自称腹黒イケメンに、ぼっちの俺が囲い込まれるまで

「ありがとう水鳥川。おかげでいいプレゼントになったよ」
「っ、そ、それならよかった……」
 店を出ると、すっかり外は薄暗くなっていた。天井にある蛍光灯のおかげで商店街自体はまだ明るいけど、頬を撫でる風はけっこう肌寒い。
 この時間だと締めに入る店も多いのか、シャッターを下ろすガラガラ音も重なりあって聞こえた。
「水鳥川、これ」
 出口に向かって歩いていると、浅雛が袋を差し出してくる。
「なっ、なに?」
「今日のお礼。開けてみて」
「えっ――」
 お礼だって!? 
 慌てて開けてみれば、そこには見慣れたあの姿。俺が店の中で握りしめていたガルディオンのぬいぐるみだった。
「こ、これ……!」
「うん。水鳥川にプレゼント」
 浅雛がいたずらっぽく笑っている。まるで、サプライズが成功したと言わんばかりに。
「そ……そんな、俺大したことしてないのに……っ」
「俺があげたいと思ったから。水鳥川の喜ぶ顔が見たくて」
「……っえ」
 俺の……喜ぶところが見たくて?
「だから遠慮せず受け取ってよ」
 信じられない言葉に、ここは一瞬夢なのかと錯覚した。
 俺を誘ってくれた挙げ句、プレゼントまでくれるなんて。 
 嬉しすぎて、上手く言葉が出てこない。早くお礼を言いたいのに、ドクドク鳴る鼓動が俺の唇を震わせる。
 どうして……、どうしてこんなに浅雛は優しいんだ。今日1日だけで俺は、あふれるくらいの幸せをもらってしまった。
「水鳥川と放課後過ごすの、すげー楽しかったし。特に好きなもん話してる時とか、水鳥川の目がキラッキラしてて、ほんと、ずっと見てたいくらい——」
「ぅ、お、俺もっ、」
 浅雛の話がまだ途中だったけど、詰まってた言葉が突然、堰を切ったようにあふれ出してきた。
「浅雛が優しいから、全然緊張しなかったし、普通に、こんな風に喋れたのは久しぶりで……っ」
 じわっと滲みそうになる視界を手のひらで擦る。最後まで、ここまで来たらちゃんと最後まで言うんだ、俺。
「だから、あり……がと! ぬいぐるみも、うれしい!」
 今できる精一杯の笑顔を浅雛へ。歪かもしれないけど、この胸が弾むような気持ちをなんとか伝えたかった。
 浅雛がふいっと顔を逸らす。「やば」と呟くのが聞こえた。手で顔の下半分を覆って、地面を睨んでるようなのは何故なのか。
 も、もしかして、俺の笑顔が下手くそすぎて、気分を害しちゃったんじゃ——。
「ごめん水鳥川。俺、完全に下心ありまくりだから」
「……えっ?」
「良い人に見られたかったのは本当だけど、それも水鳥川限定だし」
 そう言って、浅雛が何か言いたげな視線をぶつけてくる。
「普通に腹黒いよ、俺」
「は、はら……ぐろ?」
「ウン。だから俺の前で油断しすぎんの禁止。気許してくれんのは嬉しいけど、今はまだな。……水鳥川のこと、腹空かした狼がペロッと食べちゃうかもしんねえから」
「……え、?」
 俺はぽかんと口を開けた。それはつまり……どういうことだ? 食べられるって、……俺が?
 ハテナをしきりに浮かべていると、浅雛が薄く笑い、「帰ろう」と促してくる。どうやらこれ以上説明してくれる気はなさそうだった。
 俺も遅れて足を動かし始める……けど、やっぱり、気になる。
「あの……、お、狼、って?」
 浅雛が振り返る。その頭上には、丸くて大きな月。
 浅雛の黒髪を照らして、こっちを見つめる眼光が、俺を捕らえようとする狼のそれのようだと思ったのはなんでだろう。
「その内分かるよ」
 涙ぼくろを携えた目元が弓なりに細まる。
 俺はしばらく、魅入られたように目が離せなかった。
 自称腹黒の浅雛は、もしかするととんでもない牙を隠し持ってるのかもしれない。そんな風に思いつつも、仲良くなりたい――って気持ちが、激しく収縮を繰り返す心臓と一緒にこぼれて止まらない。
 高校二年生、4月。初めて放課後を一緒に過ごした相手は、優しいのか優しくないのかよく分からない、クラスの人気者だった。