誰のための正解に、この声を殺すのだろう

夕暮れの進路指導室は、冬の澄んだ空とは違い、どこか寂しげで殺伐としていた。
これから決める人生の選択が、決して簡単ではないことを物語っているようだった。

西日が差し込む窓からは、茜色から青色へとじわじわと染まっていく空が見えた。

「高橋は成績も安定してるし、この大学とかどうだ? 音楽系のサークルもあるし、ちょうどいいんじゃないか?」
先生は、机に広がったパンフレットをトントンと指さす。

私はぼんやりと、そこに並ぶ文字に目を落とした。

『あなたの「好き」がここに』

『卒業までのカリキュラム』

『生徒一人ひとりの意見を大切に——。』

その綺麗事のすぐ傍らに、パンフレットに隠されるようにして置いてあった一枚の紙が、ふと視線に入った。

『第二回進路希望調査』

そこには、小さく震えた私の字で、「音楽関係の学校に行きたい」と短く書いてあった。

「音楽は趣味でも続けることができるし、高橋なら普通の大学にしておいたほうが安心だぞ」
駄々をこねる子どもをあやすように、先生は少し困ったような笑みを浮かべた。

先生は私を想って言ってくれている。悪意なんてどこにもない。

だからこそ、私は言いたいことを喉の奥に飲み込むしかなかった。
正論の刃だけが、私の心を容赦なく突き刺す。

「……そうですよね。すみません、ちょっと早とちりしちゃいました」
いつもの、手間も面倒もかけない「いい子な高橋かのん」の笑みを顔に貼り付け、頭を下げる。

いっそ、思いっきり否定してくれればいいのに、と思った。
「そんなの無理に決まっている」と突き放してくれたなら、まだ、反抗する力も湧いたかもしれないのに。

先生はホッとしたような顔をして、手元の資料に目を移した。
「わかってくれたならいいんだ。次の調査のときは、今日話した大学も候補に入れておけよ」

「はい、わかりました」
失礼します、と部屋を出ると、冬の冷たい空気が容赦なく肺を充満した。
自分だって、ちゃんとわかっている。
私が目指している場所は、才能を持ったほんの一握りの人しか輝けない世界だってことくらい。
誰も私の夢を怒らない。ただ、優しく丁寧に、外堀を埋めるように「現実を見ろ」と諭されている。

(いつの間にか、みんなにおいていかれている)

廊下ですれ違った友達は、模試の結果や大学のオープンキャンパスについて熱心に話していた。
自分の進む道の輪郭をはっきりとさせていくみんなの中で、私だけが、行き先を失くしたまま十七歳の冬に取り残されようとしていた。
もう一度、大きく息を吸い込む。

胸の奥がこんなに痛いのは、冬の寒さのせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、今の私にはわからなかった。