それから数日が経ったが、俺の日常に劇的な変化なんて起きていない。
隙を見て榊が話しかけてくることはあっても、俺の方から声をかけることは皆無だ。
大抵の休み時間、榊は一軍の派手なやつらに連行されて、教室の入口あたりで優雅に周囲の会話をいなしている。俺は俺でたけぴーたちと駄弁っているわけで、お互い干渉し合うこともない。
だからといって、放課後にどこかへデートへ行くこともない。というか、一緒に帰ったことすらない。
付き合う、って……マジでまだ続いてんのか?
時々そんな疑問が頭をかすめるけれど、わざわざ確認するのもめんどくさい。
俺はただ、流されるままに過ごしていた。
「今日の英語の小テスト、マジで終わったわ。帰国子女しか無理だろあんなの」
休み時間、俺の席へやってきたたけぴーが大袈裟に頭を抱えて嘆く。
「たけぴーいつもそれ言ってんじゃん。ゲリラじゃなかったんだし勉強すればよかったのに」
「ひでえ! 鳴海またノー勉で挑んだのか?」
「あたりまえ。俺のコミュ英の教科書、借りパクされて行方不明だし」
「は? えぐ。まだ二年始まったばっかじゃん。てか、それで毎回学年上位なのバグだろ」
「そこ、褒めるとこだから。もっと敬えよ」
たけぴーたちがわっと笑う。
明日には忘れてしまうような中身のないやり取り。こうして流れに身を任せて適当に過ごしているのが一番楽だ。
たけぴーたちと笑い合いながら、ふと刺さるような視線を感じて元を辿る。
――ああ、まただ。
榊は一軍の輪の中心にいても、時折、俺の方へ視線を飛ばしてくる。
それが何を意味するのか深く考える気にはなれないけれど、視線がぶつかると、あいつの口元がほんの少しだけ柔らかく緩む。
普段はそれだけで終わるのだが――今日の榊は違った。
榊は迷いのない足取りで輪を抜けると、そのまま一直線にこっちへ歩き出していた。
躊躇いなんて一欠片もない。周りが「え、そっち行くの!?」とざわめきだすのも無視して、真っ直ぐに俺の方へ。デジャヴでしかない光景だ。
「鳴海」
当たり前のような顔をして、俺の机の前で足を止める。
……いや、席が隣なんだから自分の椅子に座ればいいだろ。なんでわざわざ俺を上から覗き込むポジションに立つのだろうか。顔面国宝の圧がすごいから本気でやめていただきたい。
さっきまで榊の立っている位置にいたはずのたけぴーは、いつの間にか三歩くらいサイドステップを踏んでいた。壁にめり込みそうな勢いで退避しながら、俺と榊を交互に見て目を丸くしている。
「……なぁ、榊って、お前に何の用あんの?」
それは俺の方が聞きたい。あっちにいる方が楽だろうし、お似合いだし、立ち位置としても正しい。
そんな俺の思考をぶった切るように、目の前の長身が動いた。
榊はすっと背をかがめ、俺の耳元に顔を近づけて――。
「今日、一緒に帰る?」
俺だけにしか届かない、普段より低くて甘い声で囁かれた。あまりの近さに耐えかねて、俺は榊から離れるために椅子の背もたれに体重を預けた。
決して動揺したわけではない。ただちょっと声が良すぎてビビっただけだ。
クラス中の視線が一斉に突き刺さってくるのが分かる。が、全力でスルーだ。
「いーよ」
断る理由も、今日の予定もない。一軍の気まぐれに付き合うだけだ。それでこいつが満足するなら、それでいい。
隙を見て榊が話しかけてくることはあっても、俺の方から声をかけることは皆無だ。
大抵の休み時間、榊は一軍の派手なやつらに連行されて、教室の入口あたりで優雅に周囲の会話をいなしている。俺は俺でたけぴーたちと駄弁っているわけで、お互い干渉し合うこともない。
だからといって、放課後にどこかへデートへ行くこともない。というか、一緒に帰ったことすらない。
付き合う、って……マジでまだ続いてんのか?
時々そんな疑問が頭をかすめるけれど、わざわざ確認するのもめんどくさい。
俺はただ、流されるままに過ごしていた。
「今日の英語の小テスト、マジで終わったわ。帰国子女しか無理だろあんなの」
休み時間、俺の席へやってきたたけぴーが大袈裟に頭を抱えて嘆く。
「たけぴーいつもそれ言ってんじゃん。ゲリラじゃなかったんだし勉強すればよかったのに」
「ひでえ! 鳴海またノー勉で挑んだのか?」
「あたりまえ。俺のコミュ英の教科書、借りパクされて行方不明だし」
「は? えぐ。まだ二年始まったばっかじゃん。てか、それで毎回学年上位なのバグだろ」
「そこ、褒めるとこだから。もっと敬えよ」
たけぴーたちがわっと笑う。
明日には忘れてしまうような中身のないやり取り。こうして流れに身を任せて適当に過ごしているのが一番楽だ。
たけぴーたちと笑い合いながら、ふと刺さるような視線を感じて元を辿る。
――ああ、まただ。
榊は一軍の輪の中心にいても、時折、俺の方へ視線を飛ばしてくる。
それが何を意味するのか深く考える気にはなれないけれど、視線がぶつかると、あいつの口元がほんの少しだけ柔らかく緩む。
普段はそれだけで終わるのだが――今日の榊は違った。
榊は迷いのない足取りで輪を抜けると、そのまま一直線にこっちへ歩き出していた。
躊躇いなんて一欠片もない。周りが「え、そっち行くの!?」とざわめきだすのも無視して、真っ直ぐに俺の方へ。デジャヴでしかない光景だ。
「鳴海」
当たり前のような顔をして、俺の机の前で足を止める。
……いや、席が隣なんだから自分の椅子に座ればいいだろ。なんでわざわざ俺を上から覗き込むポジションに立つのだろうか。顔面国宝の圧がすごいから本気でやめていただきたい。
さっきまで榊の立っている位置にいたはずのたけぴーは、いつの間にか三歩くらいサイドステップを踏んでいた。壁にめり込みそうな勢いで退避しながら、俺と榊を交互に見て目を丸くしている。
「……なぁ、榊って、お前に何の用あんの?」
それは俺の方が聞きたい。あっちにいる方が楽だろうし、お似合いだし、立ち位置としても正しい。
そんな俺の思考をぶった切るように、目の前の長身が動いた。
榊はすっと背をかがめ、俺の耳元に顔を近づけて――。
「今日、一緒に帰る?」
俺だけにしか届かない、普段より低くて甘い声で囁かれた。あまりの近さに耐えかねて、俺は榊から離れるために椅子の背もたれに体重を預けた。
決して動揺したわけではない。ただちょっと声が良すぎてビビっただけだ。
クラス中の視線が一斉に突き刺さってくるのが分かる。が、全力でスルーだ。
「いーよ」
断る理由も、今日の予定もない。一軍の気まぐれに付き合うだけだ。それでこいつが満足するなら、それでいい。



