ほうきを掃除用具入れに片付けると、ごみ袋を2つ縛った。
女子は汚いから触りたくないと言って、男子はごみ捨て場まで行くのがめんどくさいと言って誰もやりたがらないから、なんとなく俺の担当、みたいになっている。まあ俺は全然嫌じゃないからいいんだけど。
率先してやってたら、誰も行かなくなったってだけの話だ。
「んでさあ、昨日――」
「あっ、早志後ろ!」
「え?」
ごみ袋を手に立つと、急に後ろからぶつかられた。
かろうじて倒れるほどじゃなかったけど、前に立ってた誰かの腕が、咄嗟に肩を支えてくれる。
「あ、あっ、ありが――」
顔を上げると予想外の人物。浅雛と並ぶ、イケメン二大巨頭の片割れ――筑波輝琉だ。
明るい茶髪の下、切れ長の瞳が俺を見下ろしていた。
ひゅっと息を呑む。昔の、『とあるやり取り』を思い出させるような目つきに、俺は背中が震え上がる。
――駄目だ。こいつだけは俺、駄目なんだ。
「おっ、輝琉ナイス!」
「……お前謝った?」
「んえっ? あ、たしかに。えーっと、お前名前……」
「水鳥川」
「ああそうそうそれ。わりーな水鳥川、当たっちゃって」
ぽんぽんと肩を叩かれる。
「てか輝琉詳しくね? もう全員の名前覚えたん?」
「ちょっと!バカな早志と輝琉を一緒にしないで」
「っえ、凜ちゃんナチュラルに俺のことディスってる?」
「だってそうでしょ。万年赤点の早志くん」
盛り上がる陽キャ集団から、俺は逃げるようにすり抜けた。じっとこっちを見つめる筑波には気づかず。
謝ってはくれたけど、誰も俺の返事なんて求めてないし。筑波がなんでか促したから言っただけだ。
俺は教室を出て、階段を下り、昇降口でスニーカーに履き替えた。喋りながらだるそうにほうきを動かす男子たちを横目に、ごみ捨て場まで歩く。
筑波の刺すような視線が頭から離れない。
なんで今年は同じクラスになっちゃったんだ。そもそも学校だって、電車使わないと来れない遠いとこ選んだのに、なんであいつはここに――。
「水鳥川みっけ」
「……え」
そんなことを考えていると、急に右手が軽くなった。いつの間にか隣にいた浅雛に、ごみ袋が取られている。
「ちょっとだけど手伝わせて」
「えっ……、いやいいよ! 浅雛の掃除当番教室じゃないだろ!」
俺はそう言ってごみ袋を取り返そうとしたんだけど、浅雛はひょいとそれを躱した。
「手伝いってのは建前。本当は水鳥川と話したいから。……それじゃダメ?」
覗き込んでくる浅雛に、うっと胸が詰まる。そんな子犬みたいな目で言われて、俺が断れるはずもない……。
「じゃ、じゃあ、捨てて、帰ってくるまで……なら」
「やった」
声を弾ませる浅雛は、ごみ袋をプラプラと揺らした。
俺と話せるだけで、そんなに喜んでくれるの? って、浮かれた考えに取りつかれる。教室じゃ、俺が目立たないように気遣って話しかけてはこないけど、こうやって人目の少ないところで近づいてきてくれるのが、たまらなくうれしい。
さっきの出来事なんてすぐ頭の中から飛んでいった。
「水鳥川、今日学校終わった後なんか用事ある?」
「……っ、あ、ううん、ない……けど」
俺が首を横に振れば、浅雛はニッと唇を持ち上げた。
「なら今日も一緒帰ろ。俺バイトないから」
「う、うん……!」
「あとメッセージもっと送ってい? なんか普通の日常会話とかさ。迷惑だったらやめるけど」
「え、全然全然! そういうのしたかったからむしろほしい!」
「……あ、そう?」
「うん!」
俺は全力で頷いた。
友だちと何気なく交わす、なんでもないやり取り。そういうのにも、強い憧れがあったから。
「……水鳥川って、マジ素直だね」
「す、素直?」
「ウン。すげえいい。癒される」
――い、癒され……?
