誰の特別にもなれなかった俺と、愛が重すぎる一軍王子

 「なあ、壱星って……すっごい一途?」

 ジュースを買うことも忘れて、どちらからともなく足を向けていたのは、廊下の端にある階段前だった。ここから、すべてが始まったんだ。

 「晴にだけ、ね」

 またそんなこと言って。でも、ガチなんだよな。その柔らかくて甘い笑顔が、俺だけに向けられるものだということも。

 「……じゃあ、今まで付き合った人にはもっとドライだったわけ?」
 「付き合ったの、晴が初めてだよ」

 ──は? いや、さすがにそんなことはないよな。

 「……あー、男とは、ってことな」
 「ううん。誰かと付き合うこと自体が初めて」
 「ガチ?」
 「興味なかった」

 あり得るのか、そんなこと。ちゃんと好きになった人としか付き合わないなんて、俺とは正反対だ。誠実さに圧倒されて、言葉を失ってしまう。
 そんな俺に、壱星は少しだけ唇を尖らせ、拗ねたような、困ったような顔で笑った。

 「……なんでそんなに驚くの」

 そんな顔もするのかと思うと、なんだか胸の奥が妙に揺さぶられる。
 余裕がなくたっていい。過保護で世話焼きなのに少し子供っぽいところがあったり、ちょっとくらい意地悪だっていい。
 これからはもっといろんな壱星を知っていきたい。少しずつでもいいから、これから続く日々も壱星の隣で、俺だけが知っていければいい。

 黙り込んだ俺に、壱星は繋いだ指をさらにぎゅっと握り直して、まっすぐ目を見つめてきた。

 「だから、晴が俺の最初で最後の恋人」

 あまりに真っ直ぐな言葉に、一瞬息が詰まる。

 「……重いっすね」
 「嫌?」
 「……好き」

 って、俺、今なんて言った!?
 ポロッと零れ落ちた本音に、言ったそばから顔が爆発しそうになる。
 たまらず目を逸らそうとした瞬間には、ぐっと強い力で引き寄せられ壱星の胸の中にいた。

 「……晴のこと、好きすぎて怖い」

 その声は切なく震えていた。でも、大丈夫だよ、俺もだから。
 今まで逃げてばかりで伝えられなかった分も、これからは全部言葉にして伝えていきたい。

 「俺も……壱星と同じくらい、大好きだから。だからこれから先もずっと一緒にいよう」

 どれだけ言葉を尽くしても、俺の中にある大きくなったこの気持ちを伝え切るには足りない気がしたけれど。
 抱きしめてくる腕の力がいっそう強くなった瞬間に、ちゃんと伝わったんだって安心した。

 「……ほんと、大事すぎる」

 耳元で切ないくらい甘い声が落ちた。
 俺の肩にぐりぐりと頭を押し付けてくる壱星の髪に手を伸ばし、ゆっくりとなでる。

 好きになってくれたのも、諦めずに待ち続けてくれたのも、一番に選び続けてくれているのも。その全部が壱星でよかったと心から思う。
 俺も壱星を大事にしたい。壱星が、俺をこんなにも愛して、大事にしてくれるみたいに。
 胸の奥から溢れてくるのは、もう隠しようもない愛おしさだ。

 「晴」

 名前を呼ぶ壱星と至近距離で視線が混ざり合う。
 その頬に手を添え、今度は俺から唇を重ねた。