自称腹黒イケメンに、ぼっちの俺が囲い込まれるまで

 翌朝。俺は教室に着くと、俺の机に人が座ってるのが見えた。
 前の席にいる筑波に話しかけてるようで、俺が近づいてもどく気配は一切ない。というか多分、俺が来てることにすら気づいてない。
 浅雛はまだ学校に来てないみたいだった。
 どうする、俺。……いやどうするも何も、俺の席だからって話しかける一択だろ。
 何のために練習してきたんだ。
 想像してた友だちのきっかけになるようなシチュエーションとは全然違うけど、これを機に縁だってできるかもだし。
 俺は一歩ずつ踏みしめながら、盛り上がる陽キャ集団に近づいた。早鐘を打つ心臓を手で押さえ込んで、唾を飲む。
「だははっ! マジかよ輝琉~!」
 ――い、今だ!
「おっ、おおっ、」
「え、つか昨日の子どーなったん? お前連絡先交換した?」
「お、おはっ」
「はあ? してねーのマジ!? 超可愛かったのに!」
「おはよ……っ、」
「ちょっとやめてよ~。輝琉はアンタと違って見境なくないんだからぁ」
「そうそう。そういうのちゃっかりしてんのは紫貴でしょ」
 ――あ。駄目だ。声、全然届いてない。
 途端に身のすくむような恐怖に襲われた。
 足が震えて、ガンガンと頭を叩くような耳鳴りに支配される。――言え。早く言わないと。俺には浅雛が、浅雛がついてくれてるんだから。今の、情けない姿は、見せたくない……っ。
「――あれ? なんか早志の後ろいない?」
「あ? 俺?」
 突っ立っていたら、バッと、一斉に視線を向けられた。
 怪訝そうな、それでいて不思議そうな、なんでもない眼差し。
「俺になんか用?」
「っ、あ……」
 別に非難するような声色じゃない。俺に、ただ聞いてるだけ。
 だから俺は、おはようって。ここは俺の席だからどいてほしいって。そう一言二言、言うだけ、なのに。
「……水鳥川?」
 ぼそっと呟いた筑波と、目が合った。
 切れ長の、こっちを刺すような瞳に、俺の喉からひくっと音が鳴る。
「お前――」
 駄目だ。筑波はやっぱり、駄目だ。
 あの頃の、俺のトラウマをいとも容易く刺激する。
『つまんねえヤツ』そう言ったお前の顔を、俺は一度だって忘れたことがない。
「っ、おい……!」
 俺は逃げ出した。せり上がる嗚咽をなんとか堪えて。こぼれ落ちそうな涙をなんとかしばたたかせて。
 途中で誰かと肩がぶつかったような気もしたけど、気にする余裕なんてなかった。
 教室を出た俺は、そのままあてもなく、廊下を走った。