「はー、気持ちよかったあー。
いっつも厳しい教頭先生の、あの呆けた顔、見ましたか?」
嬉しそうに平屋は振り向く。
「でも、小川先輩、意外でした。
いつの間に東雲勝治さんの事を知ったんですか?」
未知が足早に付いてきながら、背の高い小川の顔をのぞく。
「いやあ、T部長に同情しているうちに思いついたんだよ。絶対このS君は、有名人か、さもなきゃとんでもないヤバい奴になってるだろうって。あとは壁新聞見てたら自然につながった」
手のひらと手のひらを合わせるように小川は二人に見せた。
「はは。小川先輩らしい」
平屋も誇らしそうに大きくうなずく。
「じゃあ、サクサク次に行きましょう。次は、五、機械仕掛けのドッペルゲンガー。ヒント:動き始めたそれを、止めることはできない。ですって」
「機械仕掛け…‥か。平屋なんか浮かぶか?」
「さあ……」
平屋は、廊下を歩きながら、ふと足を止めた。
「……パソコン部……」
その目の先には、パソコン部と書かれたプレートの上に、雑に「機械準備室」と書かれ、テープで貼られたコピー用紙がペラペラと風にめくれている。
***
先ほどの功績もあって、職員室から準備室の鍵を借りるのは容易だった。
「パソコン部って、もうありませんよね」
準備室ほどの小部屋は小さく、未知はカーテンを開けて外気を入れこみながら、平屋に尋ねた。
平屋は何でもないことのように言う。
「僕が入学する直前に廃部になったんだよ。
みんなスマホやタブレットは自分で持つ時代だからね。学校の機材が時代に追いつかなくなったって、説明会では聞いた」
その言葉に、にやにやしながら小川はちゃちゃを入れる。
「ほんとは第一希望にしてたんだろ?」
「昔のことですよ!」
平屋はムキになって声を上げつつ、机を押しのけ奥に進んでいく。
そこには、古びたブラウン管のデスクトップパソコンや、辞書のように分厚い外付けのフロッピーディスクドライブ。さらには、すでに動かないであろうCDデッキやMDデッキ、ビデオデッキなど、廃棄を待つばかりの旧時代の電子機器で今は埋め尽くされている。
「四十年前の機械でしょ。もしかしたら、もう動かないかもしれない」
一通り触ってから、大きなビニールがかぶさっている機材を見つけた。
一見すると、電気スタンドが透明なガラス板を貼り付けた箱に乗ってるみたいだった。
「『オーバーヘッドプロジェクター』だって。投影機の一つかな?」
スマホで検索しても、類似の機械しか出てこず、使い方など詳しい情報はない。仕方なく、写真を撮る。
するとその隣に、同じく平べったい、アンモナイトの化石が乗ったような機械がある。こちらの品名は『スライドプロジェクター』だった。こちらも写真に収めた。
未知が呟いた。
「OVER HEAD PROJECTER……O.H.P。
聞いたことありませんか?」
「あっ!!」
「司書の先生だ!」
二人は同時に声を上げた。
***
五分後。三人は司書の先生を機械準備室に連れてくることができた。
その間、図書室の留守番はそこにいた図書委員に拝み倒してお願いした。
「先生! お願いします!」
司書の先生は、面喰いながら、その機械を眺める。
「うわー懐かしい。昔は視聴覚教材はほとんどこれで写してたのよね。ほら、これが『OHP』。透明シートに書いたものをスクリーンに映し出すことができるのよ。
それからこっちの丸いのは、スライドプロジェクター。写真のフィルムのような感じで、そのままスクリーンに映し出せるの。円形だから、振り出しに戻ればいつまでも見ることができる」
「へー」
三人は感心したようにカクカクと首を振った。
「あら? 変ね。このプロジェクタ、フィルムが入ったまんまだわ?
廃棄前は、フィルムも抜くのに……」
「「!!」」
小川と平屋は同時に固まった。
すぐさま未知がにっこりと笑う。
「せ……先生。お忙しいところお時間ありがとうございました。あとは、私たちで片づけておきますので」
「そう? じゃあ、戸締りよろしくね」
と司書の先生は図書室へ戻って行った。
機械室で三人は困り果てていた。
「つまりこれが、あれだよな。ドッペルゲンガー」
「見たくないーー!絶対見たくないーー!」
ビビり散らす男子二人を冷静に見ながら、未知はスマホを取り出し呼び出した。
「適任者」を。
***
「すげーよ、お前たち。もう第五番目かよ!」
「わあ! 見せて見せて!」
ものの数分で、高杉と智子がすっ飛んできた。
カーテンを閉めた機械室の電気を落とすと、白い壁面にはプロジェクターからのライトが照らされる。
ガチャン!ガチャン!と巨大なホチキスの針を落とすような音と共に、画面が切り替わっていく。
はじめは何もない学校の廊下が映る。
「雰囲気あるじゃん!」
高杉のはしゃぐような声に満足した探偵研究部三人は、後ろ手に扉を閉め、先を急いだ。
ガチャン!
遠くに点のような黒い影が映る。
ガチャン!
なにかの動物なのか、うごめいている。
ガチャン!
