エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

ーーーー目の前の彼、バルトレッドとはどんな男か。彼を一言で表するなら、タイトルにも飾られた通り”悪辣“だ。

作中では勇者なのに冷徹無慈悲の悪辣男と評され人々から恐れられている。

しかし目の前の彼はどうだろう。

悪辣というより、変質者と呼ぶ方がまだしっくりくる程度に様子がおかしい。

そもそも『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』とは、主人公の侯爵令嬢セレスティーナが、転生者のミレーヌと婚約者だった王太子の二度目の浮気が発覚してパーティーで婚約破棄されるところから始まるロマンスファンタジーだ。

プロローグでは二人の裏切りに憤ったセレスティーナを“ある理由”からバルトレッドが気に入って契約婚を申し出る。

その際にバルトレッドはアデル王国と決別し、水牢獄と呼ばれる激流で作られた結界に王太子とミレーヌを閉じ込め『その中で頭を冷やすといい』などと、不敬罪も報復も恐れぬ発言を残しセレスティーナを連れ去ってゆく。

そしてこのプロローグ以降、セレスティーナ達の幼少期に遡るのだが……冒頭シーンに戻ってくるまでの過去編が濃密すぎて、やっとプロローグの時系列に追いついたと思ったところで小説はエタってしまっている。

それでもバルトレッドの悪辣ぶりは、彼の人格形成に箔をつけるほど過去編でしっかり描かれていた。

故に紗希はバルトレッドに違和感を覚えるのだ。

タイトルに”溺愛“という言葉が入っているぐらいなので、きっと素質は持っているのだろうが、少なくとも初対面の相手に跪き愛を捧ぐような人間ではない。

「花雫の乙女は聞き覚えありますけど、やっぱり何かの間違いじゃ……というか夢?」

だと思いたい。

異世界に行くなんて、ファンタジーだからアリなのだ。なんてことを考えているとバルトレッドは更にとんでもない発言をした。

「夢ときたか。面白いな……俺が聖女様をこの世界に召喚したのに夢なわけないですよ」

抱き上げられたまま甘く囁くように言われ、ん?と何度か瞬き考える。

「……あなたが、私を、召喚?」

「はい。まぁ、正確には指示して召喚させたわけですが」

誰がはともかく、ますます理由が謎になる。

「作者ですらない私を?どうして?」

するとバルトレッドは口角を緩やかに持ち上げ瞳を溶かして告げた。

「――だって、ずっと俺を気にかけてくれていたでしょう?」

なんなら瞳にハートマークでも浮かんでいるのではないかと思うほど熱烈な視線だった。

「更新確認のことかな……」

「もう俺達を隔てるものは何もありません。やっと触れられますね」

言えばバルトレッドの端正な顔が迫り、唇が落ちてくる。今度は髪などではなく紗希の唇を狙っていた。