エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

――――ほっと胸を撫で下ろす。

セレスティーナ達と別れて最初に宿を取った店に、気不味い雰囲気のまま二人は戻った。

その夜の会話は当然弾むわけがなく、ぎこちないまま時間は過ぎてそれぞれ部屋に別れる。

明日になれば窮屈になった関係も、少しはマシになるだろう。そんな風に考えて紗希は目を閉じた。

昨晩、ストラスは無事?に神殿制圧に成功し神官やマリアンヌ達を捕らえたらしい。事前に報告を受け、翌日はセレスティーナの実家であるヴァレリア侯爵邸にて、一同が集うこととなった。

移動中の馬車では、紗希はセレスティーナとステラの二人と対面して座ることとなり、バルトは自ら護衛を申し出て馬車のそばを馬で走った。

バルトが今何を考えているかは紗希には分からない。

結局のところ、最低限の会話はあれど、気不味い雰囲気があれからどうなったか確かめられるほど二人で話す時間はあまりなかったのだ。

「も、申し訳ございませんでしたぁっ……!!」

ヴァレリア家の一室にて、神殿の神官長がバルトの前に跪いていた。

エギルが神官長とマリアンヌを連れて現れたのは、ヴァレリア邸についてすぐのことだ。

ヴァレリア侯爵との挨拶を終え、セレスティーナが改めて事情を説明すると、速やかに憔悴した姿の神官長らが引きずり出され、一家の鋭い視線を浴びていた。

「なぜ交渉にセレスティーナ嬢を持ち出した」

バルトが問えば、拘束された状態の神官長の頬が引き攣った。

「答えなさい」

拘束具を嵌められた身体を見下ろすエギルが足先で小突き呻き声があがったが、しかし神官長は声を震わせ首を振る。

「それは……っ、とても私の口からは……精霊王に伺いを立てねば、とても……ひっ……」

エギルに睨まれ小さな悲鳴を上げるのに、しかし躊躇して頑なに口を開こうとはしなかった。

その姿を無表情のまま見遣ったエギルはバルトの前に片膝をついた。

「申し訳ございません、魔王様。私の調教が足りなかったようです。ここは日を改め調教し直します」

すかさず申し出る言葉に神官長はさらに大きく首を振った。

「ご勘弁をっ……お慈悲をくださいエギル様……!!」

「ならば速やかに答えなさい、神官長」

「し、しかし……精霊王に背くことに……」

白状したくないが、調教もされたくない。そんな神官長の主張が始まりバルトは苛立ちを露わにしていた。

しかし痺れを切らしたバルトが口を開きかけた時、傍で蹲っていたマリアンヌが頭を上げ申し出た。

「お父様、エギル様のご命令ですよ。言えぬのなら、私から申し上げます」

「マリアンヌっ……!!」

神官長が声を荒げたが、エギルの影が伸びて口元が塞がれる。

マリアンヌと呼ばれた女性は確かに紗希の髪色と近い色をしていた。

ただし彼女の方が紫がかった色味が強く出ている。瞳はアッシュグレーの薄い色素で、乱れた髪は肩につく長さをしていた。

ステラが紗希とマリアンヌを勘違いした理由には納得するものがあった。

細かい部分を見なければ、確かに似たものを持っている。

彼女は後ろ手に拘束されている身体を無理矢理起こし、座り込んだまま告げた。

「風の精霊の加護を受けているマリアンヌと申します。この度はセレスティーナ様ならびに、ヴァレリア家の皆さまに対し、甚大なるご迷惑をおかけしましたことを神殿を代表しお詫びいたします。それからこの度はエギル様という至高の存在とめぐり合わせていただきましたことを心より……――」

「マリアンヌ、魔王様の質問に答えなさい」

流暢な口上と共に出てきた怪しげな言葉をすかさずエギルが遮り、彼女にしては珍しく唸るように牙を剥いた。

しかしマリアンヌはエギルの口許から覗く牙をうっそりと見つめては、恋する乙女の如く語尾にハートマークでもつく勢いで「はい、エギル様」と頬を赤らめる。

セレスティーナに向いていた興味が他に移ったのは明らかだったが、一体、何をされたらこうなるのだろう。

直後に彼女の口から意外な単語が出た。

「……結論から申し上げますと、私達はセレスティーナ様を聖女と誤解して、あのような愚行に至ったのです」