エタってしまった小説の世界で、ヤンデレ化した勇者が離してくれません。~聖女と呼ばれ執愛されていますが……読者です!~

霊蟲公に待つように言われ、紗希は転移魔法陣の上に立っていた。

魔法陣にはこの世界の古い言語が刻まれており、記号や数字なども多様して複雑な魔術の構文が記述されているらしい。

そう説明され眺め見るも、相変わら紗希には何かの紋章のような芸術品のようにしか見えなかった。

この足元で光る第一層への転移魔法陣は、霊蟲公曰く、この城で唯一バルトが踏めないため結界代わりになるそうだ。

要するに、此処に居ればバルトは紗希に触れる事が出来ないため拉致して連れ出したのだ。

大袈裟だと返したが、押し問答するにはこれぐらいの壁がないとバルトは強引に紗希を捕らえ監禁すると言われたので、真偽を確かめるべくひとまず今は霊蟲公言葉に大人しく従っている状況だった。

「ーー聖女様ご自身できっちり問い詰めてくだされ。魔王様は何もかも信用しておりません……なにせ仲間に見捨てられ、誰も魔王様をこの城から救出しようとしなかったのですから無理もない」

その言葉に、紗希は昨日の会話を思い出した。バルトに仲間はどうしたのか聞いた時、明らかに空気が変わったのは、やはりこのせいか。

バルトの反応からして、なにかあったのだろうと薄々勘づいていたが、改めて事実として聞くと考えさせられるものがあった。

監禁疑惑も含めて、霊蟲公の言うようにもう一度ちゃんと確認した方が良いのかもしれない。

紗希はひと呼吸置くと頷いた。

「分かりました。先に一つ聞いてもいいですか?」

「もちろん」

「では……魔族の方々が一年前にバルトさんを魔王に認めたという話は聞きましたが、それまでは対立していたんですよね?今は皆さん慕っているように見えますが、どうしてですか?」

すると霊蟲公は眉間の皺を深く刻んだのち肩をすくめた。

「当時は勇者の排除を目的に、前魔王レギオスが討たれってからは仇討ちという名の時期魔王の継承権争いでバルトレッド様を追い回しておりました」

霊蟲公曰く、次の魔王を決めるため階層の管理者はこぞってバルトを捉え、殺したという。しかし凄惨な死を与えようともバルトは復活した。

「いや……あれは復活というより復元という方が正しいでしょうな。飛び散った肉片は集まり、焼いても溶かそうとも修復されてゆくのです」

その復元速度は死迎える度に向上し、そしてバルト自身も城の管理者達と対峙することで力をつけていったという。

「もはや人ならざる存在となったのです。魔王様はゴキブリよりもタチの悪い魔物でございます。対立したとしても、我々の方が消滅する可能性が出てきましてな……管理者全員が魔王と認めるようになった」

その経緯に、紗希はバルトが魔王を嫌がる理由が少し分かった気がした。