文化祭当日の朝、それは起こった。
準備のため、皆は部室に向かった。
すると、前日まで智子とおそろいのメイド服を着るのを楽しみにしていた未知が、部Tシャツを着たまま、しょんぼりとしていた。
小川を見るなり、頭を下げる。
「先輩すみません。実は家のほうで、文化祭みたいな不特定多数が来場するところでピアノを演奏することは許可できないって。昨日、父から電話がきて‥‥‥」
「え? まさか出演NGってこと?」
平屋がすぐさま反応した。
「はい。そのままだと」
「‥‥‥そっか‥‥‥。じゃあ、ピアノはテープ録音で行くか?」
と、そこまで言いかけた小川を遮るように、
「そこで、これ! レンタルしちゃいました!」
と、後ろからピンクのウサギの着ぐるみを出してきた。
遊園地とかでよく見かけるあれだ。
「これなら顔出しじゃないし! バレることもない! ピアノは、もこもこの手袋を外して演奏しますよ!」
とにっこにこの顔で笑った。
その顔に、小川と平屋は、
「すんげー、屁理屈」
と顔を見合わせて笑った。
しかし、智子がそこには反応した。
「え! じゃあ私、一人でメイド服なの? それはちょっと恥ずかしいよ!」
と智子がしょげる。
そこですかさず高杉が、
「俺、知ってる。それ着る適任者‥‥‥」
と手を上げた。
*****
かくして文化祭が始まった。
「謎解きスタンプラリー『学園七不思議』はじまりまーす!」
客寄せ用に、小川は血に見立てた赤の絵の具で手形を付けた白衣の下に、紺の医療用スクラブ。聴診器を首にかけた、マッド・ドクターに扮し、声を張り上げた。
その手には、同じく赤の手形のついたナース服を着せた家庭科室のトルソー、『助手の「キャシィ」ちゃん』を抱えている。
「おい! 平屋! 顔作れ、顔!」
と小川が小声で檄(げき)を飛ばすと、
「‥‥‥なんで僕がこんな役‥‥‥」
涙目の平屋が振り向いた。
ハーフアップのロングヘア―のウィッグをかぶり、フリルがこれでもかとついたメイド服の平屋が、プラカードを掲げている。
ぱっと見、詐欺のようだが美少女だ。
「いーじゃん! バレないって」
「七不思議がシステムエラー起こしたら、この格好で直しに行かないといけないんですよ!」
「大丈夫だって。せいぜい骨格標本くらいだろ? 心配なの」
「だから困るんじゃないですか!」
受付には、同じメイド服の智子が、スタンプラリー台紙を配っている。
商魂たくましく、パワーストーンのキーホルダーまで勧めてる。
すでに頭が重いのか、ふらふらとピンクのウサギの着ぐるみの未知が、
「じゃあ、私もそろそろピアノのほうに行きますね。この格好だと、ちっちゃい子が、ものすごくお腹に直撃してくるんですね! ちょっと歩くだけでもみくちゃになっちゃうし。初めて知りました」
とモゴモゴ言ってる。
「おう。ちゃんと休憩に来いよ!」
「はーい。ファンは入れてるから暑くはないんですけどね。腹アタック気を付けないと」
「おう、未知ちゃん、がんばってな」
と、左前の白装束の高杉が体育館に向かう。
――かくして、『学園七不思議』が開幕した。
【探偵研究部×オカルト研究会による参加者への挑戦状】
『ようこそ、命知らずの探偵たちよ。
四十年の時を超え、この白きキャンバスは再び怪異に染まった。
我々が復活させた七つの謎――「学園七不思議」に挑む覚悟はあるか?
