エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

話がまとまったところでセレスティーナはすぐに騎士のケイオスを連れてステラの元へ向かった。
兄に呼び止められたが構っている場合ではない。
ヴァレリア家に居る使用人達のことは父が対処するだろうが、ステラはセレスティーナが拾ってきた相手だ。

今は関門都市ステルダムに店を持ち、時々支援者であるヴァレリア家を訪れている間柄。とはいえ関係は濃密で、使用人たちの目からみても彼女は実質家族のようなものだった。

だったらステラまで関係者として目を付けられるかもしれない。
この家が神殿によって支配される前に、神殿からヴァレリア家の関係者として認知される前に逃がさなければ。

「――ステラ、あなたは悪いけど、今すぐヴァレリア領を出なさい。ここにも二度と戻ってきては駄目よ。ステルダムの店が神殿に差押えられるでしょうから、いっそ王都で新しく開業してもいいわね。当面の資金を用意するわ」

最後まで面倒を見るのが飼い主の勤めであり、手放す時こそセレスティーナ自身で見送りたい。
手短に用件を伝えると、ステラはいやに冷静な面持ちで訊ねてきた。

「……何言ってるの?あなたにしては説明がなってないわ」

外面は完璧になったがセレスティーナに対しては相変わらず素で接してくる彼女のことなので、もしかすると多少は喚かれると思ったが以外にも整然とした問いだった。

「そうね、言葉が足りなかったわ……。諸事情で領地も含めヴァレリア家は神殿管轄になることが決まったの。あなたまで関係者と思われる前に逃げて欲しいのよ」

教えられる範囲で白状するとステラはさらに訪ねてきた。

「で、セレスはあのオルガとかいう奴と結婚するの?」

どうやら聞き耳を立てていたらしい。

「聞いていたのなら余計な話をさせないでちょうだい」

「いいの?結婚なんか。あいつらヴァレリア家を好きなように弄ぶわよ。私、知ってるもの」

「……ステラ?」

「二人で逃げましょうよ」

呟くようにステラは言った。

日々花開き、薔薇のように美しい彼女を最近何度も口説いていたからだろうか。
いつもは軽くあしらわれるのに、なぜかステラは共に逃げようなどと言った。

恩や情を感じさせる育成型の恋愛術が不用意なところで発揮してしまっているのかもしれない。

「駄目よ」

セレスティーナは僅かに口角を持ち上げ首を振った。
するとステラは眉尻を下げ視線を降ろしたあと、もう一度言う。

「逃げるべきよ」

その声は真剣で、身を案じてくれていることが伝わってくる。
それだけでもう嬉しかった。

「私はここから逃げないわ。あなたは私の代わりに自由を謳歌しなさい」

すると幾許かのちに視線を上げたステラがセレスティーナをきつく睨んだ。
その瞳は何もかもが憎いといった憎悪に満ちたものだった。

そして唐突にこう言ったのだ。

「……私の母が貴族の愛人崩れっていう話は嘘。ほんとは祝福者となった男爵家の三女と神官の間にできた子が私よ。意味分かる?祝福者に人権なんてない。実験されて、狂った信者になって、そうしてるうちに女は子供を産まされるのよ」

眦を吊り上げ告白された言葉にセレスティーナは暫し絶句した。

彼女の髪色からして貴族の血が混じっていることは明らかだったが、その背景は愛人の子供とだけ触れられており、それを信じたセレスティーナはステラの出自を正しく認識出来ていなかったのだ。

お互いに秘密を抱えていたのだと分かった瞬間だった。