『三、真夜中に叫ぶ校内放送。
ヒント:そこでの叫びはすなわち沈黙』
小川と平屋が重い扉の放送室に入る。
電気を点けると、真っ先にマイクと、放送用の機材が見える。
最近では、全校集会も、放送部のお昼の放送も、パソコンを使って視聴覚室からのTV放送が主流になっていた。先生方が、帰宅を促す一斉放送をしたりするが、それも職員室のマイクからだったりして、放送室そのものは、ほぼ過去の遺物となりつつあった。
現に、三年生の小川ですら入るのは初めてだった。
「なんだっけ……。叫びが沈黙……」
平屋がマイクをとんとんと指先で弾く。電源が入っていないので、当然なんの音もならない。
その両脇には、時代遅れになったCDやコード、古びた機材が雑然と並び、デジタル時計が内蔵された、赤いボックス型の機械が一番目立つように置いてある。
「うわー! レトロ! 死んだじいちゃんが持ってた!」
小川は嬉しそうに声をあげた。
「あれ? 未知、なんで入らないんだ?」
入口で立っている未知を不審に思い、小川と平屋は声をかける。未知はちょっと意地悪そうに笑い、
「ここの噂、わかっちゃいました」
と扉を閉めると同時に、二人を残したまま電気を消した。
「ちょっと、待って……」
「うわ、やめろ!」
真っ暗の空間の中で、
「うわああああああ!」
「ここから、出せーーーーー!」
「未知! ふざけんな!」
「何にも見てない!俺は何にも見てないぞーー!」
二人は、声の限り叫んだ。
ガチャ、という重い扉が開き、未知が現れ電気を点ける。
「すごーい! 完璧な防音! 何にも聞こえませんでしたー」
と満面の笑みで、涙目の先輩二人を見ていた。
「と、まあ、ここでいくら叫んだところで、沈黙になるっていう意味だったんですね」
しれっと未知は部屋の中に入ってきた。
「じゃあ、真夜中に叫ぶ校内放送ってなんだよ? 真夜中に学校に来る人間なんていないだろ?」
「確かにそうですね。……でもほら、見てください。あのデジタル時計。午後十一時五十九分を示している」
「あの時計的には、あと一分で午前零時、つまり真夜中だ」
「なんか起きるってことかよ?」
怯えた小川が、うっかり後ろ手で操作盤に手をついた拍子に、「放送」スイッチを押してしまった。
同時だった。
ちょうど午前零時を過ぎたところで、デジタル時計と一体になっているボックス型の機械がガチャリと重い音を立てて起動音を鳴らす。スケルトンのプラスチック部から、内部がくるくる歯車のように回っているのが見えた。
そして、サ――っと砂のような音が鳴ったと思うと、その機械から、
「「「わああああああああーーーーーーーーーーー!!!」」」
と渾身の叫び声が響いて来たのである。
驚いた小川と平屋まで叫ぶ。
「「わあああああああーーーーーー!」」
数分後。
放送室の前で、「事故です」「わざとじゃないです」と、先生方に平謝りする探偵研究部の面々があった。
「なんだったんだよ。悪質すぎるじゃん!」
小川はテープが内蔵されているボックスを恨みがましそうに見る。
「放送用操作盤のスイッチ押しちゃったのは、こっちの過失ですよー」
「でも、セオリーとしてはこの部屋に第四番目の噂のヒントが隠されてるはずなんだ」
平屋の言葉に、未知は操作盤の反対側の棚に整然と並んでいるプラスチックケースを見ていた。
小川は嬉しそうに声をかける。
「あ、それ、カセットテープの背表紙だよ。さっきの『叫び』も、カセットデッキに入っていたのがタイマーで起動したんだろうな」
「カセット?」
「そ。磁気テープに録音するんだ。うちのじいちゃんもたくさん持ってた」
背表紙には、文字が書かれている。小川はそれをなぞると手を止めた。
「これ、背表紙の上の文字を拾う、アクロスティック、じゃないか?
