一緒に虹を見上げようね

 僕の名前はタケル!
 いつも僕を助けてくれるヤマトを好きになり……告白するべく、今日は張り切って朝早く家を出た!

 事前に購入していた大きな花束を両手に抱え、ルンルンで歩いていたら。

 予報にはない大雨!
 ビシッと整えた髪型も崩れてしまう!
 でも心配無用! 前に突然土砂降りになった時「折り畳み傘を鞄の中に入れておけば?」とヤマトが教えてくれ、ずっと忍ばせてあった。
 僕はすぐに折り畳み傘を取り出し、片手で差して歩いていく。

(ヤマトのおかげだ、助かった〜!)

 気を取り直しルンルンでまた歩いていたら。
 突然の大雨で滑らせてしまったのか、お婆さんが道路の溝に自転車を嵌らせてしまっていた。

 駆け寄ろうとし(いや、今日はヤマトに告白するから格好良い状態でいたい)とびしょ濡れになっているお婆さんの横を通り過ぎ……数秒迷った後「大丈夫ですか⁉︎ この傘差してください! あ、自転車僕が引き上げますね!」と結局声をかけてしまっていた。

 傘をお婆さんに渡したことによって、僕のバッチリ決めた髪型は崩れていき、引っかかっているのか中々持ち上がらない自転車のために溝の中に片足を突っ込んで泥まみれになり。

 救出した頃には雨は嘘のように晴れ、太陽に照らされて眩しい。お婆さんから「どうもありがとう」とリンゴ1個を差し出され、僕1人だけびしょ濡れの状態で学校へ向かっていく。
 近づけば近づくだけ生徒たちが増えていくので、なぜ僕がびしょ濡れなのかと不思議そうにこちらを見ていた。

 途中で「あ、花束!」と気づき歩いた道を駆け足で戻ると、溝の中に花束は落ちいた。雨と泥に打ち付けられ萎れてしまい、到底渡せそうになかった。

()()、失敗しちゃったぁ……」

 いつも僕を助けてくれるヤマトが好きだ。でも、告白しようとするたびに。僕の目の前には障害物が立ち塞がり失敗に終わる。今日みたいに、ぼろぼろになって格好悪い。恥ずかしい。

 だからって、お婆さんを見過ごせるかって言ったら……それも出来ないのだけれど。
 もっとスマートに、誰かを助けることが出来たらなあ……。

 *

 昇降口(しょうこうぐち)まで向かえば、こんなに晴れているのに制服がびしょ濡れの僕を不思議そうに見つめる生徒たちの視線はさらに集まる。カァッと顔が熱くなり目線を下にしながら廊下を歩こうとすれば……目の前に大きな上履きが現れる。

「わ、」
「おはよう。今日は、朝から何があったの?」

 穏やかな低い声。ヤマトだ。恥ずかしさで赤かった僕の顔は、別の意味でまたポッと熱を持ち……「ごめん、()()()()にして」と呟く。

「いいよ。それよりも、こんなに晴れているのにずぶ濡れなのが気になるんだけど」

 ヤマトは鞄からタオルを取り出すと僕の頭に被せ、優しく拭き取っていく。()()()駄目だった……と気落ちしていれば「顔上げて?」と言われて目線を上に上げる。

 僕よりも背の高い、ストレートな茶髪。瞳は優しく弧を描き僕を見つめている。黒髪でちんちくりんな僕とは大違い。全ての女子生徒を夢中にさせている格好良いヤマト……だが、告白されても誰とも付き合っていない。

 そんなヤマトに告白しようなんて、無謀だ。いつも失敗してしまうし。

 また失敗した。
 また今度。

 それは、僕がヤマトに告白するタイミングのこと。

 どういうわけか、僕がヤマトのことを好きだと知っているようだった。そして敢えて断ることもせず、僕が告白する日を待っている。

 ……でも、失敗する。今日はずぶ濡れだけど、別の日は泥塗れだった。

 告白しようと意気込む日に限って、道中に何かが起こる。

 これはもう、因果関係だ。
 普段は至って何もないのに。

「今日は何があったの? 教室に行きながらでいいから、ゆっくり教えて」

 ヤマトは僕がずぶ濡れの状態なのには何か訳があったのだと知っているようで、僕の話を聞くことが好きだった。

「今日はね、ヤマトに告白しようと思ってね」
「うん」
「髪型バッチリ決めて、花束も抱えて」
「うん」
「そしたら急に土砂降りになっちゃって」
「うんうん。びっくりしたね。俺、様子見て10分後に家出たから大丈夫だった」
「……溝に自転車嵌まっちゃって動けないお婆さんがいたから……」

 もじもじして、原因を話し出せば。ヤマトは「そうだったんだ」と微笑んでくれる。ごめんね、ヤマト。いつも告白を待ってくれているのに、失敗しちゃって。

「無視してもよかったんだけど……」
「それは良くないよ。困っている人がいたら助けないと。だから、タケルの行動は正しかったんだよ」

 僕の失敗談を、ヤマトはいつも楽しそうに聴いてくれる。僕のドジしっぱなしの話なのに。

「……ヤマトはさ」
「なあに?」
「……女の子と、付き合おうとは思わないの。いつも、告白されてるよね。どうして、断るのかなって」
「だって俺、好きな子いるし」
「……え⁉︎」

 告白するのを待っているから、てっきり。両片想いだと思っていた。ヤマトには好きな子がいたのか……。じゃあ、僕がいつも頑張っているのは……?

「……俺が好きな子に、告白されたいだけ」
「あ……そっか」

 別に僕だけの話ではない。
 女子生徒だって、ヤマトに告白しに来ている。玉砕(ぎょくさい)覚悟で。強くて格好良いよね。
 当然僕だって、告白しても振られる可能性があることを……今の今まで忘れていた。
 告白したら、てっきり付き合えるものだと思っていた。

 だってヤマトはいつも「待ってる」と言っているから。

「そんなに好きなのに、ヤマトは告白しないの?」
「したよ。でも、振られた」
「え⁉︎」

 女子生徒を夢中にさせているヤマトが⁉︎ 振られた⁉︎

「そんなことある⁉︎」
「んー、まあ。タイミング間違えたというか……多分、相手には伝わらなかったという感じ」
「そ、そんなこと……ある⁉︎」
「タケル、2回言ってる」

 ヤマトは僕を見て楽しそうに笑う。その笑顔でみんなを虜にするんだから。
 そんなヤマトに好かれてる子はどれだけ鈍感なのだろう……! か、顔を見てみたい……!

「だからさ? 好きになってもらって、告白されるのを待ってるんだ」

 僕をじっと見つめて。
 額を指で小突いて。
 悪戯っ子のように笑う。

 え。やめてよ。
 単純な僕は勘違いしちゃうよ。
 
「そ、その相手って――」
「タケル。明日土曜日だね。俺、昼の11時に公園で待ってるから」

 待ってる。
 それは、言わずもがな僕の告白のこと。

 ヤマトはまた僕にチャンスをくれた。……今度こそ、成功させないと!

「わ、わかった……! 明日ね!」

 ヤマトは「うん」と綺麗に微笑む。その笑顔にドキドキして、唯一泥まみれになっていなかった一輪の花だけを差し出せば……「ありがと」とヤマトは受け取ってくれた。

 今にも萎れそうな花も、ヤマトに渡ると気持ち綺麗に咲いたように感じた。

 明日、またリベンジしないと……!