バルトは相変わらずエリクの話に興味深く耳を傾けては、気付くと商品が記載されているカタログを覗き込んでいる。
ふと、肌寒さが気になって外を見る。木々は秋の色に染まっている。
魔王領では気にすることのなかった季節が人族の領内にはあるようだ。
「――では御二方、素晴らしいハネムーンになると良いですね。バルト様は商品をお買い上げありがとうございました。精霊王の御加護がありますよう願っております」
二日ほど馬車に揺られ辿り着いたヴァレリア領で、関所を通り過ぎたあとエリク達とは別れることとなった。
関門都市からは更に道が分かれ、鉱山や資源の開拓を中心に栄える街とヴァレリア侯爵邸が立地する王都方面へと向かう平地の街がある。エリク達は宝石の買い付けにこのまま鉱山へと向かうらしい。
「乗せていただきありがとうございました。エリクさん達もお気をつけて」
「良い買い物をさせて頂きました。また縁があればお願いします」
エリク達の一行と別れ、バルトは紗希をちらりと盗み見る。その視線はどことなく腰に向けられており、意味ありげな色に瞬きを返すとバルトは幾許かのち口を開いた。
「……大丈夫でしたか?」
「え?」
「荷馬車で何度も座り直していたようなので。俺の膝に乗せて差し上げたかった」
乗り慣れない馬車移動で紗希が密かに体勢を変えていたことにバルトは気付いていたらしい。
そこで『膝に乗せる』などと言うのが安定だが、気遣いの言葉には自然と眉尻も下がり頬が緩んだ。
「膝は遠慮します。でも、ありがとうございます。バルトさんって細かいとこ案外よく見てますよね」
魔王城でもバルトは配下の魔族達から相談を受ければ、誰が何を言っていたなどと考慮し指示を出す姿が度々見受けられた。
それを思い出し告げるとバルトは息を詰めて喉を嚥下させる。
それから荒い吐息を堪えるように浅く溢すと瞳をギラつかせ紗希の手を取った。
「駄目だ。愛しすぎる……もうこのまま教会で式を挙げましょう」
「ヒロイン探しに来てるんですよ」
包み込むように取られた手をやんわりと解こうと引けば直ぐに解放されたので、残念過ぎるヤンデレ男に成り果てた姿を眇めた視線で見遣る。
隙があるとこうだ。召喚されてから連日口説くことを諦めないバルトの変わらぬ態度に先が思いやられる。
「分かってますよ。先にすべきことがありましたね」
――後も先も無いのだけど、もう触れないでおこう。
バルトは革のポーチから先ほどエリクから買った銀の細い鎖に吊るされた紫水晶を取り出すと、慣れた手つきで紗希の首元へかけた。
「これは聖女様を悪意から遠ざけるお守りです。街は色々な人間がいますから……俺は魔物なら仕留められますが、人は法があるため容易く手にかけれませんので」
霊より人の方がずっと怖い的なニュアンスで言われ、紗希はバルトを見上げた。
心配性だと一蹴してしまいそうになったがバルトの瞳は真剣に紗希を捉えており、無意識にその言葉を脳裏で反芻する。
そうだった。この人は物理的な脅威よりも悪意に晒されてきた人だ。どれだけ憎かろうが法があるから殺められない、一線を越えず倫理に甘んじることを選べる理性を持つ人間だ。
水晶に繋がる鎖を指で撫で、絡め取って握り締める。
「大事にしますね」
ふと、肌寒さが気になって外を見る。木々は秋の色に染まっている。
魔王領では気にすることのなかった季節が人族の領内にはあるようだ。
「――では御二方、素晴らしいハネムーンになると良いですね。バルト様は商品をお買い上げありがとうございました。精霊王の御加護がありますよう願っております」
二日ほど馬車に揺られ辿り着いたヴァレリア領で、関所を通り過ぎたあとエリク達とは別れることとなった。
関門都市からは更に道が分かれ、鉱山や資源の開拓を中心に栄える街とヴァレリア侯爵邸が立地する王都方面へと向かう平地の街がある。エリク達は宝石の買い付けにこのまま鉱山へと向かうらしい。
「乗せていただきありがとうございました。エリクさん達もお気をつけて」
「良い買い物をさせて頂きました。また縁があればお願いします」
エリク達の一行と別れ、バルトは紗希をちらりと盗み見る。その視線はどことなく腰に向けられており、意味ありげな色に瞬きを返すとバルトは幾許かのち口を開いた。
「……大丈夫でしたか?」
「え?」
「荷馬車で何度も座り直していたようなので。俺の膝に乗せて差し上げたかった」
乗り慣れない馬車移動で紗希が密かに体勢を変えていたことにバルトは気付いていたらしい。
そこで『膝に乗せる』などと言うのが安定だが、気遣いの言葉には自然と眉尻も下がり頬が緩んだ。
「膝は遠慮します。でも、ありがとうございます。バルトさんって細かいとこ案外よく見てますよね」
魔王城でもバルトは配下の魔族達から相談を受ければ、誰が何を言っていたなどと考慮し指示を出す姿が度々見受けられた。
それを思い出し告げるとバルトは息を詰めて喉を嚥下させる。
それから荒い吐息を堪えるように浅く溢すと瞳をギラつかせ紗希の手を取った。
「駄目だ。愛しすぎる……もうこのまま教会で式を挙げましょう」
「ヒロイン探しに来てるんですよ」
包み込むように取られた手をやんわりと解こうと引けば直ぐに解放されたので、残念過ぎるヤンデレ男に成り果てた姿を眇めた視線で見遣る。
隙があるとこうだ。召喚されてから連日口説くことを諦めないバルトの変わらぬ態度に先が思いやられる。
「分かってますよ。先にすべきことがありましたね」
――後も先も無いのだけど、もう触れないでおこう。
バルトは革のポーチから先ほどエリクから買った銀の細い鎖に吊るされた紫水晶を取り出すと、慣れた手つきで紗希の首元へかけた。
「これは聖女様を悪意から遠ざけるお守りです。街は色々な人間がいますから……俺は魔物なら仕留められますが、人は法があるため容易く手にかけれませんので」
霊より人の方がずっと怖い的なニュアンスで言われ、紗希はバルトを見上げた。
心配性だと一蹴してしまいそうになったがバルトの瞳は真剣に紗希を捉えており、無意識にその言葉を脳裏で反芻する。
そうだった。この人は物理的な脅威よりも悪意に晒されてきた人だ。どれだけ憎かろうが法があるから殺められない、一線を越えず倫理に甘んじることを選べる理性を持つ人間だ。
水晶に繋がる鎖を指で撫で、絡め取って握り締める。
「大事にしますね」