これ見てみろ! 違和感ありありだ!」
小川の人差し指が滑る。
「まずは『メ』モリーグラス……。次が『ン』だぞ!不自然すぎる!『ンゴロンゴロ国立公園の自然音』だと!絶対この暗号のために、無理やり『ン』から始まる番組探して録音しただろが」
「次が『ノ』ルウェーの森。……本? いや、ビートルズって書いてる」
「『ネ』バーエンディング・ストーリー」
「『ジ』ュリアに傷心。うわあ、これでハートブレイクって読むのか!」
「『レ』ベッカのフレンズ」
「で、頭文字を繋げると、こうなる。――『メンノネジレ』。面のねじれ、だ!」
「面の……」
「ねじれ…‥」
不可思議な暗号に頭をひねる三人の耳に、正真正銘、職員室からの下校を促す放送が響いた。
ヒント:そこでの叫びはすなわち沈黙』
小川と平屋が重い扉の放送室に入る。
電気を点けると、真っ先にマイクと、放送用の機材が見える。
最近では、全校集会も、放送部のお昼の放送も、パソコンを使って視聴覚室からのTV放送が主流になっていた。先生方が、帰宅を促す一斉放送をしたりするが、それも職員室のマイクからだったりして、放送室そのものは、ほぼ過去の遺物となりつつあった。
現に、三年生の小川ですら入るのは初めてだった。
「なんだっけ……。叫びが沈黙……」
平屋がマイクをとんとんと指先で弾く。電源が入っていないので、当然なんの音もならない。
その両脇には、時代遅れになったCDやコード、古びた機材が雑然と並び、デジタル時計が内蔵された、赤いボックス型の機械が一番目立つように置いてある。
「うわー! レトロ! 死んだじいちゃんが持ってた!」
小川は嬉しそうに声をあげた。
「あれ? 未知、なんで入らないんだ?」
入口で立っている未知を不審に思い、小川と平屋は声をかける。未知はちょっと意地悪そうに笑い、
「ここの噂、わかっちゃいました」
と扉を閉めると同時に、二人を残したまま電気を消した。
「ちょっと、待って……」
「うわ、やめろ!」
真っ暗の空間の中で、
「うわああああああ!」
「ここから、出せーーーーー!」
「未知! ふざけんな!」
「何にも見てない!俺は何にも見てないぞーー!」
二人は、声の限り叫んだ。
ガチャ、という重い扉が開き、未知が現れ電気を点ける。
「すごーい! 完璧な防音! 何にも聞こえませんでしたー」
と満面の笑みで、涙目の先輩二人を見ていた。
「と、まあ、ここでいくら叫んだところで、沈黙になるっていう意味だったんですね」
しれっと未知は部屋の中に入ってきた。
「じゃあ、真夜中に叫ぶ校内放送ってなんだよ? 真夜中に学校に来る人間なんていないだろ?」
「確かにそうですね。……でもほら、見てください。あのデジタル時計。午後十一時五十九分を示している」
「あの時計的には、あと一分で午前零時、つまり真夜中だ」
「なんか起きるってことかよ?」
怯えた小川が、うっかり後ろ手で操作盤に手をついた拍子に、「放送」スイッチを押してしまった。
同時だった。
ちょうど午前零時を過ぎたところで、デジタル時計と一体になっているボックス型の機械がガチャリと重い音を立てて起動音を鳴らす。スケルトンのプラスチック部から、内部がくるくる歯車のように回っているのが見えた。
そして、サ――っと砂のような音が鳴ったと思うと、その機械から、
「「「わああああああああーーーーーーーーーーー!!!」」」
と渾身の叫び声が響いて来たのである。
驚いた小川と平屋まで叫ぶ。
「「わあああああああーーーーーー!」」
数分後。
放送室の前で、「事故です」「わざとじゃないです」と、先生方に平謝りする探偵研究部の面々があった。
「なんだったんだよ。悪質すぎるじゃん!」
小川はテープが内蔵されているボックスを恨みがましそうに見る。
「放送用操作盤のスイッチ押しちゃったのは、こっちの過失ですよー」
「でも、セオリーとしてはこの部屋に第四番目の噂のヒントが隠されてるはずなんだ」
平屋の言葉に、未知は操作盤の反対側の棚に整然と並んでいるプラスチックケースを見ていた。
小川は嬉しそうに声をかける。
「あ、それ、カセットテープの背表紙だよ。さっきの『叫び』も、カセットデッキに入っていたのがタイマーで起動したんだろうな」
「カセット?」
「そ。磁気テープに録音するんだ。うちのじいちゃんもたくさん持ってた」
背表紙には、文字が書かれている。小川はそれをなぞると手を止めた。
「これ、背表紙の上の文字を拾う、アクロスティック、じゃないか?
これ見てみろ! 違和感ありありだ!」
小川の人差し指が滑る。
「まずは『メ』モリーグラス……。次が『ン』だぞ!不自然すぎる!『ンゴロンゴロ国立公園の自然音』だと!絶対この暗号のために、無理やり『ン』から始まる番組探して録音しただろが」
「次が『ノ』ルウェーの森。……本? いや、ビートルズって書いてる」
「『ネ』バーエンディング・ストーリー」
「『ジ』ュリアに傷心。うわあ、これでハートブレイクって読むのか!」
「『レ』ベッカのフレンズ」
「で、頭文字を繋げると、こうなる。――『メンノネジレ』。面のねじれ、だ!」
「面の……」
「ねじれ…‥」
不可思議な暗号に頭をひねる三人の耳に、正真正銘、職員室からの下校を促す放送が響いた。



