――――終電に揺られながら、早乙女紗希はまばらに通り過ぎてゆく街の灯りを眺めていた。
地方の都心部で雑貨店を経営していた祖父母が他界してはや二年。
大学を卒業してから勤めていた東京の会社を辞めて店を継ぎ、今は電車で一本の距離にアパートを借りてそこから通っている。
実のところ店は三階建てで、二階と三階が住居となっていた。けれど懐かしい匂いが残る場所は寂しい気持ちになる。そのためあえて通いを選んでいた。
最終電車に駆け込むことが出来たのは幸いだった。
紗希は呼吸を整えるのにしばらく車窓を眺めてから、首に下げていたスマホストラップに触れた。
メールと翌日の天気予報をチェックし、それから店舗のSNSを更新する。そこまでのルーティンを終えてから、ふと思い出してWEB小説のポータルサイトを開いた。
更新される気配がないけれど、妙に続きが気になって定期的に確認してしまう、そんな小説が一つあるのだ。
タイトルは『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』。
サクッとスッキリざまぁ溺愛系を装った、愛憎塗れるじれじれ展開の物語だ。
たまたま新着更新で見かけ、好みの雰囲気につられて追いかけていたのだが、何年か前に作者がぱたっと執筆を止めてしまっていた。
そう、これはいわゆるエタった小説なのである。
忙しいのか、筆が折れてしまったのか……大学時代は紗希も趣味で書いていたので色々な憶測が巡っては、まぁいつか続きが読めたらいいなと気長に待っていた。
更新されていればラッキー、止まったままなら残念。それぐらいの感覚で。
――さて、今日はどうでしょう?
タイトルを押す瞬間は少しだけドキッとする。
紗希はこの瞬間が好きだった。
更新チェックは、アイスの当たりくじを確認する時の小さな高揚感に似ている。
ハズレたからといってその日の気分を大きく左右するようなものではないけれど、きっと更新されていれば歓喜するだろう。そんな感覚なのだ。
結果は……――残念。また今度。
例の小説は更新されていなかった。
それならば、と他の小説を掘り当てるため検索マークに触れてみたが……この日はいつもと違った。
虫眼鏡の印に指が触れたと同時に眩い光が紗希を包み込んだのだ。
「――言っておくが僕は知らないぞ。まったく魔力の消費が激しすぎる……200年は寝るから、絶対起こすなよ」
謎の美丈夫によって口付けられ慄いていると、近くに居たらしい少年が不機嫌そうに片手をひらつかせ背を向けた。
その背には蝙蝠のような羽がついており、よく見ると頭部には角まであった。
地方の都心部で雑貨店を経営していた祖父母が他界してはや二年。
大学を卒業してから勤めていた東京の会社を辞めて店を継ぎ、今は電車で一本の距離にアパートを借りてそこから通っている。
実のところ店は三階建てで、二階と三階が住居となっていた。けれど懐かしい匂いが残る場所は寂しい気持ちになる。そのためあえて通いを選んでいた。
最終電車に駆け込むことが出来たのは幸いだった。
紗希は呼吸を整えるのにしばらく車窓を眺めてから、首に下げていたスマホストラップに触れた。
メールと翌日の天気予報をチェックし、それから店舗のSNSを更新する。そこまでのルーティンを終えてから、ふと思い出してWEB小説のポータルサイトを開いた。
更新される気配がないけれど、妙に続きが気になって定期的に確認してしまう、そんな小説が一つあるのだ。
タイトルは『王太子と異世界女に二度裏切られた私は、悪辣勇者に溺愛される』。
サクッとスッキリざまぁ溺愛系を装った、愛憎塗れるじれじれ展開の物語だ。
たまたま新着更新で見かけ、好みの雰囲気につられて追いかけていたのだが、何年か前に作者がぱたっと執筆を止めてしまっていた。
そう、これはいわゆるエタった小説なのである。
忙しいのか、筆が折れてしまったのか……大学時代は紗希も趣味で書いていたので色々な憶測が巡っては、まぁいつか続きが読めたらいいなと気長に待っていた。
更新されていればラッキー、止まったままなら残念。それぐらいの感覚で。
――さて、今日はどうでしょう?
タイトルを押す瞬間は少しだけドキッとする。
紗希はこの瞬間が好きだった。
更新チェックは、アイスの当たりくじを確認する時の小さな高揚感に似ている。
ハズレたからといってその日の気分を大きく左右するようなものではないけれど、きっと更新されていれば歓喜するだろう。そんな感覚なのだ。
結果は……――残念。また今度。
例の小説は更新されていなかった。
それならば、と他の小説を掘り当てるため検索マークに触れてみたが……この日はいつもと違った。
虫眼鏡の印に指が触れたと同時に眩い光が紗希を包み込んだのだ。
「――言っておくが僕は知らないぞ。まったく魔力の消費が激しすぎる……200年は寝るから、絶対起こすなよ」
謎の美丈夫によって口付けられ慄いていると、近くに居たらしい少年が不機嫌そうに片手をひらつかせ背を向けた。
その背には蝙蝠のような羽がついており、よく見ると頭部には角まであった。



