My Strong


 つるちゃんに『友達になろう』と言われた日の夜は、きっと今日は考え事が止まらなくて一睡もできないだろうと思っていたが、考え事が止まらなくなった段階でまるで催眠術にかかったように睡魔に襲われ、すぐに夢の中に誘われた。

 「それで、前に教えた、『思考を微調整する』ことはできている??」

「んー、できているか分かんないけど、良い方向には行っていると思う!」

「なんで??」

「だって、あのつるちゃんに『友達にならない?』って言われたんだよ?!一軍にいてリーダー格、絶対的権力をもっている、あのつるちゃんに!」
 私が一気に発言してしまうと、フィラリンは少女の姿でアイスティーを飲み干し、こう囁いた。

「なるの、つるちゃんて子の友達に?」

「えっ!うん、だってつるちゃんが友達になってくれれば、絶対に強い味方になってくれるよ??私をバカにする人もいなくなると思う!」
 私が興奮気味にこう言うと、フィラリンは突然顔色を変えた。

「味方になってくれそうだから、友達になるの?」
 諭すようにフィラリンが言う。
 
「え・・」

「いや、ほら・・陽子ならきっと誰かと友達になる時は、『この子のこういうところが好き』とか『話していてソリが合う、楽しい』とかね、もっときちんとした理由で友達になる相手選んでそうだったから。朱音ちゃんとかそうなんじゃないの??」

「あ、朱音・・」

 なんで突然『朱音』が出てくるんだろう。
 ああ、そうか、つるちゃんと私が友達になるってことは、つるちゃんと朱音の仲が微妙だと大分困る。つるちゃんと朱音も仲良くなってもらわないと、学校で過ごしにくくなってしまう。どうにか、私がつるちゃんと友達になることは理解してほしい。
 しかし、朱音はつるちゃんのことを以前、少し怖いと苦手意識があることを教えてくれていた。良い反応はしない気がする。それでも心優しい朱音だ。きっと上手く付き合ってくれるだろう___。

「つるちゃんと友達になるって決めた時、一瞬でも、朱音ちゃんのこと考えた??陽子の気持ちじゃなくて朱音ちゃんの気持ち。」

「・・・」

 あ、私・・・こっちの都合ばかり。
 朱音の気持ち、朱音の気持ちは___

「今日はこれで失礼するわ。」
 私の表情を見た瞬間、フィラリンは冷めた表情になり立ち上がってあっという間に少女からシマエナガに姿を変えた。

 その光景を、私はなぜか黙って見送ることしかできなかった。

*
*
*

 翌朝、私はいつもの通学路を歩きながら、昨夜フィラリンに言われたことを反芻していた。

『つるちゃんと友達になるって決めた時、一瞬でも、朱音ちゃんのこと考えた??陽子の気持ちじゃなくて朱音ちゃんの気持ち。』

「朱音の気持ち、朱音の・・・」

 どう思うだろうか、私がつるちゃんと友達になるって伝えたら___
 驚くだろうか、寂しがるだろうか、引かれるだろうか、それとも、喜んでくれるだろうか。
 朱音は、今まで私が女性アイドルにハマっていることを含め、私の個性を肯定してくれていた。朱音には私の全てを打ち明けられると言っても過言ではないぐらい、安心して素の自分でいられるのだ。
 そんな朱音のことだから、今回の私の決断も優しく受け入れてくれるに決まっている。きっと大丈夫だろう。フィラリンはなんだか少し怒っているようだったのが気になるけれど・・・。
 
「・・こ!よーこー!よーこ!!」

「は!え、あ、朱音!おはよう!」
 考え事していたら、いつの間にか間後ろに朱音がいた。

「どうしたの?ぼーっとしちゃって。何かあった?」

「ううん!何も!昨日夜更かししちゃってさー、あんま寝てなくて。」

「そう?ねね、今日の放課後さ、久しぶりに・・」

「おっはよー!陽子!教室まで一緒に行こう!」
 何かを言いかけた朱音の言葉を遮るように、つるちゃんが私の隣にきて腕を組む。

「あ、おはよう、つるちゃん。あ、えと・・」
 振り返ると戸惑ったように朱音がこちらを見て立ちすくんでいる。

「どうしたの?陽子ー。」
 つるちゃんが私と朱音を交互に見る。

「あっ・・なんでもない。行こう。」

 その時、私と朱音の今までの歴史を刻んでいた時計が止まった音がした。なんで、朱音を見て『なんでもない』なんて言ってしまったのか分からなくて、なんで朱音の顔から目を逸らしてしまったのかも分からなくて、でも、私と朱音の友情に関する大きなことをしてしまった気はした。
 なのに、あの瞬間、私は組まれた左腕の方に暖かさと気分の良さを感じてしまった。

「あのお・・・これは一体どういう風の吹き回し??」
 ただでさえきつね顔のめめちゃんが目をつり上げてこちらを睨んで言う。
 
 教室に着いた私とつるちゃんは、仁王立ちしためめちゃんを初めとした一軍グループに囲まれていた。

 めめちゃんというのは以前から私のことをバカにしてくる子で、『普通引くでしょ。このアイドルグループ全然可愛くないじゃん。こんなのに憧れているとか笑っちゃう。』と言ってきたこともある子だ。
 そうか、つるちゃんと友達になると言うことはめめちゃんとも仲良くならないといけないんだ。上手くできるだろうか___。
 
「友達になったの。私と陽子。だから、陽子のこともうバカにしちゃダメね。よろしくー。」
 つるちゃんが私をみんなにお披露目する。

「あっ、よろしくです。」
 慌ててみんなに挨拶する。

「まあ・・・つるちゃんが言うなら・・別に文句ないよね?」
 めめちゃんが戸惑いながらも、一軍のみんなと目を合わせて問う。みんなが頷く。

 ホッとした一方で、さっきの朱音の戸惑ったような顔が頭から離れなくて、 チラッと朱音の席を見る。すると、ちょうど朱音が席についた時で、こちらと目が合う。

「ねえねえ、花宮さんっ!お昼うちらと一緒と食べよーよ!色々話したいし!」
 今度はめめちゃんが、私の腕に自分の腕を絡ませてくる。一軍グループはボディータッチが多い。なんだかドキドキする。

 自分が一軍に入れたかのような高揚感と、朱音に対する理由の分からない罪悪感を胸に、私は自分の席についた。