて、ぞっこん!」

 とポーズを決めると、客席はペンライトを持った女子たちの黄色い声援が飛び交った。

「――は? なんだこりゃ。これじゃ普通の文化祭……っつーか、それ以上にカオスじゃねーか? マタロウの奴。何やってんだ?」

 小笠原が体育館内をぐるりと見回す。
 が、何とステージ袖から拡声器を持ったマタロウその人が、なんと、白学ランを着てやってきた。
 いや、腕章は「生徒会長」と書いてあるので間違いはない。
 執行部の女子も男子も、白学ランに「執行部」の腕章だ。

「貴様らバスケ部! 出番が終わったなら、さっさとのけろ! 次は、執行部によるペンライトダンスだ!」

 と、一糸乱れぬダンスを披露し始めた。

「……どうなってる?」

 小笠原が首をかしげていると、

「お! 小笠原クンじゃねーか! よく来たな! 視察か?」

 底抜けに明るい声が聞こえた。
 振り向くと、ホラーテイストの雑な医者の姿をした、小川歩が立っていた。
 思わず、背の高い首根っこを掴んだ。

「おい! こりゃなんだ? マタロウからは『格調高く、規律正しい文化祭』という触れ込みできたんだが? とんでもないお祭り騒ぎじゃないか!?」

「ああ! 『規律正しい』ってやろうとしてたな。最初は。でも、結局みんなで話し合って、こんな形に落ち着いたんだよ。
まあ、あのダンスがマタロウなりの『規律正しい』ダンスってことらしい」

「全く……。無理やり絡めたな」

 呆れたようにステージに目を向けると、小川はまた笑みを深めてニシシと笑う。

「さあ、次はうちの『探偵研究部×オカルト研究会』のフィルム上映だからさ。見てって! あとスタンプラリーもやっていってよ」

 と、黒いスタンプラリー台紙を残して、嵐のように小川歩は体育館を出て行った。

「あ、ナイチンゲール(未知)どこにいるのか聞いてなかったな……」

 小笠原が前を向くと、その瞬間、何もかもの照明が落ちて、真っ暗になる。
 ステージ上は、スクリーンの明かりだけ。

 白装束の男子がマイクを持ち、静かに語り始めた。

「ここからは、四十年前から学校に伝わる七不思議の話。
みんなは、ドッペルゲンガーって知ってるかい? そう、この地球上に三人は自分とそっくりの人間がいるってやつ。そしてそいつに出会ったら、どうなる――?
 みんなのそばに、そいつはいるかもしれない……」

 ガチャン、ガチャン、と古めかしい音を立てながら、機械が回っている。
 スクリーンには、学校の廊下。そこには誰もいないはずだった。

 ガチャン。

 何かがうごめいている。

 ガチャン。

 それは近づいてきている。

 ガチャン。

 顔を上げたそれは――

「わああああああああーーーーーーーーーーー!!!」

 体育館は悲鳴に包まれた。