エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

バルトの吹雪の如く冷えた眼がステラを捉え、彼は剣呑な面持ちで指をさす。

ーーブスブス蒸し返すのはやめて頂きたい。

「それも含めて大丈夫だと言っているんです」

ようやく収まりかけた場を乱すつもりなのだろうか、紗希のことになると過剰反応するバルトは眉を顰めた。

「駄目です。聖女様、俺が我慢なりません」

きっぱりと告げる顔はいつになく真剣だ。

「仮に人違いで理性を失い、口をついて出たと言うなら改めて見解を聞かねば。俺の聖女様はこんなにも美しいのに、あり得ないでしょう!こんなことなら城から出すんじゃなかった」

「やめてください。本当に」

あんなもの敵からマウントを取るための勢い任せの言葉に過ぎない。驚きこそすれ、しかしいちいち反応する必要はない。

だというのに言及を避けたかった話題にバルトは異様にこだわっている。

そしてバルトの言葉に素早く反応を示したのはセレスティーナの方だった。

「ーーどういうことかしらステラ。女性にブスなんて言っては駄目だと再三言ったわよ……」

じとりと重い視線がステラへと送られる。

それに対してバツが悪いと言わんばかりに顔を背けて顎を引くステラに大きな溜息が零された。

「まったく。あなたの悪い癖だわ。また七年前と同じことを繰り返すつもり?折角一流デザイナーになったのだから接客も一流を目指しなさい。日々、あなたが選ぶ些細な言葉がステラという人間を形作るのよ」

すっと息を吸い込むと流れるようにセレスティーナは言った。

すると若葉色の瞳をステラは揺らし双眸を伏せる。

「分かってるわよ。でもマリアンヌ様のことは別……」

不貞腐れたような、もどかしげな顔でステラは消えそうに呟く。

それほどまでにマリアンヌというシスターは彼女にとって脅威なのだろうか。

精霊王を奉る神殿の存在は作中によく出てきており、確かにその権威は高い。しかしセレスティーナ自身とは何ら関係がなかったはずだ。

けれどステラは神殿のシスターらしいマリアンヌを強く警戒しているようだった。

不安そうな姿は誰の目にも明らかで、セレスティーナはそんなステラの手を取ると甲へ唇を寄せる。

「……私の一番星は美への情熱を燃やし輝く力強い星よ。動揺せず、星はどんな時も静かに美しく燃えるもの……後できちんと謝罪なさいね」

そして紗希とバルトを振り返ると、愛想の良い美しい笑みを向け片手を店へと広げる。

人だかりはすでに解散しており、もう誰も紗希達を気にする人間はいなかった。ただの店先での会話。周りからはそういう風に見えているだろう。

それを見越してかセレスティーナは柔らかに問う。

「よろしければ中でお話ししませんか?お詫びの印に何かお贈りさせていただきたいですし。なぜあなたがここに居るのか大変興味深いので……バルトレッド様」

やはり気付いていたのだ。

一方のバルトは自身の名を呼ばれたことに動じることなく、唇を引き結びただ静かにセレスティーナを見つめた。

そうして奇しくも紗希達は彼女達に迎え入れられ、奥の一室で対面する事となった。

店先にはクローズドの札が下げられ、質感の良いディテールの細やかな商談用の席へと通される。

目の前には香り高い紅茶と、カヌレに似た形の茶菓子が並べられている。鼻腔をくすぐる爽やかな香りに反して、紗希は意外にも理由の分からない緊張を感じていた。

「俺のような瑣末な人間の名を覚えていただいていたとは意外でした……」

口火を切ったのはバルトだった。

「私は魔王討伐部隊の出立パーティーの際にあなたを間近で見ています。あの頃はまだ王太子の婚約者でしたので」

あの頃は、というと今は違うのだろうか。セレスティーナは懐かしむように言う。

「私の知る限り、帰還した部隊の報告では魔王城で勇者様は死んだことになっていました……まさかこちらも他人の空似でしょうか……?」