エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

セレスティーナは心の片隅で、この”状態回帰”と云われる現象がミレーヌの言う通り天罰なのだろうかと七年間ずっと疑ってきた。

あの時、自分が躊躇せず直ぐにでもミレーヌの望みを叶え婚約解消していれば、最愛の兄が狂うこともなかったのだろうかと。

泡沫が浮上するように記憶が蘇り、唐突に胸を掻き乱される

しかしバルトレッドは極めて明朗快活に口を開きこう言った。

「しかしあなたはそちらの不躾なレディと仲睦まじいようで安心しました」

セレスティーナはバルトレッドを静かに見つめ、やがて頬を緩めた。

そうだ。この七年は失うものもあったが、一生手にすることはないと諦めていた本物の愛と巡り逢えた七年でもあった。
彼もまた、そういうものがあったのだろうか。

「俺はそもそも筋書きというのが気に入らない。あなたが彼女と居るなら俺は何の憂いもなく聖女様を愛せますから、お二人を邪魔するつもりは毛頭ありません。ここも速やかに立ち去りましょう」

強い意志の籠った言葉に自然と口端は持ち上がってゆく。
やはり、あなたも同じだったのかと。

「ま、待ってください。セレスティーナ様の話を何も聞いていないのに?」

バルトレッドが呆気なく状況を暴露し、そしてセレスティーナに干渉しない事を宣言したことで一番強い反応を示したのは意外にも紗希だった。

どうやら勇者と紗希の間では齟齬があるらしい。
氷の勇者は随分と彼女に熱を上げているようだが、まるで響いてないのかもしれない。

ステラへの想いを自覚しアプローチを始めた頃を思い出し、セレスティーナは扇子を閉じると目を細めた。

「なるほど……面白い方。彼女は私の事情を気にしているけれど、勇者様は聖女様の予言を否定する理由を探しにいらっしゃったのね」

それから、これまでの誤解を正すべく尋ねた。思い込みを捨てるためである。

「あなたは雌猫の信者ではなかったのですね?てっきり王太子殿下が作った討伐隊は皆、あの女に籠絡されているとばかり思っていましたわ。特にあなたは彼女と付き合いが長いようですし」

「御戯を。彼らはともかく、俺はあの女を憎んでいる」

すかさず語気を強めて返すバルトレッドの様子に、セレスティーナは完全に警戒を解くとティーカップへ指をかけた。
少しは唇を濡らさないと、これから彼らに語る内容は少し長くなる。

「よかった。まともな殿方もいるようで。あなたとは気が合いそうだわ。でしたら折角来たのですからそう焦らないで……紗希さんの希望もあるようですし語って差し上げるわ。私とステラの馴れ初めを」

紗希は『そうじゃない』と言わんばかりの呆れを孕んだ表示をしていたが、諦めてもらうほかない。
なにせ、セレスティーナが現在に至る七年を共有するにはステラの存在は切っても切り離せないもの。

さて、どこから話すそうかとひとり心を弾ませる。
きっと聞いてくれるのは、後にも先にもこの二人しか居ないだろう。

誰にも話せなかった見過ごしてきた孤独に向き合えた話を。

「私も勇者様と同じです。とはいえ私の場合はこのヴァレリア領から出られないのですが」