白い空間の中で、俺たちは立ち尽くしていた。
目の前の存在は、もはや“天使”でも“悪魔”でもない。
ただ一つ、分かっているのは――
俺たちの悲劇も、喜劇も、
あいつにとっては“娯楽”でしかないということ。
「……おい」
沈黙を破ったのは、チャラ男だった。
「思い出せ」
低い声。
「……あの事故のことを」
事故。
その言葉で、記憶が浮かび上がる。
――彼女がバスに飛び込もうとした。
――そのバスを、あいつの車が追い抜いた。
――そして目の前で事故が起きた。
バスに乗っていた俺は、即死。
チャラ男は、恐らく衝突で。
そして――
その“因果の分岐”を作ったのが。
俺。
「……行き過ぎだ」
チャラ男が遮った。
「それ、違和感ねえか?」
「何か引っかかんねえのかよ」
……違和感?
確かに。
何かが、妙に引っかかる。
「……私は」
ポツリと、彼女が呟く。
「バスに、飛び込んだ……」
――!!
そうだ。
彼女は“バス”に飛び込んだんだ。
「そうだろ!」
チャラ男がすかさず言葉を重ねる。
「自殺の方法はバスだった」
「でも実際に死んだのは――」
あいつは、一瞬だけ言葉に詰まる。
それでも吐き出した。
「……俺の車だ」
沈黙。
つまり。
彼女は“死の選択”はしたが、
“死因”は事故。
「なら……消滅しないんじゃないか?」
「いや、分からねえ」
でも。
ここにいる理由は成立する。
少なくとも“自殺者”としての扱いは怪しくなる。
「……でも」
女性の声は震えていた。
「結果的に……」
「あなたたちの命を……」
「奪ったのは、私……」
俯く。
「事故を……起こしたのは……」
その言葉は、消え入りそうだった。
「……ごめんなさい……」
……違う。
違うだろ。
俺たちは。
あんたを責めたいんじゃない。
あんたを――
「フフッ……」
その思考を、断ち切るように。
そいつの声が入り込んできた。
「随分と変化しましたね」
「いつの間に“他者”を認識できるようになったのですか」
言葉の意味が、ゆっくりと沈み込む。
「歪な形が、整い始めています」
肯定でも、否定でもない。
だが。
“見られている”感覚だけが、確かにあった。
そして――
結論のように。
「あなたたちは、次へ進みます」
その一言が、落ちた。
第四世界。
三人で。
……よく考えれば。
消滅させるだけなら、
ここに連れてくる必要なんて無い。
娯楽のため?
……本当に、それだけか?
考えようとして――
やめた。
もう、いい。
どうでもいい。
俺たちは、
これから“あの世界”へ送られる。
それだけだ。
たとえそれが。
救いでも。
罰でも。
気づけば、
足元の“何か”が、変わっていた。
第1章 白い部屋 完
第1章は今話で完結となります。
第2章はタイトルを少し変更して連載する予定です。
しばらくお休みして再開予定ですので、よろしくお願いいたします!