それは、フイルムが進むと同時に、徐々にこちらに近づいていた。
――探偵研究部の三人には、すでに、どんな阿鼻叫喚も届かなかった。
いっつも厳しい教頭先生の、あの呆けた顔、見ましたか?」
嬉しそうに平屋は振り向く。
「でも、小川先輩、意外でした。
いつの間に東雲勝治さんの事を知ったんですか?」
未知が足早に付いてきながら、背の高い小川の顔をのぞく。
「いやあ、T部長に同情しているうちに思いついたんだよ。絶対このS君は、有名人か、さもなきゃとんでもないヤバい奴になってるだろうって。あとは壁新聞見てたら自然につながった」
手のひらと手のひらを合わせるように小川は二人に見せた。
「はは。小川先輩らしい」
平屋も誇らしそうに大きくうなずく。
「じゃあ、サクサク次に行きましょう。次は、五、機械仕掛けのドッペルゲンガー。ヒント:動き始めたそれを、止めることはできない。ですって」
「機械仕掛け…‥か。平屋なんか浮かぶか?」
「さあ……」
平屋は、廊下を歩きながら、ふと足を止めた。
「……パソコン部……」
その目の先には、パソコン部と書かれたプレートの上に、雑に「機械準備室」と書かれ、テープで貼られたコピー用紙がペラペラと風にめくれている。
***
先ほどの功績もあって、職員室から準備室の鍵を借りるのは容易だった。
「パソコン部って、もうありませんよね」
準備室ほどの小部屋は小さく、未知はカーテンを開けて外気を入れこみながら、平屋に尋ねた。
平屋は何でもないことのように言う。
「僕が入学する直前に廃部になったんだよ。
みんなスマホやタブレットは自分で持つ時代だからね。学校の機材が時代に追いつかなくなったって、説明会では聞いた」
その言葉に、にやにやしながら小川はちゃちゃを入れる。
「ほんとは第一希望にしてたんだろ?」
「昔のことですよ!」
平屋はムキになって声を上げつつ、机を押しのけ奥に進んでいく。
そこには、古びたブラウン管のデスクトップパソコンや、辞書のように分厚い外付けのフロッピーディスクドライブ。さらには、すでに動かないであろうCDデッキやMDデッキ、ビデオデッキなど、廃棄を待つばかりの旧時代の電子機器で今は埋め尽くされている。
「四十年前の機械でしょ。もしかしたら、もう動かないかもしれない」
一通り触ってから、大きなビニールがかぶさっている機材を見つけた。
一見すると、電気スタンドが透明なガラス板を貼り付けた箱に乗ってるみたいだった。
「『オーバーヘッドプロジェクター』だって。投影機の一つかな?」
スマホで検索しても、類似の機械しか出てこず、使い方など詳しい情報はない。仕方なく、写真を撮る。
するとその隣に、同じく平べったい、アンモナイトの化石が乗ったような機械がある。こちらの品名は『スライドプロジェクター』だった。こちらも写真に収めた。
未知が呟いた。
「OVER HEAD PROJECTER……O.H.P。
聞いたことありませんか?」
「あっ!!」
「司書の先生だ!」
二人は同時に声を上げた。
***
五分後。三人は司書の先生を機械準備室に連れてくることができた。
その間、図書室の留守番はそこにいた図書委員に拝み倒してお願いした。
「先生! お願いします!」
司書の先生は、面喰いながら、その機械を眺める。
「うわー懐かしい。昔は視聴覚教材はほとんどこれで写してたのよね。ほら、これが『OHP』。透明シートに書いたものをスクリーンに映し出すことができるのよ。
それからこっちの丸いのは、スライドプロジェクター。写真のフィルムのような感じで、そのままスクリーンに映し出せるの。円形だから、振り出しに戻ればいつまでも見ることができる」
「へー」
三人は感心したようにカクカクと首を振った。
「あら? 変ね。このプロジェクタ、フィルムが入ったまんまだわ?
廃棄前は、フィルムも抜くのに……」
「「!!」」
小川と平屋は同時に固まった。
すぐさま未知がにっこりと笑う。
「せ……先生。お忙しいところお時間ありがとうございました。あとは、私たちで片づけておきますので」
「そう? じゃあ、戸締りよろしくね」
と司書の先生は図書室へ戻って行った。
機械室で三人は困り果てていた。
「つまりこれが、あれだよな。ドッペルゲンガー」
「見たくないーー!絶対見たくないーー!」
ビビり散らす男子二人を冷静に見ながら、未知はスマホを取り出し呼び出した。
「適任者」を。
***
「すげーよ、お前たち。もう第五番目かよ!」
「わあ! 見せて見せて!」
ものの数分で、高杉と智子がすっ飛んできた。
カーテンを閉めた機械室の電気を落とすと、白い壁面にはプロジェクターからのライトが照らされる。
ガチャン!ガチャン!と巨大なホチキスの針を落とすような音と共に、画面が切り替わっていく。
はじめは何もない学校の廊下が映る。
「雰囲気あるじゃん!」
高杉のはしゃぐような声に満足した探偵研究部三人は、後ろ手に扉を閉め、先を急いだ。
ガチャン!
遠くに点のような黒い影が映る。
ガチャン!
なにかの動物なのか、うごめいている。
ガチャン!
それは、フイルムが進むと同時に、徐々にこちらに近づいていた。
――探偵研究部の三人には、すでに、どんな阿鼻叫喚も届かなかった。