一、無人で鳴り響くピアノ
ヒント:兎の皮を被った悪魔の、狂気の旋律に耳を澄ませ。
二、こちらを向く美術室の石膏像
ヒント:四十年前の天才が残した、視線の檻(おり)に囚われよ。
三、真夜中に叫ぶ校内放送
ヒント:二次元(QRコード)の扉を開けば、そこはもう放送室だ。
四、上がってるのに下がっている無限階段
ヒント:次元がねじれた空間で、あなたの平衡感覚は崩壊する。
五、機械仕掛けのドッペルゲンガー
ヒント:スクリーンを這い出る影。動き始めたそれを、止めることはできない。
六、踊り嗤(わら)う骨格標本
ヒント:君のステップが勝るか、電子頭脳が上か。
七、異界へ引き込まれる魔の鏡
ヒント:それを目にしたら、もうトラウマからは戻ってこれないだろう。
警告しよう。
このページに触れた瞬間から、君に拒否権はない。
猶予は本日限り。
我々が仕掛けたこの七つの謎に耐えきれなければ、君の探偵としての命脈は絶たれ、完全なる敗北という名の「リタイア」を迎えることとなる。
さあ、我々の退屈な日常を打ち破る、極上の悲鳴(エンターテインメント)を聞かせてくれ。
第四十期 探偵研究部 & オカルト研究会
※七つのスタンプをすべて集めると、記念品をお渡しします。スタンプラリー受付までどうぞ☆彡』
準備のため、皆は部室に向かった。
すると、前日まで智子とおそろいのメイド服を着るのを楽しみにしていた未知が、部Tシャツを着たまま、しょんぼりとしていた。
小川を見るなり、頭を下げる。
「先輩すみません。実は家のほうで、文化祭みたいな不特定多数が来場するところでピアノを演奏することは許可できないって。昨日、父から電話がきて‥‥‥」
「え? まさか出演NGってこと?」
平屋がすぐさま反応した。
「はい。そのままだと」
「‥‥‥そっか‥‥‥。じゃあ、ピアノはテープ録音で行くか?」
と、そこまで言いかけた小川を遮るように、
「そこで、これ! レンタルしちゃいました!」
と、後ろからピンクのウサギの着ぐるみを出してきた。
遊園地とかでよく見かけるあれだ。
「これなら顔出しじゃないし! バレることもない! ピアノは、もこもこの手袋を外して演奏しますよ!」
とにっこにこの顔で笑った。
その顔に、小川と平屋は、
「すんげー、屁理屈」
と顔を見合わせて笑った。
しかし、智子がそこには反応した。
「え! じゃあ私、一人でメイド服なの? それはちょっと恥ずかしいよ!」
と智子がしょげる。
そこですかさず高杉が、
「俺、知ってる。それ着る適任者‥‥‥」
と手を上げた。
*****
かくして文化祭が始まった。
「謎解きスタンプラリー『学園七不思議』はじまりまーす!」
客寄せ用に、小川は血に見立てた赤の絵の具で手形を付けた白衣の下に、紺の医療用スクラブ。聴診器を首にかけた、マッド・ドクターに扮し、声を張り上げた。
その手には、同じく赤の手形のついたナース服を着せた家庭科室のトルソー、『助手の「キャシィ」ちゃん』を抱えている。
「おい! 平屋! 顔作れ、顔!」
と小川が小声で檄(げき)を飛ばすと、
「‥‥‥なんで僕がこんな役‥‥‥」
涙目の平屋が振り向いた。
ハーフアップのロングヘア―のウィッグをかぶり、フリルがこれでもかとついたメイド服の平屋が、プラカードを掲げている。
ぱっと見、詐欺のようだが美少女だ。
「いーじゃん! バレないって」
「七不思議がシステムエラー起こしたら、この格好で直しに行かないといけないんですよ!」
「大丈夫だって。せいぜい骨格標本くらいだろ? 心配なの」
「だから困るんじゃないですか!」
受付には、同じメイド服の智子が、スタンプラリー台紙を配っている。
商魂たくましく、パワーストーンのキーホルダーまで勧めてる。
すでに頭が重いのか、ふらふらとピンクのウサギの着ぐるみの未知が、
「じゃあ、私もそろそろピアノのほうに行きますね。この格好だと、ちっちゃい子が、ものすごくお腹に直撃してくるんですね! ちょっと歩くだけでもみくちゃになっちゃうし。初めて知りました」
とモゴモゴ言ってる。
「おう。ちゃんと休憩に来いよ!」
「はーい。ファンは入れてるから暑くはないんですけどね。腹アタック気を付けないと」
「おう、未知ちゃん、がんばってな」
と、左前の白装束の高杉が体育館に向かう。
――かくして、『学園七不思議』が開幕した。
【探偵研究部×オカルト研究会による参加者への挑戦状】
『ようこそ、命知らずの探偵たちよ。
四十年の時を超え、この白きキャンバスは再び怪異に染まった。
我々が復活させた七つの謎――「学園七不思議」に挑む覚悟はあるか?
一、無人で鳴り響くピアノ
ヒント:兎の皮を被った悪魔の、狂気の旋律に耳を澄ませ。
二、こちらを向く美術室の石膏像
ヒント:四十年前の天才が残した、視線の檻(おり)に囚われよ。
三、真夜中に叫ぶ校内放送
ヒント:二次元(QRコード)の扉を開けば、そこはもう放送室だ。
四、上がってるのに下がっている無限階段
ヒント:次元がねじれた空間で、あなたの平衡感覚は崩壊する。
五、機械仕掛けのドッペルゲンガー
ヒント:スクリーンを這い出る影。動き始めたそれを、止めることはできない。
六、踊り嗤(わら)う骨格標本
ヒント:君のステップが勝るか、電子頭脳が上か。
七、異界へ引き込まれる魔の鏡
ヒント:それを目にしたら、もうトラウマからは戻ってこれないだろう。
警告しよう。
このページに触れた瞬間から、君に拒否権はない。
猶予は本日限り。
我々が仕掛けたこの七つの謎に耐えきれなければ、君の探偵としての命脈は絶たれ、完全なる敗北という名の「リタイア」を迎えることとなる。
さあ、我々の退屈な日常を打ち破る、極上の悲鳴(エンターテインメント)を聞かせてくれ。
第四十期 探偵研究部 & オカルト研究会
※七つのスタンプをすべて集めると、記念品をお渡しします。スタンプラリー受付までどうぞ☆彡』