初めて言われた。そんなこと。
「頭とか撫で回したいし」
「ええっ?」
「水鳥川のこと、ぎゅってしたい。……俺から逃げらんねえように」
平然と呟く浅雛に、俺はぱちくりと瞬きした。
「……あ、浅雛は俺のこと……、犬かなんかだと思ってる?」
「え、犬?」
あれ、違ったのか? てっきりこの間の、食べられるどうのこうの言ってた話から来てるのかと思ったんだけど……。
「うーん。犬のほうがまだよかったかもな」
浅雛はそう言うと、俺に「貸して」と手を伸ばした。
気づけばごみ捨て場まで来ていて、俺はごみ袋を取られる。浅雛といると、つまらない掃除の時間もあっという間だった。
女子は汚いから触りたくないと言って、男子はごみ捨て場まで行くのがめんどくさいと言って誰もやりたがらないから、なんとなく俺の担当、みたいになっている。まあ俺は全然嫌じゃないからいいんだけど。
率先してやってたら、誰も行かなくなったってだけの話だ。
「んでさあ、昨日――」
「あっ、早志後ろ!」
「え?」
ごみ袋を手に立つと、急に後ろからぶつかられた。
かろうじて倒れるほどじゃなかったけど、前に立ってた誰かの腕が、咄嗟に肩を支えてくれる。
「あ、あっ、ありが――」
顔を上げると予想外の人物。浅雛と並ぶ、イケメン二大巨頭の片割れ――筑波輝琉だ。
明るい茶髪の下、切れ長の瞳が俺を見下ろしていた。
ひゅっと息を呑む。昔の、『とあるやり取り』を思い出させるような目つきに、俺は背中が震え上がる。
――駄目だ。こいつだけは俺、駄目なんだ。
「おっ、輝琉ナイス!」
「……お前謝った?」
「んえっ? あ、たしかに。えーっと、お前名前……」
「水鳥川」
「ああそうそうそれ。わりーな水鳥川、当たっちゃって」
ぽんぽんと肩を叩かれる。
「てか輝琉詳しくね? もう全員の名前覚えたん?」
「ちょっと!バカな早志と輝琉を一緒にしないで」
「っえ、凜ちゃんナチュラルに俺のことディスってる?」
「だってそうでしょ。万年赤点の早志くん」
盛り上がる陽キャ集団から、俺は逃げるようにすり抜けた。じっとこっちを見つめる筑波には気づかず。
謝ってはくれたけど、誰も俺の返事なんて求めてないし。筑波がなんでか促したから言っただけだ。
俺は教室を出て、階段を下り、昇降口でスニーカーに履き替えた。喋りながらだるそうにほうきを動かす男子たちを横目に、ごみ捨て場まで歩く。
筑波の刺すような視線が頭から離れない。
なんで今年は同じクラスになっちゃったんだ。そもそも学校だって、電車使わないと来れない遠いとこ選んだのに、なんであいつはここに――。
「水鳥川みっけ」
「……え」
そんなことを考えていると、急に右手が軽くなった。いつの間にか隣にいた浅雛に、ごみ袋が取られている。
「ちょっとだけど手伝わせて」
「えっ……、いやいいよ! 浅雛の掃除当番教室じゃないだろ!」
俺はそう言ってごみ袋を取り返そうとしたんだけど、浅雛はひょいとそれを躱した。
「手伝いってのは建前。本当は水鳥川と話したいから。……それじゃダメ?」
覗き込んでくる浅雛に、うっと胸が詰まる。そんな子犬みたいな目で言われて、俺が断れるはずもない……。
「じゃ、じゃあ、捨てて、帰ってくるまで……なら」
「やった」
声を弾ませる浅雛は、ごみ袋をプラプラと揺らした。
俺と話せるだけで、そんなに喜んでくれるの? って、浮かれた考えに取りつかれる。教室じゃ、俺が目立たないように気遣って話しかけてはこないけど、こうやって人目の少ないところで近づいてきてくれるのが、たまらなくうれしい。
さっきの出来事なんてすぐ頭の中から飛んでいった。
「水鳥川、今日学校終わった後なんか用事ある?」
「……っ、あ、ううん、ない……けど」
俺が首を横に振れば、浅雛はニッと唇を持ち上げた。
「なら今日も一緒帰ろ。俺バイトないから」
「う、うん……!」
「あとメッセージもっと送ってい? なんか普通の日常会話とかさ。迷惑だったらやめるけど」
「え、全然全然! そういうのしたかったからむしろほしい!」
「……あ、そう?」
「うん!」
俺は全力で頷いた。
友だちと何気なく交わす、なんでもないやり取り。そういうのにも、強い憧れがあったから。
「……水鳥川って、マジ素直だね」
「す、素直?」
「ウン。すげえいい。癒される」
――い、癒され……?
初めて言われた。そんなこと。
「頭とか撫で回したいし」
「ええっ?」
「水鳥川のこと、ぎゅってしたい。……俺から逃げらんねえように」
平然と呟く浅雛に、俺はぱちくりと瞬きした。
「……あ、浅雛は俺のこと……、犬かなんかだと思ってる?」
「え、犬?」
あれ、違ったのか? てっきりこの間の、食べられるどうのこうの言ってた話から来てるのかと思ったんだけど……。
「うーん。犬のほうがまだよかったかもな」
浅雛はそう言うと、俺に「貸して」と手を伸ばした。
気づけばごみ捨て場まで来ていて、俺はごみ袋を取られる。浅雛といると、つまらない掃除の時間もあっという間だった。


