エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

「俺は聖女様だけを愛してますから」

今度はバルトが視線を合わせず言うので、紗希は辟易とした面持ちを隠す事なく溜息とともに机へ視線を落とした。

執務室の机には日々、物が増えている。

今は城の内部設計書と複製魔法で縮小コピーされた魔王城の模型を見比べながら窓をどこに作るか決めているらしい。

羽ペンを滑らせながらバルトは複雑な内部構造との兼ね合いに頭を悩ませていた。

その姿はどこか艶やかで、神秘的な美しさが漂う。

こんな銀髪美麗の色男から日々『あなたが居ればいい』などとあり余る想いを伝えられれば普通少しぐらいは揺らぐものなのかもしれないが、しかし紗希はバルトの感情の扱いに困っていた。

愛というのは物語だから輝く。なによりこれはバルトとセレスティーナの物語なのだから間違えて欲しくない。

「……いっそ絵を飾ったらどうですか?」

紗希がポツリと零すと、先ほどまで逃げるように書類と向き合っていたバルトが顔を上げた。

それから先を促すような視線が向けられる。

「窓の代わりに絵を?」

「はい。構造上無理なら本物でなくても良いのかなと。大きな絵画などあれば閉塞感も和らぎませんか?」

想像しているのかバルトの瞳がゆったりと瞬いた。

「……なるほど」

「あとはその絵が時刻に合わせて色や景色が変わると良いですよね。時間を気にしない魔族の方々でもとっつきやすいかもしれませんし」

そんな魔法があれば、だが。

「いいですね。出来ますよ、やりましょう」

バルトは食い付くように言った。
紗希の思いつきは承認の方向で進められるようだ。

であれば話しを戻そうと紗希は双眸を細めた。

「ならこの問題は解決したので、ヴァレリア領行きについて話し合いましょうよ」

するとバルトの羽ペンが再び止まる。
話を蒸し返された事が気に食わなかったようで眉根に深い皺が刻まれていたが、いい加減引くことは出来ない。

何故ならバルトの幸せな結末と同じくらい、ヒロインの存在を見過ごすわけにはいかなかった。

単純に考えて、バルトが魔王城で足止めを喰らっていたのなら、ヒロインの身にも同じことが起きていておかしくない。

改めて考えると嫌な予感がしてならないのだ。

ヒロインとのフラグ回収は勿論だが、バルトのように苦しんでいないか、未完結の物語がどのような影響を与えているか確かめるためにも、まずは彼女の実家であるヴァレリア侯爵領へ向かうべきだろう。

これはバルトの七年を知ったからこそ生まれた感情だ。
しかし、肝心の勇者はこの通り全く乗り気でない。

「そもそも、セレスティーナ・ヴァレリアといえばアデル王国の王太子の婚約者でしょう。聖女様の知る物語の俺の相手がその小娘だとは信じがたいな」

「小娘って……」

確かに正ヒロインであるセレスティーナ・ヴァレリアは十九歳の侯爵令嬢でバルトとは歳が九つ離れている。

だからといって小娘とは如何なものか。

彼女は立派な淑女だ。それに物語において重要な設定がある。

再三のヴァレリア領行きの拒否に痺れがきれた紗希は、ため息を溢すと大博打に出た。

「……セレスティーナさんは、バルトさんの嫌いな転生クソ女の予言から唯一違った動きができる貴重な女性です。小娘なんて言わないでください」

そう、セレスティーナは所謂バグキャラ令嬢なのだ。